上 下
604 / 885
第七章 幻の都

709 詐欺師と英雄

しおりを挟む
「だがダスターよ、貴族の婚礼は血によるべしという規範がある。貴族は貴族以外と婚姻を結ぶことは出来ん」

 カーンが重々しく告げる。
 こいつ、変なところが真面目だよな。

「そんなの、いくらでも抜け道があるし、実際にお気に入りの娘を、貴族家に養女に迎えさせて妃に迎えた王様だっているぞ」
「あたしは妾なんて嫌だからね!」

 俺の言葉に今度はメイサーが反論する。
 仕方のねえカップルだな!
 妃というのは平民で言えばお妾さんにあたるが、貴族的には正式な奥さんのようなもんだ。
 愛する相手の身分の問題で、妃として迎えて、その相手と子どもに権限を与えるために、結局正妻を迎えなかった王様だっている。
 だがまぁそう言うだろうとは思ってたさ。

「まぁ確かに、今回は八家の一画、グエンサム家、そういう迂遠な手はかえって潰される可能性が高い」
「いまいましい。俺が当主にならねば、この街はほかの七家に分割統治されると脅しおって。しかもそれは偽りではないと来た。そもそもが思い出すのも腹立たしい先の当主が全ての元凶。死ぬまでに、もっと苦しめてやるんだった」

 吠えるようにカーンが悪態を吐く。
 父親を幽閉して、嬲り殺したという噂だったが、本当にやったっぽいな。
 まぁ大公陛下の暗殺を画策した大罪人だし、誰も咎めはしなかっただろう。
 なにより、カーンにとっては母親の仇のようなものだ。
 自分の妹に手を出して狂死させた男は、苦しんで死んで当然だと、俺も思う。
 噂が事実なら、それだけということもないようだしな。

「街のことなんかどうでもいいだろ。あたしとどこかで自由に暮らせば、問題は全部解決するよ」
「まぁまぁメイサー。お前にとって、この街は、嫌な思い出が多いところかもしれないけどよ。ここでしか生きていけない連中だっているんだ。貴族連中の玩具箱みたいにされて、平気なのか? それに、グエンサム家に連なる貴族家は、生き残れるかどうかの瀬戸際だ。必死でお前達を探すぞ。きつい逃避行になる。お前等目立つし、逃げ切れないぞ」
「チッ!」

 俺の説得に、メイサーは吐き捨てるような舌打ちを返した。
 どうやら話を聞く気持ちになってくれたらしい。

「で、どうするんだ?」

 カーンの問いに、俺は再びニヤリと笑った。

「計画はシンプルなほうが成功率は高い」
「兄さんの口癖か」

 メイサーが少しだけ表情をやわらげる。
 なんだかんだ言って、兄妹仲はよかったからな。

「あのごうつくばりの商人の計画をちょうだいしようと思う」
「は?」「あ?」

 俺の提案に二人の声が重なる。
 そんな変な話じゃないだろ。
 合理的じゃないか。

「勇者がふさわしい剣を探している。メイサーが剣を見つけて献上する。功績を称えて大聖堂の聖者さま直々の祝福と称号を授けられる。神に認められた献身の乙女を大公国の領主が妻に娶る。傷一つない名誉だ」

 自信満々に告げた俺に対して、メイサーとカーンが、昔のままの、ダメな弟分を見るような目を向けた。

「言っておくけど、そんな剣なんか知らないから」
「なんで聖者さまが出てくんだよ、都合がよすぎだろ?」
「ああん? さすがお前等息ぴったりだな! ごちそうさま!」

 三人で面を突き合わせてにらみ合っていると、控えめにノックの音が響いた。

「そろそろ皆さま、何かお食べになったほうがよろしいかと」

 あの家令の声だ。

「あー、なんか気が抜けたらお腹が空いた」
「俺も、腹で盛大に獣が吠え立てているぞ」

 もしかしなくてももう、昼過ぎて間食の時間なのか。
 てか、こいつら朝も食ってないはず。下手すると昨夜も食ってないんじゃないか?

「すまん、爺さん。なんか食いもんを用意してくれ。それと、勇者達もここに呼んで、まとめて食わせてやってくれ」
「承知いたしました」

 俺が言うと、扉の向こうで家令の爺さんが答えた。
 うん、打てば響くようないい答えだ。
 もしかすると俺の指示を無視して、カーンに指示を求めるかと思ったのだが、そんなこともなかったな。

「おい、なんで俺のとこの爺さんをお前が使うんだよ? それと勇者殿達をなんで呼ぶ?」

 カーンがうるさい。

「あれ、昔ギルドで働いてたおっさんだろ? 雇ったのか?」
「む? ああ、あのギルドで働いていて、ほかに行き場所がない連中はみんな俺の家来として召し上げた。偉くなった特典だな」
「じゃあ他にもいるのか?」
「おうよ。ほら、拠点の雑用してくれていた家族がいただろ。あそこの娘が今のうちの女中頭だぞ」
「あー、あの娘元気。懐かしいねぇ」

 カーンの言葉に反応したのはメイサーだった。
 そう言えば、メイサーはあの家族と、特に娘と仲がよかったな。

「へえ。どっかで聞いたような話だな。ああ……」

 そうか大公家もそんな感じだったか。
 そう思い出して、俺の頭にアイディアが浮かんだ。

「そうだ! 大公陛下を巻き込んでしまおう」
「は? 何言ってる? 俺は大公陛下暗殺をたくらんだ一族の生き残りだぞ?」
「いやいや、お前と大公陛下は気が合うと思うぞ。特に、英雄殿なんか、お前と気質がそっくりだ」

 俺がそう言うと、メイサーとカーンが二人して、変な目で俺を見た。

「なんだ、気持ち悪いな」
「お前、すっかり詐欺師よりもタチが悪い奴になっちまったな」
「あんた、うちの兄さんと似て来たよね」
「なんだ! それは! 褒めてるのかけなしてるのか、どっちだ!」
「褒めてるぞ」「褒めてるよ」

 絶対嘘だ!
しおりを挟む
感想 3,670

あなたにおすすめの小説

天職はドロップ率300%の盗賊、錬金術師を騙る。

朱本来未
ファンタジー
 魔術師の大家であるレッドグレイヴ家に生を受けたヒイロは、15歳を迎えて受けた成人の儀で盗賊の天職を授けられた。  天職が王家からの心象が悪い盗賊になってしまったヒイロは、廃嫡されてレッドグレイヴ領からの追放されることとなった。  ヒイロは以前から魔術師以外の天職に可能性を感じていたこともあり、追放処分を抵抗することなく受け入れ、レッドグレイヴ領から出奔するのだった。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?

伽羅
ファンタジー
 転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。  このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。  自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。 そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。 このまま下町でスローライフを送れるのか?

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。