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第八章 真なる聖剣

794 遠い地の残り火

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「くそがっ!」

 さっき殴り飛ばした奴とは別の男が、帆柱の上から剣を逆手に降って来た。
 戦いが終わった油断を狙ったつもりなんだろうけど、殺気がバレバレなんだよ!

「私が」

 聖騎士がそう宣言して、甲板を蹴ると、帆柱を足場に、横っ飛びに飛び降りて来た男に蹴りを入れる。

「ゲハッ!」

 斜めに吹っ飛んだ男を更に踏みつける聖騎士。

「さすが賊、卑怯な戦い方は得意のようだな」

 高らかにそう言って、鋲の付いたブーツで得物を持つ男の手を踏み砕いた。

「ぎゃああああっ!」

 あー、そいつの戦い方が気に入らなかったのですね。
 思わずこっちまで痛くなるような攻撃の仕方に肝が冷える。
 そして攻撃に足しか使ってねえぞ。

「お前もああなりたい?」

 さきほど俺が殴り飛ばした男も、ふらふらしながら立ち上がろうとしていたので、近くに行って、鞘入りの剣で背中をトンと突いてやった。
 すると「ひっ」と、一声発して気絶する。
 嘘だろおい。
 ほんとうに鞘で軽く突いただけだぞ?

「そ、そいつ等は、いつも神を冒涜してる奴等で、俺達とは関係ねえんだ! なまりがひでえし、いつも俺達を馬鹿にしやがる」
「た、確か国護りの神ってのを信仰してるとかで……」

 甲板に伏せて祈りを捧げていた男達が口々に、こいつらと自分達は無関係だと言い始めた。
 待て待て、……国護りの神?

「東方人か?」

 気絶した男を掴んで顔を見るものの、見た目には西も東もそこまで差はない。
 まぁきっと祖先は同じなんだろうな。

「クルス、そいつ意識はあるか?」
「はい。むしろ痛みで気絶など出来ませんよ」

 さらっと言った。
 ちょっとお前怖いぞ。

 俺は気絶したほうの男を本人のベルトで縛り上げる。
 そこで気づいたんだが、こいつの服装は、確かに東方風だな。
 繊細な作りのボタンを使ったシャツを着ている。

 そして、そのまま放置して聖騎士のほうへと近づく。

「おい、お前」
「けっ、野蛮人……め」
「どっちが野蛮人だ。東方では俺もいろいろ腹に据えかねることを見聞きしているんだ。てめぇ、そいつ等と関わりがあるようなら、ただで済むと思うなよ」

 痛みに脂汗を垂らしながら口だけは粋がっていた男の服装もやはり東方風だ。
 俺の言葉に、東方人らしき男はぎょっとしたような顔になる。

「き、貴様何を知ってる」
「いろいろさ。お前、北冠の人間か?」

 そう聞くと、まるで地獄の鬼に自分の名前を呼ばれたかのような顔をしてみせた。
 こりゃあ間違いないか。

「師匠どういうことだ?」
「邪神は滅びても、邪神の信者は滅びないということかな? まぁまだわからんが」

 東方人らしい男は、それ以上ひと言もしゃべらないといった顔で口を閉じている。
 聞き出す方法はいくらでもあるが、とりあえずは全部後だな。

「こいつも縛っておくか」
「いてぇ! やめろ! ぎゃあああっ!」

 本人のベルトで腕を縛ろうとしたら、どうもアバラと手首が折れているらしく、むちゃくちゃ痛がった。
 仕方ないので、本人のシャツを口に突っ込んで縛り上げる。

「さて……」

 俺は勇者に視線で合図をした。
 うなずいた勇者は口を開き、魔力の籠もった声で宣言する。

「この船に乗る賊共に告げる! 協力的な者は罪を減じるように口を利いてやろう。だが、抵抗する者は、それなりに痛い目に遭って、邪魔にならないところに縛って転がしておく。どっちを選ぶ?」

 甲板に伏せて祈りの言葉を口にしていた者は当然のように勇者に恭順を誓い、そうでない者も、抵抗しないので、乱暴はしないで欲しいと言って来た。
 まるで俺達が酷い乱暴者のような物言いだな。

 恭順を誓った者は操船を担当してもらい、協力はしないものの抵抗しないと約束した連中は、狭い船室に閉じ込めて外から板を打ち付けておいた。

「わっしらはもともと漁師で、海賊に船を襲われて、仲間になるか死ぬかと言われて仕方なく、手下になっていたんでさ」

 恭順を誓った男達は、そもそも乗っていた船を襲われて、仕方なく仲間になった者達らしい。
 勇者は自分達を救いに来てくれたと信じて疑っていなかった。
 事情は気の毒だが、一応賊になっていたので、それなりの裁きは受ける必要があるだろう。
 だがまぁ死罪は免れるかもしれないな。

「とりあえず一度カリオカに戻ってくれ。さらわれた人達もいるしな」
「わかりました。……あの」
「ん?」
「ダスターさまは、勇者さまのお師匠さまって聞きました。御身に触れてもいいですか?」

 ぎょっとする。
 勇者や聖女の体に触れたり、髪や服の一部を持っているといいことがある的な、謎の験担げんかつぎがあることは知っていたが、まさか自分までがそれに巻き込まれることになろうとは思いもしなかった。

「おい。俺は勇者や聖女のように神にしるしをもらった人間じゃないぞ。普通の冒険者だ」
「ご謙遜を」

 そう言って、ひげもじゃのむさ苦しいおっさんが俺の服の裾を手にして伏し拝む。

「やめろ!」

 思わず引っ張った。
 メルリルがいつも握っている服の裾を握るんじゃねえよ。
 しかしおっさんが涙目になるのを見て、ため息を吐いた。

「手を握るぐらいはいいぞ」
「ありがとうございます」

 右手に両手で触れて伏し拝まれる。
 最悪の気分だった。
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