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第七章 幻の都
661 迷宮 幻の都9
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下の大穴を通らないのなら左右の大穴を通るしかない。
元は通路があったらしい場所の壁が崩れて半分埋まっている空間に入り込み、先へと進む。
「ミュリア、アルフ、さっきので無理はしていないか? こういう場所で強がりはいらないぞ。休みたいときははっきりと言ってくれ。いざというときに魔法が使えないなんてことになると、全員仲良く死んじまうからな」
大穴の場所からある程度離れたところで二人に呼びかける。
さっきは明らかに無茶な魔法の使い方をしたはずだ。
案の定、聖女は歩みが遅れ始めているし、勇者のほうは平気な振りをしているが、魔力が上手く体に巡っていないように見えた。
「そうだよ。ちゃんと休めるときに休むのがいい冒険者さ。そうだろ? ダスター」
ニッとモンクが笑ってみせる。
聖女に直接言うよりも俺を巻き込んだほうがいいと判断したのだろう。
「当然だ。自分の状態をコントロール出来ない奴は早々に脱落する。冒険者ってのは自分の体だけが頼りだからな」
モンクの言葉を受けてそう答えた俺の言葉に、聖女が「ふふっ」と笑った。
「わたくし達、冒険者になれるかしら? 自分のためだけに生きるのが冒険者なのでしょう?」
「そうだが、そうでもないな。自分を生かすためには他人を助けなきゃならない場面なんてごろごろしてるからな。案外、人間は一人じゃあ何にも出来ないもんだぜ」
「そうですか。それならわたくしにも出来そうですね」
そう言うと、聖女は自己申告をした。
「体内魔力がだいぶ薄くなっているように感じます。少し休みたいです」
「あ、俺もだ!」
その聖女の申告に乗っかるように勇者が手を上げた。
お前、それでいいのか? パーティリーダーとして。
「アルフ、こういうときは本来お前がまず休もうと言いだすべきなんだぞ? リーダーが無理をするパーティは生き残れない。覚えとけ」
「う、うむ、わかった」
さすがに今のはタイミング的にまずかったと思ったのだろう。
勇者は素直にうなずいた。
こいつがもっとリーダーとして自覚してくれると、俺がこんなリーダー代理のようなことしなくてもいいんだけどな。
本当に従者のやるような仕事だけさせてくれよ。
周囲を探るが、ギルドの印が全く見当たらない。
もしかするとこの通路は未発見エリアかもしれないな。
何しろさっき壁をぶち抜かれたことで通れるようになったんだし。
「さて、ミュリアに無理をさせないために、ゆっくりと休める場所が欲しいところだが……」
周囲の魔力を探るも、濃密な渦のような魔力のせいで何もわからない。
仕方ないな。
「フォルテ、お前またちょっと先行して来い。危なそうな奴には近づくなよ」
「ピャッ!」
さっきの騒ぎですっかり起きたらしいフォルテがバサバサと飛び立つ。
「ガフン」
と、突如として勇者のマントから、フォルテと同程度の大きさになった若葉が離脱した。
「おい!」
勇者が不機嫌そうに声を掛けると、『僕も仕事する!』と言ってフォルテの後を追う。
さっきの勇者の魔法で起きたんだろうか?
まぁあいつを止める手立てなんかないから好きにさせるしかない。
「ったく、勝手について来て全く言うこと聞かないし」
「誰かさんそっくりだな」
「え? 師匠はアイツみたいな最悪野郎を知ってるのか?」
「……まぁな」
お前だ! と、言ってやりたいところだが、またバカげた張り合いをして魔法を暴発されてはたまらない。
それに今はなんだかんだ言ってもだいぶ疲れているようだ。
俺も鬼ではないので、追い打ちをかけるのは手控えてやった。
フォルテの視界を借りて先へと意識を向けると、いくつかの魔鉱石の輝きが見える。
マジで未発見の通路のようだ。
小型の魔物が何種類かいるが、人間サイズの生き物に害を及ぼすタイプのものではない。
「んん?」
通路が大きく広がって洞窟となっている場所に、地底湖のような水溜まりを発見する。
その水が強い魔力の輝きを帯びていた。
魔鉱石が溶け込んでいる水だ。
この水は人間には毒なので飲料には使えない。
だが、この水を好む魔物もいる。
それが植物系の魔物だ。
「オアシスだ」
「へ? 大連合の?」
勇者が不思議な顔をして聞き返す。
「ああいや、そういう植物系の魔物の群体があってな。魔力が豊富な水の周りに小さな森を作り上げるんだ。そこで魔力循環を行って魔力を消費するんで、周辺の魔力濃度が下がる。おかげで多くの魔力を必要とする強力な魔物が近寄らないのさ。道理で、この通路周辺は中層なのに小物ばっかりで変だとは思ったんだ」
「ええっと、つまり?」
メルリルが不思議そうな顔で俺に確認するように聞いた。
「休憩場所としては最適だということさ。ミュリアの結界もいらない」
「まぁ」
聖女がちょっとうれしそうに微笑んだ。
休憩ごとに聖女だけ魔法を使わせられていたんだもんな。大して力を使っていないとは言え、なかなか完全に休むことが出来ていないんだろう。
「ともかくそこで休憩だな」
フォルテと若葉が戻って来る。
「グルル……」『あんまりおもしろくなかった。寝る』
「こいつめ……」
若葉は戻ってすぐにまた小さな宝石のトカゲに擬態して、勇者のマントに張り付いた。
すっかりそこが気に入ったんだな。
勇者はかなり苛立っているが、さすがにここでケンカをする気力はなさそうだ。
よかったよかった。
「これがオアシス。……大連合のオアシスとは違いますね」
「そりゃあな」
内側にやや反った低木と、それに絡まるように垂れ下がるツタ、地面にはやわらかな緑の草がびっしりと生えている。
普通の草木のように見えるが、これが全て魔物なのだ。
「安全なのか?」
勇者が不安そうに尋ねる。
「この植物の魔物は、生物には興味がないんだ。オアシスだけで生命活動が完結している。だからこっちから攻撃しなければ何もしてこないし、害意のある魔物を寄せ付けない」
そんな風に答えていると、今度は聖女が足元を見ながら質問して来た。
「地面の草は踏んでもいいのですか?」
「大丈夫。踏んで潰れるようなやわなもんじゃないから」
踏み心地は、上等な敷物のようだ。
俺達はゆっくりとオアシスの内部に踏み込む。
地底湖に近づきすぎないように低木と背の高い草の間に全員で腰を下ろす。
「本当に、普通の森とは全然違う。精霊が感じられない。でも、穏やか」
メルリルが戸惑ったように周囲を見る。
見た目は普通の植物だからな。
植物の精霊と親和性が高いメルリルにとっては不思議なんだろう。
「火は起こせないから、水に粉状に挽いた豆を混ぜたものを飲んでおけ。あんまり美味くはないが栄養にはなるからな。口直しに甘いものを配るぞ」
カップに水で溶いた挽き粉を入れ、普通の干しナツメを配る。
ササッと動いた若葉が、ちゃっかり干しナツメを一つ攫って行った。
「ピャッ!」
「フォルテ、お前の分はちゃんとあるから、ケンカするな。アルフ、お前も、若葉から奪おうとするな」
フォルテと勇者を叱りつつ、やれやれと寝転がる。
ただひたすらに魔力の水を循環させるオアシスの草は、不思議なことに、ふんわりと森の草花と同じような香りがしたのだった。
元は通路があったらしい場所の壁が崩れて半分埋まっている空間に入り込み、先へと進む。
「ミュリア、アルフ、さっきので無理はしていないか? こういう場所で強がりはいらないぞ。休みたいときははっきりと言ってくれ。いざというときに魔法が使えないなんてことになると、全員仲良く死んじまうからな」
大穴の場所からある程度離れたところで二人に呼びかける。
さっきは明らかに無茶な魔法の使い方をしたはずだ。
案の定、聖女は歩みが遅れ始めているし、勇者のほうは平気な振りをしているが、魔力が上手く体に巡っていないように見えた。
「そうだよ。ちゃんと休めるときに休むのがいい冒険者さ。そうだろ? ダスター」
ニッとモンクが笑ってみせる。
聖女に直接言うよりも俺を巻き込んだほうがいいと判断したのだろう。
「当然だ。自分の状態をコントロール出来ない奴は早々に脱落する。冒険者ってのは自分の体だけが頼りだからな」
モンクの言葉を受けてそう答えた俺の言葉に、聖女が「ふふっ」と笑った。
「わたくし達、冒険者になれるかしら? 自分のためだけに生きるのが冒険者なのでしょう?」
「そうだが、そうでもないな。自分を生かすためには他人を助けなきゃならない場面なんてごろごろしてるからな。案外、人間は一人じゃあ何にも出来ないもんだぜ」
「そうですか。それならわたくしにも出来そうですね」
そう言うと、聖女は自己申告をした。
「体内魔力がだいぶ薄くなっているように感じます。少し休みたいです」
「あ、俺もだ!」
その聖女の申告に乗っかるように勇者が手を上げた。
お前、それでいいのか? パーティリーダーとして。
「アルフ、こういうときは本来お前がまず休もうと言いだすべきなんだぞ? リーダーが無理をするパーティは生き残れない。覚えとけ」
「う、うむ、わかった」
さすがに今のはタイミング的にまずかったと思ったのだろう。
勇者は素直にうなずいた。
こいつがもっとリーダーとして自覚してくれると、俺がこんなリーダー代理のようなことしなくてもいいんだけどな。
本当に従者のやるような仕事だけさせてくれよ。
周囲を探るが、ギルドの印が全く見当たらない。
もしかするとこの通路は未発見エリアかもしれないな。
何しろさっき壁をぶち抜かれたことで通れるようになったんだし。
「さて、ミュリアに無理をさせないために、ゆっくりと休める場所が欲しいところだが……」
周囲の魔力を探るも、濃密な渦のような魔力のせいで何もわからない。
仕方ないな。
「フォルテ、お前またちょっと先行して来い。危なそうな奴には近づくなよ」
「ピャッ!」
さっきの騒ぎですっかり起きたらしいフォルテがバサバサと飛び立つ。
「ガフン」
と、突如として勇者のマントから、フォルテと同程度の大きさになった若葉が離脱した。
「おい!」
勇者が不機嫌そうに声を掛けると、『僕も仕事する!』と言ってフォルテの後を追う。
さっきの勇者の魔法で起きたんだろうか?
まぁあいつを止める手立てなんかないから好きにさせるしかない。
「ったく、勝手について来て全く言うこと聞かないし」
「誰かさんそっくりだな」
「え? 師匠はアイツみたいな最悪野郎を知ってるのか?」
「……まぁな」
お前だ! と、言ってやりたいところだが、またバカげた張り合いをして魔法を暴発されてはたまらない。
それに今はなんだかんだ言ってもだいぶ疲れているようだ。
俺も鬼ではないので、追い打ちをかけるのは手控えてやった。
フォルテの視界を借りて先へと意識を向けると、いくつかの魔鉱石の輝きが見える。
マジで未発見の通路のようだ。
小型の魔物が何種類かいるが、人間サイズの生き物に害を及ぼすタイプのものではない。
「んん?」
通路が大きく広がって洞窟となっている場所に、地底湖のような水溜まりを発見する。
その水が強い魔力の輝きを帯びていた。
魔鉱石が溶け込んでいる水だ。
この水は人間には毒なので飲料には使えない。
だが、この水を好む魔物もいる。
それが植物系の魔物だ。
「オアシスだ」
「へ? 大連合の?」
勇者が不思議な顔をして聞き返す。
「ああいや、そういう植物系の魔物の群体があってな。魔力が豊富な水の周りに小さな森を作り上げるんだ。そこで魔力循環を行って魔力を消費するんで、周辺の魔力濃度が下がる。おかげで多くの魔力を必要とする強力な魔物が近寄らないのさ。道理で、この通路周辺は中層なのに小物ばっかりで変だとは思ったんだ」
「ええっと、つまり?」
メルリルが不思議そうな顔で俺に確認するように聞いた。
「休憩場所としては最適だということさ。ミュリアの結界もいらない」
「まぁ」
聖女がちょっとうれしそうに微笑んだ。
休憩ごとに聖女だけ魔法を使わせられていたんだもんな。大して力を使っていないとは言え、なかなか完全に休むことが出来ていないんだろう。
「ともかくそこで休憩だな」
フォルテと若葉が戻って来る。
「グルル……」『あんまりおもしろくなかった。寝る』
「こいつめ……」
若葉は戻ってすぐにまた小さな宝石のトカゲに擬態して、勇者のマントに張り付いた。
すっかりそこが気に入ったんだな。
勇者はかなり苛立っているが、さすがにここでケンカをする気力はなさそうだ。
よかったよかった。
「これがオアシス。……大連合のオアシスとは違いますね」
「そりゃあな」
内側にやや反った低木と、それに絡まるように垂れ下がるツタ、地面にはやわらかな緑の草がびっしりと生えている。
普通の草木のように見えるが、これが全て魔物なのだ。
「安全なのか?」
勇者が不安そうに尋ねる。
「この植物の魔物は、生物には興味がないんだ。オアシスだけで生命活動が完結している。だからこっちから攻撃しなければ何もしてこないし、害意のある魔物を寄せ付けない」
そんな風に答えていると、今度は聖女が足元を見ながら質問して来た。
「地面の草は踏んでもいいのですか?」
「大丈夫。踏んで潰れるようなやわなもんじゃないから」
踏み心地は、上等な敷物のようだ。
俺達はゆっくりとオアシスの内部に踏み込む。
地底湖に近づきすぎないように低木と背の高い草の間に全員で腰を下ろす。
「本当に、普通の森とは全然違う。精霊が感じられない。でも、穏やか」
メルリルが戸惑ったように周囲を見る。
見た目は普通の植物だからな。
植物の精霊と親和性が高いメルリルにとっては不思議なんだろう。
「火は起こせないから、水に粉状に挽いた豆を混ぜたものを飲んでおけ。あんまり美味くはないが栄養にはなるからな。口直しに甘いものを配るぞ」
カップに水で溶いた挽き粉を入れ、普通の干しナツメを配る。
ササッと動いた若葉が、ちゃっかり干しナツメを一つ攫って行った。
「ピャッ!」
「フォルテ、お前の分はちゃんとあるから、ケンカするな。アルフ、お前も、若葉から奪おうとするな」
フォルテと勇者を叱りつつ、やれやれと寝転がる。
ただひたすらに魔力の水を循環させるオアシスの草は、不思議なことに、ふんわりと森の草花と同じような香りがしたのだった。
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