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第七章 幻の都
713 必勝のない戦いへ
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「とりあえず砦からの見取り図だな。モク、頼めるか?」
「まぁ大金貨の仕事なら、やらんでもない」
「どっちだ! まぁ手付を払っとくよ。今は物入りだろうしな」
やたらもったいぶるモクに、金貨を二枚渡した。
「おお、気前のいい手付だな!」
「勇者がシブチンじゃ、恰好がつかないだろ」
ニヤニヤ笑う。
背後で勇者が首をかしげていた。
「ちげえねぇ!」
二人で笑い合う。
冒険者には、金払いがいい顧客にはサービスをするという不文律がある。
まぁ後は酒でもおごってやりたいが、ここじゃあ、そういうのは無理だからな。
「じゃあ頼んだぞ」
モクはうなずきながら、俺達から離れた。
「師匠、あいつ信用出来るのか?」
勇者が不満そうな顔で言う。
「少なくとも、長年迷宮の深部にいたことだけは確かだ。俺達が何の手がかりもなくアタックするよりはちっとはマシだろ?」
「確かに。しかし、死鬼とは……実在するとは、正直思っていなかった。今も半信半疑、いや、疑いのほうが強い」
「それでいい。頭っから信じるよりは疑うぐらいがいい。ただし、最悪に対応出来る準備はしないとな」
「確かにそう、だな」
俺の言葉に勇者も納得する。
信用できない情報源でも、そこに真実が含まれている可能性がある限り、予想に組み込むべきなのだ。
「お師匠さま」
「お? どうした」
聖女が俺に祈るような仕草で話しかけた。
「相手が死鬼なら、祝福されし四種が必要だと思うのです。この街の教会を訪れたいのですが」
「あー、ここの教会か」
どうなんだろう。
俺がいた当時はこの街では教会は、あまり探索者とは関わり合いになろうとはしなかった。
あまりいい噂も聞かなかったんだよな。
とは言え、この街で探索者に関わりたくない気持ちもわかる。
常に殺し合いをしているような連中だ。教会が嫌って当然だろう。
「その、祝福されし四種ってのはなんだ?」
「聖印の一種です。神の聖なる火と水と土と息を意味していて、疑似的な命の環を作り出します。肉体を持たない魔物に対抗するための魔道具のようなものですね」
「ふーん」
うん。さっぱりわからない。
俺は思わず勇者を見たが、勇者も首を振って、知らないと示す。
勇者は大聖堂育ちって訳じゃないもんな。勇者の祝福を受けて勇者になっただけの話。大聖堂や教会の保有する道具や、魔物に対抗する手段など、知らないものがあっても不思議ではない。
「とりあえず、カーンに言って……」
そこまで言って、今のカーンが役に立つのかな? と思ってしまった。
いやいや、仮にも領主だ。大丈夫だろう。
「カーンに言って、話を通してもらおう」
「直接うかがってもよろしいのですが、その地その地の決まり事もあるので、そのようにしていただくとありがたいです」
よし、一つやることが出来たな。
「師匠。死霊ということは剣で斬れないのでは? 火は通るかな?」
勇者が悩まし気に言った。
斬れないものとは戦えないもんな。いや、魔法があるか。
「死鬼は、死霊とは違うぞ。歴然とした魔物だ。とは言え、剣は通じないかもしれないな」
「そのための祝福されし四種ですわ」
聖女が説明した。
「この聖印は、疑似的な魂の環、つまり、相手に仮初の肉体を与えることができます。そこに祈りを被せて、封じるというのが一般的な悪霊封じの方法です」
「うーん、悪霊封じか」
悪霊は、正確に言うと魔物ではない。
何かの感情に支配されたまま死んだ人間が、魔力に触れることで、そこに力持つ思念として残るというようなものだ。
だがまぁ、死鬼と似ていると言えば、似ていなくもない。
魔力の保有量が桁違いだと思うが。
「まぁやれることは全部やるか。死鬼なんて退治した記録とかあるのか? 伝説のたぐいでは全部封じてるよな」
「基本は封じるものだと、わたくしも思います。その、わたくしも、死鬼に関してはそう大して知っている訳ではないので」
聖女がしょんぼりとして言う。
いや、今生きている奴で、死鬼との戦い方を知っている人間なんていないだろ。
「俺に比べたら、なんらかの方針を持っているだけでずっとマシだ。頼りにしている」
正直に言うと、どうせ迷宮の奥で封じられているも同然なんだから放置していればいいんじゃないか? という気持ちもあるが、勇者のパーティがそれを知って放置したという噂を立てられる訳にはいかない。
あー、今から他人のフリ出来ないかな?
「ダスター、形のない魔物ということなら、精霊に近いということ。私も何か出来ないか考えてみる」
メルリルが張り切って言った。
俺は慌てて止める。
「いや、死鬼ってのはそんな軽い相手じゃない。まずは身を護ることだけ考えろ。ミュリアの結界があるから、まだ全員で行くという話にもなるが、もしそうじゃないなら、アルフとミュリアと俺だけで行くぐらいがちょうどいい相手だぞ」
「それはだめ!」
「お、おう」
ピシリと言われてしまった。
ということは俺も逃げられないということだな。
ふう。
そうだ。
「若葉、起きてるか?」
周囲に注意しながら、勇者のマント留めの飾りのフリをしている若葉に声をかける。
『何か用か?』
お、起きてた。
「お前、死鬼を知っているか?」
『前にも言ったが、僕はまだ引き継ぎを終えてない。知識は、生きた年数分しかない』
「……わかった。試しに聞くが。形のない魔力を食えるか?」
『愚かだな。形のないものを食えるはずがない』
くそっ、食えないのか。
てか、お前食うときはなんかパッと光って吸い込むじゃねえか。
形とか関係ないんじゃないのか!
いろいろ言いたいことはあるが、別に若葉が嘘を言っている訳じゃないことはわかる。
こいつは、よくも悪くも素直なのだ。
困ったな。今のままじゃあ、勝ち筋が見えて来ないんだよな。
勇者や聖女はやる気に満ちているが、やる気だけじゃ勝てないぞ。
まぁ、聖女の言った、祝福のなんだっけ? それに賭けるしかないか。
何か、もうちょっと確実な何かがあれば……。
「まぁ大金貨の仕事なら、やらんでもない」
「どっちだ! まぁ手付を払っとくよ。今は物入りだろうしな」
やたらもったいぶるモクに、金貨を二枚渡した。
「おお、気前のいい手付だな!」
「勇者がシブチンじゃ、恰好がつかないだろ」
ニヤニヤ笑う。
背後で勇者が首をかしげていた。
「ちげえねぇ!」
二人で笑い合う。
冒険者には、金払いがいい顧客にはサービスをするという不文律がある。
まぁ後は酒でもおごってやりたいが、ここじゃあ、そういうのは無理だからな。
「じゃあ頼んだぞ」
モクはうなずきながら、俺達から離れた。
「師匠、あいつ信用出来るのか?」
勇者が不満そうな顔で言う。
「少なくとも、長年迷宮の深部にいたことだけは確かだ。俺達が何の手がかりもなくアタックするよりはちっとはマシだろ?」
「確かに。しかし、死鬼とは……実在するとは、正直思っていなかった。今も半信半疑、いや、疑いのほうが強い」
「それでいい。頭っから信じるよりは疑うぐらいがいい。ただし、最悪に対応出来る準備はしないとな」
「確かにそう、だな」
俺の言葉に勇者も納得する。
信用できない情報源でも、そこに真実が含まれている可能性がある限り、予想に組み込むべきなのだ。
「お師匠さま」
「お? どうした」
聖女が俺に祈るような仕草で話しかけた。
「相手が死鬼なら、祝福されし四種が必要だと思うのです。この街の教会を訪れたいのですが」
「あー、ここの教会か」
どうなんだろう。
俺がいた当時はこの街では教会は、あまり探索者とは関わり合いになろうとはしなかった。
あまりいい噂も聞かなかったんだよな。
とは言え、この街で探索者に関わりたくない気持ちもわかる。
常に殺し合いをしているような連中だ。教会が嫌って当然だろう。
「その、祝福されし四種ってのはなんだ?」
「聖印の一種です。神の聖なる火と水と土と息を意味していて、疑似的な命の環を作り出します。肉体を持たない魔物に対抗するための魔道具のようなものですね」
「ふーん」
うん。さっぱりわからない。
俺は思わず勇者を見たが、勇者も首を振って、知らないと示す。
勇者は大聖堂育ちって訳じゃないもんな。勇者の祝福を受けて勇者になっただけの話。大聖堂や教会の保有する道具や、魔物に対抗する手段など、知らないものがあっても不思議ではない。
「とりあえず、カーンに言って……」
そこまで言って、今のカーンが役に立つのかな? と思ってしまった。
いやいや、仮にも領主だ。大丈夫だろう。
「カーンに言って、話を通してもらおう」
「直接うかがってもよろしいのですが、その地その地の決まり事もあるので、そのようにしていただくとありがたいです」
よし、一つやることが出来たな。
「師匠。死霊ということは剣で斬れないのでは? 火は通るかな?」
勇者が悩まし気に言った。
斬れないものとは戦えないもんな。いや、魔法があるか。
「死鬼は、死霊とは違うぞ。歴然とした魔物だ。とは言え、剣は通じないかもしれないな」
「そのための祝福されし四種ですわ」
聖女が説明した。
「この聖印は、疑似的な魂の環、つまり、相手に仮初の肉体を与えることができます。そこに祈りを被せて、封じるというのが一般的な悪霊封じの方法です」
「うーん、悪霊封じか」
悪霊は、正確に言うと魔物ではない。
何かの感情に支配されたまま死んだ人間が、魔力に触れることで、そこに力持つ思念として残るというようなものだ。
だがまぁ、死鬼と似ていると言えば、似ていなくもない。
魔力の保有量が桁違いだと思うが。
「まぁやれることは全部やるか。死鬼なんて退治した記録とかあるのか? 伝説のたぐいでは全部封じてるよな」
「基本は封じるものだと、わたくしも思います。その、わたくしも、死鬼に関してはそう大して知っている訳ではないので」
聖女がしょんぼりとして言う。
いや、今生きている奴で、死鬼との戦い方を知っている人間なんていないだろ。
「俺に比べたら、なんらかの方針を持っているだけでずっとマシだ。頼りにしている」
正直に言うと、どうせ迷宮の奥で封じられているも同然なんだから放置していればいいんじゃないか? という気持ちもあるが、勇者のパーティがそれを知って放置したという噂を立てられる訳にはいかない。
あー、今から他人のフリ出来ないかな?
「ダスター、形のない魔物ということなら、精霊に近いということ。私も何か出来ないか考えてみる」
メルリルが張り切って言った。
俺は慌てて止める。
「いや、死鬼ってのはそんな軽い相手じゃない。まずは身を護ることだけ考えろ。ミュリアの結界があるから、まだ全員で行くという話にもなるが、もしそうじゃないなら、アルフとミュリアと俺だけで行くぐらいがちょうどいい相手だぞ」
「それはだめ!」
「お、おう」
ピシリと言われてしまった。
ということは俺も逃げられないということだな。
ふう。
そうだ。
「若葉、起きてるか?」
周囲に注意しながら、勇者のマント留めの飾りのフリをしている若葉に声をかける。
『何か用か?』
お、起きてた。
「お前、死鬼を知っているか?」
『前にも言ったが、僕はまだ引き継ぎを終えてない。知識は、生きた年数分しかない』
「……わかった。試しに聞くが。形のない魔力を食えるか?」
『愚かだな。形のないものを食えるはずがない』
くそっ、食えないのか。
てか、お前食うときはなんかパッと光って吸い込むじゃねえか。
形とか関係ないんじゃないのか!
いろいろ言いたいことはあるが、別に若葉が嘘を言っている訳じゃないことはわかる。
こいつは、よくも悪くも素直なのだ。
困ったな。今のままじゃあ、勝ち筋が見えて来ないんだよな。
勇者や聖女はやる気に満ちているが、やる気だけじゃ勝てないぞ。
まぁ、聖女の言った、祝福のなんだっけ? それに賭けるしかないか。
何か、もうちょっと確実な何かがあれば……。
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