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第六章 その祈り、届かなくとも……
631 円環の世界
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大公陛下のお話は、かなり衝撃的な内容だった。
というか、この歴史ある国の暗い部分を見せつけられたような気分だ。
とは言え、今までいろいろな国を回って来たが、どの国にも強さと弱さ、美しさと醜さがあったと思う。
そう思って、なんとなく、魔王陛下……じゃなかった、アドミニス殿の言った言葉を思い出す。
「人間の身の内にも神と魔が存在する……か」
「ん? あの長生きジジイが言ったことか?」
勇者が俺の言葉を聞きとがめて、ズバリ正解を引き当てた。
おいおい、言われた言葉をそのまま呟いた訳でもないのにわかるのかよ。
俺はお前と以心伝心なんぞ嫌だからな。
「神も魔もこの世界の心なのでしょう? 私達も世界の一部、当然のことかもしれない」
メルリルがどこかぼうっとしたように言った。
森人の巫女として独自の文化の担い手であるメルリルと俺とでは、この世界の見え方が少し違うのかもしれない。
だけど、こうやって俺の思いを察してくれる。
どれほど違っても人と人は理解し合うことが出来るということなんだろうな。
「そうだな、メルリル」
「師匠、今俺のことをあからさまに無視したよな?」
「なんの話だ?」
おいおい俺とメルリルの深い共感に横やりを入れるなよ。
全く、場が読めない奴はこれだから。
『僕はこの世界が好きだよ。きれいすぎる世界には命は育たない。命は闘争から生まれるんだ。消滅と発生が絡み合うツタのように命を花咲かせる。自らの尾を噛もうとする円環の世界。貴重で美しい……』
「若葉?」
勇者のマントの留め具の上で飾りに擬態した若葉がちょろりと動いた。
だが、次の瞬間、また宝石のように硬く生命を感じさせない状態になる。
勇者がそんな若葉をツンツンとつついたが、ぴくりともしなかった。
「寝てる」
「寝言かよ!」
そうかドラゴンでも寝言を言うのか。
新たな発見だな。
俺達は、食事会の後に自分達に与えられた自室へと戻った。
使用人達や見張りも周囲にはおらず、完全に俺達だけにしておいてくれるようだ。
こういう気づかいが出来る偉いさんは少ないのでありがたい限りである。
だいたいの偉いさんは、勇者達が何を考えているのか、なんとかして探り出そうとするからなぁ。
このお屋敷は全体的に落ち着いていて、安心出来る雰囲気がある。
「まぁいいか。世界うんぬんなんて話、学者ならともかく俺達には関係ないしな。俺達はただの人間だ。やるべきことをやって生活していくだけ。たとえそれが勇者や聖女だろうとな」
「確かにな」
「はい!」
勇者と聖女がうなずく。
実際、今この瞬間にも英雄殿と大公陛下の末娘であるファラリア嬢が他人にはどうにも出来ない問題で苦しんでいるんだろうが、俺達にはそれをどうすることも出来ない。
本人が解決するしかないのだ。
「で、これからの行動方針だが、前に決めた通り、大聖堂に赴くってことでいいんだな?」
「出来れば行きたくない」
「おい!」
勇者が仏頂面してまた我がままを言い出したので、思わずツッコミを入れる。
「だが、まぁ今回の件はディスタス大公国内部だけで終わらせる訳にはいかない話だ。一応あっちに報告しないとな。はぁ、師匠、俺を労わってくれ」
「なんでだ? 行きたくないのは俺も同じなんだよ。むしろこのなかで一番関係ないのは俺とメルリルなんだぞ!」
「ピャッ!」
俺達が食事会に招かれている間、部屋で大人しく待っていたフォルテが文句を言った。
「コホン、訂正する。俺とメルリルとフォルテなんだぞ!」
「師匠はメルリルとフォルテばかりに優しい!」
「当たり前だろ」
「くっ!」
弟子としては認めたが、お前はあくまでも勇者だからな。
俺のパーティメンバーじゃないんだよ!
「皆さん酷いです。大聖堂は確かにちょっと息が詰まりますが、きれいでいいところですよ」
「ミュリア、それ、フォローになってないから」
なんとか大聖堂を持ち上げようとして失敗した聖女の頭を、モンクがヨシヨシと撫でる。
ちょっとションボリする聖女を、確かにあそこ息が詰まるもんねーとか、言いながらモンクがフォローした。
「……寝るか?」
どうも俺達、いろいろあって疲れているようだ。
肉体的というよりも精神的に。
そのせいでどうでもいいことをグルグル考えてしまうのだろう。
「そうだな」
勇者も自覚があるのか素直にうなずく。
そうして俺達はそれぞれに決めた寝室に引き上げた。
寝室の寝台と寝台の間には小さ目のテーブルと、小物入れがあったりするので、野営に比べればずっと距離がある。
だが、なんとなく隣り合うベッドで寝るという行為には緊張が伴うものだ。
「お家に戻ったら、長屋のみなさんに祝福してもらって、結婚の誓いをしましょうね」
メルリルが何やら英雄殿達に感化されたのか、結婚について念を入れて来る。
いや、俺が待たせ過ぎだよな。
いくら旅の途上だからって、全然そういう話をしなけりゃ、メルリルだって不安になる。
「当たり前だろ。しかし、あのジジババ達の大騒ぎが今から目に見えるようだぞ」
「勇者さま達がいらっしゃっても、長屋前の空き地を全部使えばなんとかなるかな」
「あいつらを呼ぶのかよ! 俺は嫌だぞ」
「またそんな、思ってもいないことを言うんだから。ダスターは時々子どもっぽいです」
「うぬぬ……」
その日の夢には、なぜかそこら中に花を咲かせた長屋と、ゲラゲラと俺を指さして笑うジジババ達が出て来たのだった。
というか、この歴史ある国の暗い部分を見せつけられたような気分だ。
とは言え、今までいろいろな国を回って来たが、どの国にも強さと弱さ、美しさと醜さがあったと思う。
そう思って、なんとなく、魔王陛下……じゃなかった、アドミニス殿の言った言葉を思い出す。
「人間の身の内にも神と魔が存在する……か」
「ん? あの長生きジジイが言ったことか?」
勇者が俺の言葉を聞きとがめて、ズバリ正解を引き当てた。
おいおい、言われた言葉をそのまま呟いた訳でもないのにわかるのかよ。
俺はお前と以心伝心なんぞ嫌だからな。
「神も魔もこの世界の心なのでしょう? 私達も世界の一部、当然のことかもしれない」
メルリルがどこかぼうっとしたように言った。
森人の巫女として独自の文化の担い手であるメルリルと俺とでは、この世界の見え方が少し違うのかもしれない。
だけど、こうやって俺の思いを察してくれる。
どれほど違っても人と人は理解し合うことが出来るということなんだろうな。
「そうだな、メルリル」
「師匠、今俺のことをあからさまに無視したよな?」
「なんの話だ?」
おいおい俺とメルリルの深い共感に横やりを入れるなよ。
全く、場が読めない奴はこれだから。
『僕はこの世界が好きだよ。きれいすぎる世界には命は育たない。命は闘争から生まれるんだ。消滅と発生が絡み合うツタのように命を花咲かせる。自らの尾を噛もうとする円環の世界。貴重で美しい……』
「若葉?」
勇者のマントの留め具の上で飾りに擬態した若葉がちょろりと動いた。
だが、次の瞬間、また宝石のように硬く生命を感じさせない状態になる。
勇者がそんな若葉をツンツンとつついたが、ぴくりともしなかった。
「寝てる」
「寝言かよ!」
そうかドラゴンでも寝言を言うのか。
新たな発見だな。
俺達は、食事会の後に自分達に与えられた自室へと戻った。
使用人達や見張りも周囲にはおらず、完全に俺達だけにしておいてくれるようだ。
こういう気づかいが出来る偉いさんは少ないのでありがたい限りである。
だいたいの偉いさんは、勇者達が何を考えているのか、なんとかして探り出そうとするからなぁ。
このお屋敷は全体的に落ち着いていて、安心出来る雰囲気がある。
「まぁいいか。世界うんぬんなんて話、学者ならともかく俺達には関係ないしな。俺達はただの人間だ。やるべきことをやって生活していくだけ。たとえそれが勇者や聖女だろうとな」
「確かにな」
「はい!」
勇者と聖女がうなずく。
実際、今この瞬間にも英雄殿と大公陛下の末娘であるファラリア嬢が他人にはどうにも出来ない問題で苦しんでいるんだろうが、俺達にはそれをどうすることも出来ない。
本人が解決するしかないのだ。
「で、これからの行動方針だが、前に決めた通り、大聖堂に赴くってことでいいんだな?」
「出来れば行きたくない」
「おい!」
勇者が仏頂面してまた我がままを言い出したので、思わずツッコミを入れる。
「だが、まぁ今回の件はディスタス大公国内部だけで終わらせる訳にはいかない話だ。一応あっちに報告しないとな。はぁ、師匠、俺を労わってくれ」
「なんでだ? 行きたくないのは俺も同じなんだよ。むしろこのなかで一番関係ないのは俺とメルリルなんだぞ!」
「ピャッ!」
俺達が食事会に招かれている間、部屋で大人しく待っていたフォルテが文句を言った。
「コホン、訂正する。俺とメルリルとフォルテなんだぞ!」
「師匠はメルリルとフォルテばかりに優しい!」
「当たり前だろ」
「くっ!」
弟子としては認めたが、お前はあくまでも勇者だからな。
俺のパーティメンバーじゃないんだよ!
「皆さん酷いです。大聖堂は確かにちょっと息が詰まりますが、きれいでいいところですよ」
「ミュリア、それ、フォローになってないから」
なんとか大聖堂を持ち上げようとして失敗した聖女の頭を、モンクがヨシヨシと撫でる。
ちょっとションボリする聖女を、確かにあそこ息が詰まるもんねーとか、言いながらモンクがフォローした。
「……寝るか?」
どうも俺達、いろいろあって疲れているようだ。
肉体的というよりも精神的に。
そのせいでどうでもいいことをグルグル考えてしまうのだろう。
「そうだな」
勇者も自覚があるのか素直にうなずく。
そうして俺達はそれぞれに決めた寝室に引き上げた。
寝室の寝台と寝台の間には小さ目のテーブルと、小物入れがあったりするので、野営に比べればずっと距離がある。
だが、なんとなく隣り合うベッドで寝るという行為には緊張が伴うものだ。
「お家に戻ったら、長屋のみなさんに祝福してもらって、結婚の誓いをしましょうね」
メルリルが何やら英雄殿達に感化されたのか、結婚について念を入れて来る。
いや、俺が待たせ過ぎだよな。
いくら旅の途上だからって、全然そういう話をしなけりゃ、メルリルだって不安になる。
「当たり前だろ。しかし、あのジジババ達の大騒ぎが今から目に見えるようだぞ」
「勇者さま達がいらっしゃっても、長屋前の空き地を全部使えばなんとかなるかな」
「あいつらを呼ぶのかよ! 俺は嫌だぞ」
「またそんな、思ってもいないことを言うんだから。ダスターは時々子どもっぽいです」
「うぬぬ……」
その日の夢には、なぜかそこら中に花を咲かせた長屋と、ゲラゲラと俺を指さして笑うジジババ達が出て来たのだった。
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