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第七章 幻の都

677 地の底に棲むモノ

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 俺達の辿り着いた場所は、迷宮草だけではなく、周囲の壁がキラキラと光っていた。

「魔鉱石だ」

 すぐにわかったが、念のため近づいて確認した。
 魔鉱石に擬態する魔物や、魔鉱石を身に飾る魔物なんかもいるからな。

「ん? 探索者は魔鉱石も採取しているんだろう? それにしてはこの辺りは採掘したという感じじゃないな」

 勇者が周囲を見回して言う。

「……わかった。探索者はこの辺りには来ていないんだ!」
「ああ。そう考えるのが妥当だろう」

 俺は勇者の考えにうなずいた。
 つまりは迷宮の未踏破領域という訳だ。

「アルフ、ミュリア、具合はどうだ? 魔力濃度に身体が慣れた感覚はあるか?」
「……まだ少しふらつきます」
「俺は大丈夫だぞ!」

 強がりを言わない聖女の意見に従い、俺達は休憩して、まずはこの魔力濃度に身体を慣らすことにした。

「気休めだが、飲んどけ」
「お茶?」
「ほんの僅かだが、魔宝石を削った粉を入れてある。迷宮に潜る冒険者の験担げんかつぎみたいなもんだがな、不思議と魔力持ちに効く」
「へー」
「いただきます」

 魔鉱石を加工した魔宝石は純粋な魔力の結晶なので、これ自体は身体に害になるもんじゃない。
 まぁ飲んだところで、そのまま出てしまうんだが。
 気休めみたいなもんかな?

 いったん休んでふらつきが収まったところで、探索を開始する。
 さっきフォルテと若葉で、ヤバそうな魔物は片付けてしまったらしいんで、近くにはもう危ない奴はいないと思うが、まぁ油断は出来ないな。

「上のほうは薄暗い感じでしたが、魔鉱石の鉱脈というのはここまで明るいのですね」

 聖女が物珍し気に周囲を見回しながら言った。

「学者先生によると、魔鉱石の鉱床で俺達に見えているのは、本当は光じゃないらしいんだが、だいぶ明るいよな。古代の地下都市では、この魔鉱石の性質を活かして、太陽の代わりに天井から吊るしていたらしい。さっきの神樹の空洞にも似たようなのがあったよな」
「へー」

 感心したように勇者も周囲を見る。
 まぁ今まで魔鉱石の採掘現場とか見たことはないだろうしな。

「でも、魔宝石に加工したものはこんなに光りませんよね?」

 聖女がさらに聞いて来た。

「ああ。魔宝石が光らないのは、不純物がないせいらしい。魔鉱石は周囲に不純物があるから、それと反応して光っているということだ」

 全員が首を傾げた。
 うん。俺もちょっとこの辺の話はよくわからないんだ。
 完全に学者先生の受け売りだからな。

「ま、鉱床に存在している状態の魔鉱石は光るし、加工した魔宝石は光らないと覚えておけばいいさ」

 全員がコクコクとうなずいた。
 こんな場所なのに、ちょっと微笑ましい。

 しかし俺達の出た場所は、どうも遺跡ではなく天然の洞窟のようだ。
 魔鉱石があるということは、ここになんらかの魔物がいたということになるので、地中に棲むタイプの魔物だったんだろうな。

「あ、ダスター、水の気配がする」

 メルリルがスンと匂いを嗅いで言った。
 
「地下水かな?」

 地中には意外と水溜まりが多い。
 いわゆる地中湖と呼ばれるやつだ。
 本来は地下を流れる水脈だったものが、途中で途切れて溜まったものや、地上から水が吸い込まれて来たが、周囲が硬い岩盤で、閉じ込められてしまったものとか、いろいろあるっぽい。
 まぁこれも学者先生の受け売りだが。

 とは言え、水があるところには生物がいるというのが常識だ。

「何か魔物が生息しているかもしれないな。注意しよう」
「おう!」

 勇者が元気よく返事した。
 お前、そんなに戦いたいのか?

 しばらく行くと、周辺からカサカサという小さな音が聞こえた。
 こんな場所だ。音の全てに意味がある。
 俺は手信号で全員に止まるように合図した。

 這いつくばったような状態で、周囲を認識する。
 すると、周囲を這い回る小さい影を見つけた。
 魔力がある。魔物だ。

「小さいが魔物がいるな」
「燃やすか?」

 勇者が剣に手をかけながら聞いた。
 
「お前、この魔力濃度で大魔法を使ったら俺達まで焼きかねないぞ? 魔法を使う場合には、小さ目の奴から試せ」
「剣に魔力を通すだけなら大丈夫じゃないか?」
「自分の手まで焼くなよ?」
「ううむ……」

 どうやら、勇者もいきなり剣を抜くのは、思いとどまってくれたようだ。
 そんななか、聖騎士が投げナイフを取り出し、目にも止まらない早業で、魔物を一匹仕留めてしまった。
 驚いて顔を見ると「私は魔力を持ちませんので、大丈夫かと思いまして」と、照れながら言う。

「よくもまぁ、あの小さくて素早いのに当てるな」

 俺は落ちた魔物を見に行く。
 落ちていた魔物は、硬い殻に覆われた平べったい生き物だった。

「カニだな」
「え? こんなところにカニ?」

 メルリルがびっくりしたように言う。
 そしてツンツンとカニの甲羅をつついた。
 いや、死んでるけど、毒か何かがあると危ないから、触らないでくれると嬉しいな。

「水が、あるから?」

 聖女も不思議そうだ。

「む、虫じゃなくてよかった」

 モンクはひと安心だ。
 迷宮と言えば、虫系の魔物だもんな。
 モンクには辛いものがあるよな。

「フォルテ、食うか?」

 フォルテに振ってみる。
 本当は若葉に聞きたいが、またあいつ寝てるし。
 気まますぎて当てに出来ない。

 フォルテは嘴でカニをつんつんつついた。
 その仕草はメルリルとそっくりだ。
 親子とか言われちまうはずだな。

 フォルテはしばらくつついた後、バクッとそのカニの魔物を呑み込んだ。

「キュウ……」

 そしてすごくがっかりしている。
 どうやらそれほど美味しくなかったらしい。

「毒はないか?」
「ピャ」

 毒はなかった。
 わりと普通のカニに近い魔物のようだ。

 メルリルが水の匂いがすると言っていた方向へさらに進んで行くと、やがてピチョンという水滴の音が聞こえて来た。

「お。地底湖というよりも、本当に水溜まりだな」

 そこには、天井から水がしたたり落ちてたまったらしい水が、浅く広く広がっていた。

「まぁ、お花が咲いてます」

 そう言って、思わずといった風に聖女が足を踏み出す。
 その瞬間、花弁のように見えたものが大きく広がり、水面から飛び上がった。

「え?」
「チィッ!」

 一呼吸するよりも早く、聖女を自分の後ろに引き戻したモンクが、足を踏み出し、こぶしを繰り出す。
 ガコン! と、硬いもの同士がぶつかったような音を立てて花のようなものが吹き飛ぶ。
 そしてそのまま壁にひびを入れてめり込んだ。
 今、こぶしのインパクトの瞬間、光のようなものが発生していた。
 魔法紋による魔法効果だろう。
 しかしそれにしても、吹き飛びすぎだろ?
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