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第八章 真なる聖剣
735 朝食前に
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「ガフン」『甘くて美味しかった。また食べたい』
「甘いのか……」
甘い結界ってなんだ? フォルテはいったい何で結界を作ったんだ?
「ピャッ!」
フォルテはフォルテで、面倒くさいからもう作るの嫌だと言うし。
「お菓子?」
メルリルがフォルテを撫でながら不思議そうに聞いた。
「ピャウ?」
「違うんだ」
違うらしい。
そりゃあそうだ。
菓子で結界作る奴がどこにいるよ。
そもそも若葉の感覚が俺達とは全然違うからな。
「ピルルル……ルル?」
「え? 精霊? 私は感じなかったけどなぁ。あ、ああ、そうなんだ」
どうも、前々から思っていたんだが、フォルテの言葉をメルリルは俺よりも詳細に理解しているようなんだよな。
くっ、別に嫉妬なんかしていないからな。
そもそもどっちに嫉妬するんだよ。
「ダスター」
「お、おう」
焦ったように返事をした俺に、メルリルは少し不思議そうな顔をしたが、にっこりと笑って教えてくれた。
「フォルテが、あれは私が風の精霊を固定するように、光を固めたって言ってる。一定の場所を巡回させるのと、固めるのは違うってわかってないみたい」
「なるほどなぁ」
うなずいてみたものの、意味を理解すると、今度は混乱に陥った。
光を固めるってなんだ?
あれ、確かに結晶みたいな物質だったよな。
俺、もしかして夢を見ていたのか?
光には形などない。
形のないものをどれほど固めたとしても、結晶化するはずがない。
と、考えて、そう言えばと思い直した。
「そうか、魔力も魔結晶になるし、不可能ではないのか?」
「また師匠が考えにふけっている。ああやってこの先に起こることを見通して、俺達を導いてくれるんだぞ」
「こら、アルフ、適当なことを言うな!」
俺がたまに考え込むと、変に勘繰られる。
というか、勇者は俺に夢を見すぎだと思う。
「さすがです、お師匠さま!」
「ミュリア。違うからな。アルフが大げさに言っているだけだから」
信じやすい聖女にキラキラとした瞳で見られて、気恥ずかしい思いを味わう。
後ろで笑っているモンクと聖騎士、わかっているならちゃんと本当のことを教えておこうぜ?
早朝の鍛錬を終えた俺達が、そろそろ食事がどうなっているか聞きに行こうと思っていたところに、扉がノックされた。
「おはようございます。お食事のご用意が出来ていますが、食堂で召し上がられますか? それともこちらにお持ちしましょうか? 食堂には、ご当主さまと、奥方さまがいらっしゃいますが」
ホルスだ。
相変わらず気が利くな。
「わかった報告もある。食堂に行こう」
全員に視線で問いかけると、うなずきを返されたので、食堂に行くことを伝えた。
とりあえず、迷宮で見たもの、得たものについて、どう報告するかは、俺達の間で共通認識が出来ている。
後はカーン達との話し合いだな。
「報告は任せるぞ、アルフ」
このパーティのリーダーはあくまでも勇者だ。
その形は崩せない。
「もしものときは魔法を使ってもいいか?」
「……何をどうしたら、食堂で朝食を食べながらの報告に、もしもが起きるんだ?」
勇者がとんでもないことを言い出したので、とりあえず真意を聞いてみる。
「俺はどうもあいつらが嫌いだ。師匠の元仲間だからって、親し気にしすぎるし、偉そうだ」
「いいか、アルフ。パーティリーダーというものはだな、たとえ気に食わない相手でも、おだてて交渉を有利にするぐらいでないと……あ」
まだホルスがいることを忘れていた。
「僕は、今はあなた方のサポート役です。たとえ主であっても、あなた方のお望みを優先いたしますよ。……というのは、本心ではあるのですが、もっと正直な話、うちのご当主さま達は、少し思い通りにならないことがあったほうがいいんです。不満があるのに何も言わずに頭を下げるような連中ばっかり相手をして来たので、ここの仕事に嫌気が差しているようなので」
「ははぁ、苦労してるんだな、ホルス」
「お労りありがとうございます」
優雅な動作で頭を下げる。
あれだな、二言目にはお前が当主になれとか言って困らせているのかもしれない。
大変だな。
あいつら自由に生きて来たから、領主とか窮屈に感じるんだろう。
俺だったら絶対さっさと逃げ出しているもんな。
その分、カーンは真面目と言えるだろう。
「わかった。少々困らせるぐらいがいいってことか。それなら俺でもなんとかなりそうだ」
勇者が自信あり気に胸を張った。
本当か? 自分で任せておいてなんだが、不安しかないぞ。
食堂では、二人は既に食事を始めていた。
客を待つということが出来ないようだ。
というか、相手が俺達なんで、なめられているのかもしれない。
「おう。先にやっているぞ」
冒険者かよ!
「やれやれ、大公国の偉大な八家、なかでも迷宮都市を治める魔獣公グエンサムは、代々豪放磊落とは聞いていたが。これはまるで、自らが魔獣のようだな」
いきなり勇者がかました。
おい、誰が喧嘩を売れと言ったよ。
報告だよ、迷宮の!
「ああん? おしめも取れてないような青臭い勇者さまにはわからないかもしれねーが、領主ってのは舐められたら終わりなんだよ。ケンカ売ってるなら買うぞ?」
俺は思わず顔を手で覆った。
違う、それは領主の権威とは違う。
冒険者や探索者の面子だ。
「カーン、かっこいい! 先達者の貫禄ってもんを見せてあげなよ!」
メイサーがカーンを煽る。
ふー。
俺は腹の底から思いっきり息を吐き出した。
そして吐いた分を吸う。
「お前等、いい加減にしろよ? 遊びたいならやることやってからにしろ」
静かに、ことを荒立てないようにゆっくりとわかりやすく告げる。
そして微笑み。
笑顔は争いを解決する大きな力だ。
シーンと、部屋の空気が凍り付いた。
「お、おう。そうだな。まずは飯だ。人間腹が減っていると怒りっぽくなっていかん。お前等が来るから俺達も食前酒だけ飲んで、何もまだ食ってないんだぜ?」
「そうそうお腹空いちゃった」
カーンとメイサーが愛想よく告げる。
お前等、やれば出来るじゃないか。
「あ、ああ。せっかく食事にお招きいただいたのに、何も食べないまま主に文句を言うのは非礼だった。許してもらえるだろうか?」
勇者も慌てたように謝る。
最初からそういう態度で臨めよ。
お前等ほんと、世話が焼けるな!
ふと、気配を感じて背後を見ると、ホルスがにっこりと笑って、自らの胸を拳でトンと軽く叩いてみせた。
あれは、よくやったという合図だ。
ほんと、苦労してるんだろうな。
「甘いのか……」
甘い結界ってなんだ? フォルテはいったい何で結界を作ったんだ?
「ピャッ!」
フォルテはフォルテで、面倒くさいからもう作るの嫌だと言うし。
「お菓子?」
メルリルがフォルテを撫でながら不思議そうに聞いた。
「ピャウ?」
「違うんだ」
違うらしい。
そりゃあそうだ。
菓子で結界作る奴がどこにいるよ。
そもそも若葉の感覚が俺達とは全然違うからな。
「ピルルル……ルル?」
「え? 精霊? 私は感じなかったけどなぁ。あ、ああ、そうなんだ」
どうも、前々から思っていたんだが、フォルテの言葉をメルリルは俺よりも詳細に理解しているようなんだよな。
くっ、別に嫉妬なんかしていないからな。
そもそもどっちに嫉妬するんだよ。
「ダスター」
「お、おう」
焦ったように返事をした俺に、メルリルは少し不思議そうな顔をしたが、にっこりと笑って教えてくれた。
「フォルテが、あれは私が風の精霊を固定するように、光を固めたって言ってる。一定の場所を巡回させるのと、固めるのは違うってわかってないみたい」
「なるほどなぁ」
うなずいてみたものの、意味を理解すると、今度は混乱に陥った。
光を固めるってなんだ?
あれ、確かに結晶みたいな物質だったよな。
俺、もしかして夢を見ていたのか?
光には形などない。
形のないものをどれほど固めたとしても、結晶化するはずがない。
と、考えて、そう言えばと思い直した。
「そうか、魔力も魔結晶になるし、不可能ではないのか?」
「また師匠が考えにふけっている。ああやってこの先に起こることを見通して、俺達を導いてくれるんだぞ」
「こら、アルフ、適当なことを言うな!」
俺がたまに考え込むと、変に勘繰られる。
というか、勇者は俺に夢を見すぎだと思う。
「さすがです、お師匠さま!」
「ミュリア。違うからな。アルフが大げさに言っているだけだから」
信じやすい聖女にキラキラとした瞳で見られて、気恥ずかしい思いを味わう。
後ろで笑っているモンクと聖騎士、わかっているならちゃんと本当のことを教えておこうぜ?
早朝の鍛錬を終えた俺達が、そろそろ食事がどうなっているか聞きに行こうと思っていたところに、扉がノックされた。
「おはようございます。お食事のご用意が出来ていますが、食堂で召し上がられますか? それともこちらにお持ちしましょうか? 食堂には、ご当主さまと、奥方さまがいらっしゃいますが」
ホルスだ。
相変わらず気が利くな。
「わかった報告もある。食堂に行こう」
全員に視線で問いかけると、うなずきを返されたので、食堂に行くことを伝えた。
とりあえず、迷宮で見たもの、得たものについて、どう報告するかは、俺達の間で共通認識が出来ている。
後はカーン達との話し合いだな。
「報告は任せるぞ、アルフ」
このパーティのリーダーはあくまでも勇者だ。
その形は崩せない。
「もしものときは魔法を使ってもいいか?」
「……何をどうしたら、食堂で朝食を食べながらの報告に、もしもが起きるんだ?」
勇者がとんでもないことを言い出したので、とりあえず真意を聞いてみる。
「俺はどうもあいつらが嫌いだ。師匠の元仲間だからって、親し気にしすぎるし、偉そうだ」
「いいか、アルフ。パーティリーダーというものはだな、たとえ気に食わない相手でも、おだてて交渉を有利にするぐらいでないと……あ」
まだホルスがいることを忘れていた。
「僕は、今はあなた方のサポート役です。たとえ主であっても、あなた方のお望みを優先いたしますよ。……というのは、本心ではあるのですが、もっと正直な話、うちのご当主さま達は、少し思い通りにならないことがあったほうがいいんです。不満があるのに何も言わずに頭を下げるような連中ばっかり相手をして来たので、ここの仕事に嫌気が差しているようなので」
「ははぁ、苦労してるんだな、ホルス」
「お労りありがとうございます」
優雅な動作で頭を下げる。
あれだな、二言目にはお前が当主になれとか言って困らせているのかもしれない。
大変だな。
あいつら自由に生きて来たから、領主とか窮屈に感じるんだろう。
俺だったら絶対さっさと逃げ出しているもんな。
その分、カーンは真面目と言えるだろう。
「わかった。少々困らせるぐらいがいいってことか。それなら俺でもなんとかなりそうだ」
勇者が自信あり気に胸を張った。
本当か? 自分で任せておいてなんだが、不安しかないぞ。
食堂では、二人は既に食事を始めていた。
客を待つということが出来ないようだ。
というか、相手が俺達なんで、なめられているのかもしれない。
「おう。先にやっているぞ」
冒険者かよ!
「やれやれ、大公国の偉大な八家、なかでも迷宮都市を治める魔獣公グエンサムは、代々豪放磊落とは聞いていたが。これはまるで、自らが魔獣のようだな」
いきなり勇者がかました。
おい、誰が喧嘩を売れと言ったよ。
報告だよ、迷宮の!
「ああん? おしめも取れてないような青臭い勇者さまにはわからないかもしれねーが、領主ってのは舐められたら終わりなんだよ。ケンカ売ってるなら買うぞ?」
俺は思わず顔を手で覆った。
違う、それは領主の権威とは違う。
冒険者や探索者の面子だ。
「カーン、かっこいい! 先達者の貫禄ってもんを見せてあげなよ!」
メイサーがカーンを煽る。
ふー。
俺は腹の底から思いっきり息を吐き出した。
そして吐いた分を吸う。
「お前等、いい加減にしろよ? 遊びたいならやることやってからにしろ」
静かに、ことを荒立てないようにゆっくりとわかりやすく告げる。
そして微笑み。
笑顔は争いを解決する大きな力だ。
シーンと、部屋の空気が凍り付いた。
「お、おう。そうだな。まずは飯だ。人間腹が減っていると怒りっぽくなっていかん。お前等が来るから俺達も食前酒だけ飲んで、何もまだ食ってないんだぜ?」
「そうそうお腹空いちゃった」
カーンとメイサーが愛想よく告げる。
お前等、やれば出来るじゃないか。
「あ、ああ。せっかく食事にお招きいただいたのに、何も食べないまま主に文句を言うのは非礼だった。許してもらえるだろうか?」
勇者も慌てたように謝る。
最初からそういう態度で臨めよ。
お前等ほんと、世話が焼けるな!
ふと、気配を感じて背後を見ると、ホルスがにっこりと笑って、自らの胸を拳でトンと軽く叩いてみせた。
あれは、よくやったという合図だ。
ほんと、苦労してるんだろうな。
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