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第七章 幻の都
709 詐欺師と英雄
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「だがダスターよ、貴族の婚礼は血によるべしという規範がある。貴族は貴族以外と婚姻を結ぶことは出来ん」
カーンが重々しく告げる。
こいつ、変なところが真面目だよな。
「そんなの、いくらでも抜け道があるし、実際にお気に入りの娘を、貴族家に養女に迎えさせて妃に迎えた王様だっているぞ」
「あたしは妾なんて嫌だからね!」
俺の言葉に今度はメイサーが反論する。
仕方のねえカップルだな!
妃というのは平民で言えばお妾さんにあたるが、貴族的には正式な奥さんのようなもんだ。
愛する相手の身分の問題で、妃として迎えて、その相手と子どもに権限を与えるために、結局正妻を迎えなかった王様だっている。
だがまぁそう言うだろうとは思ってたさ。
「まぁ確かに、今回は八家の一画、グエンサム家、そういう迂遠な手はかえって潰される可能性が高い」
「いまいましい。俺が当主にならねば、この街はほかの七家に分割統治されると脅しおって。しかもそれは偽りではないと来た。そもそもが思い出すのも腹立たしい先の当主が全ての元凶。死ぬまでに、もっと苦しめてやるんだった」
吠えるようにカーンが悪態を吐く。
父親を幽閉して、嬲り殺したという噂だったが、本当にやったっぽいな。
まぁ大公陛下の暗殺を画策した大罪人だし、誰も咎めはしなかっただろう。
なにより、カーンにとっては母親の仇のようなものだ。
自分の妹に手を出して狂死させた男は、苦しんで死んで当然だと、俺も思う。
噂が事実なら、それだけということもないようだしな。
「街のことなんかどうでもいいだろ。あたしとどこかで自由に暮らせば、問題は全部解決するよ」
「まぁまぁメイサー。お前にとって、この街は、嫌な思い出が多いところかもしれないけどよ。ここでしか生きていけない連中だっているんだ。貴族連中の玩具箱みたいにされて、平気なのか? それに、グエンサム家に連なる貴族家は、生き残れるかどうかの瀬戸際だ。必死でお前達を探すぞ。きつい逃避行になる。お前等目立つし、逃げ切れないぞ」
「チッ!」
俺の説得に、メイサーは吐き捨てるような舌打ちを返した。
どうやら話を聞く気持ちになってくれたらしい。
「で、どうするんだ?」
カーンの問いに、俺は再びニヤリと笑った。
「計画はシンプルなほうが成功率は高い」
「兄さんの口癖か」
メイサーが少しだけ表情をやわらげる。
なんだかんだ言って、兄妹仲はよかったからな。
「あのごうつくばりの商人の計画をちょうだいしようと思う」
「は?」「あ?」
俺の提案に二人の声が重なる。
そんな変な話じゃないだろ。
合理的じゃないか。
「勇者がふさわしい剣を探している。メイサーが剣を見つけて献上する。功績を称えて大聖堂の聖者さま直々の祝福と称号を授けられる。神に認められた献身の乙女を大公国の領主が妻に娶る。傷一つない名誉だ」
自信満々に告げた俺に対して、メイサーとカーンが、昔のままの、ダメな弟分を見るような目を向けた。
「言っておくけど、そんな剣なんか知らないから」
「なんで聖者さまが出てくんだよ、都合がよすぎだろ?」
「ああん? さすがお前等息ぴったりだな! ごちそうさま!」
三人で面を突き合わせてにらみ合っていると、控えめにノックの音が響いた。
「そろそろ皆さま、何かお食べになったほうがよろしいかと」
あの家令の声だ。
「あー、なんか気が抜けたらお腹が空いた」
「俺も、腹で盛大に獣が吠え立てているぞ」
もしかしなくてももう、昼過ぎて間食の時間なのか。
てか、こいつら朝も食ってないはず。下手すると昨夜も食ってないんじゃないか?
「すまん、爺さん。なんか食いもんを用意してくれ。それと、勇者達もここに呼んで、まとめて食わせてやってくれ」
「承知いたしました」
俺が言うと、扉の向こうで家令の爺さんが答えた。
うん、打てば響くようないい答えだ。
もしかすると俺の指示を無視して、カーンに指示を求めるかと思ったのだが、そんなこともなかったな。
「おい、なんで俺のとこの爺さんをお前が使うんだよ? それと勇者殿達をなんで呼ぶ?」
カーンがうるさい。
「あれ、昔ギルドで働いてたおっさんだろ? 雇ったのか?」
「む? ああ、あのギルドで働いていて、ほかに行き場所がない連中はみんな俺の家来として召し上げた。偉くなった特典だな」
「じゃあ他にもいるのか?」
「おうよ。ほら、拠点の雑用してくれていた家族がいただろ。あそこの娘が今のうちの女中頭だぞ」
「あー、あの娘元気。懐かしいねぇ」
カーンの言葉に反応したのはメイサーだった。
そう言えば、メイサーはあの家族と、特に娘と仲がよかったな。
「へえ。どっかで聞いたような話だな。ああ……」
そうか大公家もそんな感じだったか。
そう思い出して、俺の頭にアイディアが浮かんだ。
「そうだ! 大公陛下を巻き込んでしまおう」
「は? 何言ってる? 俺は大公陛下暗殺をたくらんだ一族の生き残りだぞ?」
「いやいや、お前と大公陛下は気が合うと思うぞ。特に、英雄殿なんか、お前と気質がそっくりだ」
俺がそう言うと、メイサーとカーンが二人して、変な目で俺を見た。
「なんだ、気持ち悪いな」
「お前、すっかり詐欺師よりもタチが悪い奴になっちまったな」
「あんた、うちの兄さんと似て来たよね」
「なんだ! それは! 褒めてるのかけなしてるのか、どっちだ!」
「褒めてるぞ」「褒めてるよ」
絶対嘘だ!
カーンが重々しく告げる。
こいつ、変なところが真面目だよな。
「そんなの、いくらでも抜け道があるし、実際にお気に入りの娘を、貴族家に養女に迎えさせて妃に迎えた王様だっているぞ」
「あたしは妾なんて嫌だからね!」
俺の言葉に今度はメイサーが反論する。
仕方のねえカップルだな!
妃というのは平民で言えばお妾さんにあたるが、貴族的には正式な奥さんのようなもんだ。
愛する相手の身分の問題で、妃として迎えて、その相手と子どもに権限を与えるために、結局正妻を迎えなかった王様だっている。
だがまぁそう言うだろうとは思ってたさ。
「まぁ確かに、今回は八家の一画、グエンサム家、そういう迂遠な手はかえって潰される可能性が高い」
「いまいましい。俺が当主にならねば、この街はほかの七家に分割統治されると脅しおって。しかもそれは偽りではないと来た。そもそもが思い出すのも腹立たしい先の当主が全ての元凶。死ぬまでに、もっと苦しめてやるんだった」
吠えるようにカーンが悪態を吐く。
父親を幽閉して、嬲り殺したという噂だったが、本当にやったっぽいな。
まぁ大公陛下の暗殺を画策した大罪人だし、誰も咎めはしなかっただろう。
なにより、カーンにとっては母親の仇のようなものだ。
自分の妹に手を出して狂死させた男は、苦しんで死んで当然だと、俺も思う。
噂が事実なら、それだけということもないようだしな。
「街のことなんかどうでもいいだろ。あたしとどこかで自由に暮らせば、問題は全部解決するよ」
「まぁまぁメイサー。お前にとって、この街は、嫌な思い出が多いところかもしれないけどよ。ここでしか生きていけない連中だっているんだ。貴族連中の玩具箱みたいにされて、平気なのか? それに、グエンサム家に連なる貴族家は、生き残れるかどうかの瀬戸際だ。必死でお前達を探すぞ。きつい逃避行になる。お前等目立つし、逃げ切れないぞ」
「チッ!」
俺の説得に、メイサーは吐き捨てるような舌打ちを返した。
どうやら話を聞く気持ちになってくれたらしい。
「で、どうするんだ?」
カーンの問いに、俺は再びニヤリと笑った。
「計画はシンプルなほうが成功率は高い」
「兄さんの口癖か」
メイサーが少しだけ表情をやわらげる。
なんだかんだ言って、兄妹仲はよかったからな。
「あのごうつくばりの商人の計画をちょうだいしようと思う」
「は?」「あ?」
俺の提案に二人の声が重なる。
そんな変な話じゃないだろ。
合理的じゃないか。
「勇者がふさわしい剣を探している。メイサーが剣を見つけて献上する。功績を称えて大聖堂の聖者さま直々の祝福と称号を授けられる。神に認められた献身の乙女を大公国の領主が妻に娶る。傷一つない名誉だ」
自信満々に告げた俺に対して、メイサーとカーンが、昔のままの、ダメな弟分を見るような目を向けた。
「言っておくけど、そんな剣なんか知らないから」
「なんで聖者さまが出てくんだよ、都合がよすぎだろ?」
「ああん? さすがお前等息ぴったりだな! ごちそうさま!」
三人で面を突き合わせてにらみ合っていると、控えめにノックの音が響いた。
「そろそろ皆さま、何かお食べになったほうがよろしいかと」
あの家令の声だ。
「あー、なんか気が抜けたらお腹が空いた」
「俺も、腹で盛大に獣が吠え立てているぞ」
もしかしなくてももう、昼過ぎて間食の時間なのか。
てか、こいつら朝も食ってないはず。下手すると昨夜も食ってないんじゃないか?
「すまん、爺さん。なんか食いもんを用意してくれ。それと、勇者達もここに呼んで、まとめて食わせてやってくれ」
「承知いたしました」
俺が言うと、扉の向こうで家令の爺さんが答えた。
うん、打てば響くようないい答えだ。
もしかすると俺の指示を無視して、カーンに指示を求めるかと思ったのだが、そんなこともなかったな。
「おい、なんで俺のとこの爺さんをお前が使うんだよ? それと勇者殿達をなんで呼ぶ?」
カーンがうるさい。
「あれ、昔ギルドで働いてたおっさんだろ? 雇ったのか?」
「む? ああ、あのギルドで働いていて、ほかに行き場所がない連中はみんな俺の家来として召し上げた。偉くなった特典だな」
「じゃあ他にもいるのか?」
「おうよ。ほら、拠点の雑用してくれていた家族がいただろ。あそこの娘が今のうちの女中頭だぞ」
「あー、あの娘元気。懐かしいねぇ」
カーンの言葉に反応したのはメイサーだった。
そう言えば、メイサーはあの家族と、特に娘と仲がよかったな。
「へえ。どっかで聞いたような話だな。ああ……」
そうか大公家もそんな感じだったか。
そう思い出して、俺の頭にアイディアが浮かんだ。
「そうだ! 大公陛下を巻き込んでしまおう」
「は? 何言ってる? 俺は大公陛下暗殺をたくらんだ一族の生き残りだぞ?」
「いやいや、お前と大公陛下は気が合うと思うぞ。特に、英雄殿なんか、お前と気質がそっくりだ」
俺がそう言うと、メイサーとカーンが二人して、変な目で俺を見た。
「なんだ、気持ち悪いな」
「お前、すっかり詐欺師よりもタチが悪い奴になっちまったな」
「あんた、うちの兄さんと似て来たよね」
「なんだ! それは! 褒めてるのかけなしてるのか、どっちだ!」
「褒めてるぞ」「褒めてるよ」
絶対嘘だ!
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