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第八章 真なる聖剣

762 魔獣公の挙式 1

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 ロボリスの打った聖剣も、メイサーの称号も、お披露目は式典で、だ。
 俺達は、その日のために着々と準備を行った。
 そんななか、最も不本意な準備として、衣装合わせというものがあった。
 俺には関係ないとたかをくくっていたら、「そんな訳ないだろ?」と、久々に会ったカーンがニヤリと笑ったことを絶対に忘れない。
 あの野郎、面白がってわざわざ見に来やがって! 覚えてやがれ!

 さて、俺にとって不本意なこともいろいろあったが、忙しく過ごすうちに、とうとう、国中に公布される一大イベントとなった、魔獣公の挙式が開幕したのだった。

「主役はお前ら。特に、メイサーあんただからな。気合入れていけよ?」

 式典前の控室に行く。
 お互いにてんてこ舞いだったここ数日が嘘のように、今このひととき、周囲は静まり返っている。

「任せな。敵が大きければ大きいほど、燃えるってもんだよ」
「俺は、一度も敵に背を向けたことがねえのが自慢なんだ。どんとこいだ!」

 頼もしいんだか何だか、違う気合いを入れているんじゃないか? と不安になる二人だった。
 だが、とりあえずビビってはいない。
 二人とも、不可能だと言われることに挑むのが大好きだからな。
 このぐらいの勢いがあったほうがいいだろう。

「馬鹿か? 敵なんていやしねえよ。お前らはただ、何を言われても堂々としていればいいだけだ」

 俺が無理やり納得しようとしていたら、勇者が二人にツッコミを入れた。
 遠慮のない奴である。

「ふふっ、坊や、本当にかわいいわね。あたしに吠えかかるなんて、さすがは勇者さま」
「はぁ? 坊主誰にものを言ってるんだ? こますぞ、ごらぁ!」
「やめろバカ共!」

 動くものを見たら吠えかかる猟犬か? まったくこいつらと来たら。
 ふと気づくと、全員が俺を見ていた。

「なんだ?」
「いや、あんたは誰相手でもあんたなんだなって思ってさ。おかげで、どんな場所でどんな名前になったとしても、あたしはあたしだって思えるよ」
「何当たり前のこと言ってるんだ?」

 そう言うメイサーの装いは、凄まじいのひと言だった。
 もともと壮絶な美女だったんだが、豪奢な衣装と相まって、生まれついての女王のようにすら見える。
 正直に言うと、カーンのほうが位負けしているぐらいだ。
 ひと言で言い表すと、美女と野獣だな。

「メイサーの言う通りだ。お前がいてくれると、これからやろうとしている、世界に対するごまかしも、大したこっちゃねえ気がするからな。いや、なによりも、ダスターお前がいなきゃ、俺はこの世で一番大事なものを、永遠に失ったままになるところだった。こんなときのどさくさだから言うが、本当に感謝している。俺に出来ることで、お前の手助けになることがあれば、いつでも言ってくれや」

 いつもは傍若無人なカーンが、何を思ったかしんみりと言った。
 これはあれだな、結婚前に男が罹るという病気だ。
 ちょっとセンチメンタルになるとかいう。

「安心しろ。この貸しは、墓まで持っていって、あの世でさんざんこき使ってやるから」
「いや、せめて今世で収支を合わせてくれよ」

 顔を見合わせて笑い声を上げた。

「そうだ、師匠のおかげだ。感謝しろ」
「本当に、お師匠さまがいらしたおかげですね。そして、巡り合わせには神の御意思が宿ると言います。そう考えれば、わたくし達とお師匠さまとの出会いも、神の御意思なのでしょう」

 と、勇者と聖女。
 お前達の頭のなかの俺は、どうなっているんだろうな。
 たまに、お前たちの思い描く師匠像を見てみたい気がする。

「私等は、ほとんど何も出来なくておろおろしてただけだから、あれだけど。ほんと、ダスター。あんた凄いよ」
「ダスター殿は、おわかりでしょうか? 今この瞬間は、おそらく後世に語られるような場面となることを」

 モンクが珍しく俺を褒め、そして聖騎士が意味深なことを言った。

「後世って大げさだな。まぁ、確かに聖剣を偽るってのは前代未聞かもしれんが」

 そう考えてしまうと、ちょっと冷や汗が出る心地だ。
 まぁやるしかないんだが。

「そうではありません。聖者さまと大公陛下がお認めになったとしたら、それは揺るがない事実、いえ、史実となるのです。ダスター殿、あなたは今、歴史をお創りになったのですよ」

 おいおい、大丈夫か、雰囲気に酔っちゃいないか?

「クルス。まさかとは思うが酒とか飲んでないよな?」
「まさか。ですが、そうですね。私も、この雰囲気に酔っているのかもしれません。逆に平常心のダスター殿はさすがです」
「まぁ褒めてくれるのはありがたいけどよ。あんまり持ち上げると、落とされたときに痛いから、勘弁しろよ?」
「ダスターが凄いのは当然。私、ずっとそう言ってたでしょ?」

 まるで、どこかの御令嬢のように麗しく着飾り、本格的に化粧を施されたメルリルが、掴んでいた俺の腕に、ギュッと体を押し付けて言った。
 ふわっと、メルリルのいつもの香りに優しい花の香りが混ざった、芳しい香りが鼻腔を刺激する。
 熱く柔らかい身体の感触が、俺自身のものと重なって、思わず心臓が高なった。

 いやいや、こんなときに何考えてるんだ、俺。

「そうだな。ありがとう、メルリル」
「ピャッ!」

 今回は、豪華な肩飾りのようなふりをして肩に止まっているフォルテが、まるで自分が褒められたかのように自慢げに胸を張った。
 う、俺の衣装、派手すぎないか? なんでこうなったんだろう。

 自分の姿を意識すると、恥ずかしさで死にそうになるので、すぐに意識を切り替えた。
 勇者達は、そもそも謁見などのとき用の正装があるので、今回衣装を仕立てる必要がなかったので、そこまでの変化はない。
 まぁ俺としては、勇者達の正装は、大森林の迷宮に駆けつけて来てくれたとき以来かな? ってぐらいだ。

 って言うか、勇者のマントのところにいる若葉が、かなり大きくなっているんだが、それ、マント飾りでごまかせるのか?
 キラキラしていて、生き物のようには見えないから、それが唯一の救いか。
 よくよく見たら、ちょっと形も変わっているような……。

「皆様、勇者さま御一行用の控えの間にお入りください」

 そんなふうにぐだぐだとやっていると、ホルスが部屋に姿を現し、俺達を呼びに来た。
 さて、正念場だな。
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