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第八章 真なる聖剣

746 伝説を鍛えし者

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「マジか!」

 俺は驚いてテーブルの上に鎮座している銀色の金属のかたまりをマジマジと見た。
 魔法真銀ミスリルと言えば、伝説の金属と言われている。
 なんでも、魔法剣と呼ばれる剣には、必ずわずかにでも魔法真銀ミスリルが使用されているらしい。
 一応鉱物の一種とされてはいるが、地面のなかの鉱脈から見つかったことはないと言う。
 迷宮でのみ発見されると言われていた。

「ほう、これがあの有名な魔法真銀ミスリルか。なるほど、銀に似ているな」

 勇者が感心したように言った。
 持ち込んだのはお前だろうに。

「まぁ美しいものですね」

 聖女も近寄って嬉しそうに眺めている。
 というか、全員が近寄って来たな。

魔法真銀ミスリルの名前は私達の一族にも伝わっています。小さな一粒でもあれば、強力な結界を張れるそうです」
「ほう」

 メルリルの言葉からすると、森人は、魔法真銀ミスリルを武器としてではなく、結界の触媒として使っていたようだ。

「ということは、素材については解決したんだよな」

 勇者が満足そうにうなずいた。
 もはや全て解決したような安心した様子だ。

「いやいやいや、言っただろうが。俺は、ナイフを作ったり農具を直したりする程度の鍛冶屋だって。魔法真銀ミスリルなんてもの扱える訳がないだろ」
「がんばれ」

 固辞するロボリスに、勇者が何気に酷い。
 あ、ロボリスが泣きそうだ。

「まぁ待て」

 さすがに気の毒になって、俺は勇者を諫めた。

「出来ないというものを無理にやらせるのはよくない。それに、今回は単に見せるためのガワがあればいいんだ。魔法真銀ミスリルで刃を作る必要はない」

 俺がそう言うと、なんとなく俺の背後側に移動したロボリスが、少し涙目でうなずいた。
 いや、髭面の男が、涙目になっても可愛くもなんともないぞ。
 見苦しいだけだ。

「そ、そうだぞ。それに、魔法真銀ミスリルを鍛えるには、特別な窯が必要になる。平野人の鍛冶師で、扱える者は、限られているはずだ」

 ロボリスが気になることをポロリとこぼした。

「平野人ではということは、大地人なら扱える者は多いということか」
「そりゃあそうだろ。俺は半端者だが、大地人の血が入っているおかげで、遅れた修行でも鍛冶師の免許皆伝まで行けたんだ。本物の大地人なら、鉱物に対する親和力はとてつもないって話だぞ」
「あー。なるほど」

 俺はそう言えばと、思い出す。
 帝国の、冶金ギルドの連中は、特殊な技術力を持っていて、そのせいで東方の国に狙われたんだったな。

「いや、師匠」
「……師匠?」

 勇者が気を抜いて、いつもの呼び方で呼びかけて来た。
 それを聞きとがめたロボリスが、俺を未知の生物でも見るような目で見やがった。

「勇者殿は、年上に対する礼儀として、ああいう呼び方を時折するんだ。気にするな」
「礼儀……だって?」

 ロボリスは厚顔不遜を絵に描いたような勇者を疑わしい目で見る。
 くそっ、話を逸らさねば。

「そう言えば、勇者殿・・・。さっき何か言いかけていませんでしたか?」

 ギロリと睨みながら言うと、勇者は慌てたように、わざとらしく微笑んだ。

「ドラゴンの素材を扱える鍛冶師なら、魔法真銀ミスリルも扱えるんじゃないかと」
「あ、ああ」

 そう言えば、アドミニス殿の使っていた窯は、ドラゴンの心臓を利用したものだったか。

「ロボリス、どうだ?」

 振り向くと、ロボリスはまたもやぽかーんと口を開けて固まっていた。

「おい?」

 呼びかけると、俺に掴みかかって来た。

「ドラゴン素材と言ったか!」
「お、おう」
「ほ、本当に、ドラゴンの素材を扱える鍛冶師がいるのか?」
「ま、まあな。ほら、これを見てみろ」

 大興奮のロボリスに、俺はドラゴンの鱗で作ったナイフを見せてやる。
 ドラゴンの爪で作った星降りを見せるのは、さすがにヤバいが、鱗なら、まだ流通があるからな。

「おおっ! これはまさしく! し、しかも、この仕事の美しさ……研ぎが神技の域に達している。この拵えも、細工師に発注したものではないな。ナイフの刃と同じ、鍛冶師の美意識が感じられる。今まで見た、どんな鍛冶師の作よりも、力強くありながら、気品に溢れている。……ううむ」

 さすがは同じ鍛冶師同士、感じるところがあるようだ。
 小ぶりのナイフを宝物のように捧げ持ち、うなり声を上げている。

「ど、どうだろう? 俺は、その、神剣の偽物を鉄を使って、死力の限りを尽くして作ろう。その代わり、これを打った鍛冶師を、紹介してはもらえないだろうか?」

 俺は思わず聖女を見た。
 聖女も困ったように俺を見返す。

「どういうことだ? まさかお前、その鍛冶師に弟子入りしたいって言うんじゃないだろうな?」
「違うんだ。俺じゃねえ。実は俺の長男なんだが、鍛冶師として稀有の才能があると、俺は見ているんだ。いわゆる先祖返りでな、大地人の能力をかなり高い基準で備えているようなんだ」
「なるほどな。でも、もう鍛冶師の弟子として働いているんだろ?」

 先ほどの話を思い出して聞く。

「そうなんだが。ここらの鍛冶師じゃあ、俺と似たり寄ったりで、あいつの真価を引き出せねえ。まさに宝の持ち腐れよ。おりゃあ、親として、あいつの才能を伸ばしてやりてえ」
「なるほどなぁ」

 俺は今一度聖女を窺う。
 聖女はこっくりとうなずいてみせた。
 え? 本当に? 大丈夫なのか?

「んー。一応、引き合わせるだけなら出来なくもないが、それ以上のことは出来ないぞ。その鍛冶師、だいぶ偏屈だからな」
「まぁ!」

 俺がそう言うと、聖女が背後で文句を言った。
 聖女にとっては大事なおじい様なので、身内びいきがあるのだろうが、俺からしてみれば、人を避けて城の地下の工房にずっと籠っているようなお人は、偏屈としか表現出来ない。

 いや、もちろん、愛剣を作ってもらったし、城から脱出させてもらった、大恩ある人ではあるんだけどな。
 俺は、腰の星降りを撫でた。

「ありがたい! それでいい。弟子入りってのは、結局は師匠と弟子の間の問題だ。むしろ安請け合いされるよりも、ずっと安心だ」

 あ、ロボリスの奴泣いてやがる。
 さっきまで無理難題を言われていたときには我慢していたくせに、我が子のことでは、泣くのか。

「その代わり、バレないように見せかけの剣をきっちり作ってくれよ」

 なんか話が変な方向に行っちまったが、とりあえず話はまとまったからよしとするか。

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