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第六章 その祈り、届かなくとも……
563 守護者
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「さて、ルートだが、すでに二翼国周辺では戦いが始まっているとのことなので、辻馬車などを利用するのは無理だろう。だからと言って歩いて向かっていては間に合わない。そこで大森林を突っ切ることにする」
「大森林を突っ切るほうが時間がかかるんじゃないか?」
俺の提案に勇者が疑問を挟んだ。
「忘れたか、うちにはメルリルがいる」
「なるほど。あのなんとかの道を使うんだな」
「精霊の道です」
勇者のいい加減な記憶にメルリルがツッコミを入れる。
「ただし、メルリルの精霊の道は迷宮化した部分は通れない。森の外縁部をなぞるように進むことになる。それと精霊の道に長時間い続けるのは生き物にとっては危険とのことなので、間に休憩を挟むから、それでも少なくとも一日半はかかるだろう」
「この距離を一日半ですか? さすがというか、馬車よりもそうとう早いですね」
俺の説明に聖騎士が感心した。
俺たちが今いるのが王都なので、森まで到達するまでの時間が一番長い。
辻馬車を使っていては間に合わないので荷馬車を買い上げる。
そして山岳馬たちとはここでお別れだ。
王都の教会に相談して預かってもらうことになった。
聖女が特別気にかけている動物だと説明したところ「大切にお世話いたします」と、ニコニコしながら請け負ってくれたので大丈夫だろう。
聖女は悲しそうだったが、戦地に連れて行くよりは安心ということで納得してくれた。
その際の涙ながらのお別れが周囲の感動を呼んだ。
教会の厩舎担当の男が「命にかえてもこの子たちを幸せにしてみせます!」などと聖女に誓ったりしてたな。
実は本来は辺境領を経由して出国手続きをする必要があるのだが、今回は無視する。
あそこに寄って素通り出来る訳がないからだ。
幸い二翼国の南西の国アンデルは大森林沿いの国なので、直接入国出来る。
どの国でもそうだが、森側からの旅人は想定していないし、魔物に対する防衛線があるので、人間の侵入にあまり注意を払っていない。
いろいろと横紙破りのやり方だったが、そこは勇者の立場がものを言う。
本来勇者は国に縛られない存在だ。
そのため、国境はフリーパスなのである。
これまでは混乱を避けるためにいちいち国境で申告していたが、今回はぜひ混乱してもらおうじゃないか。
「師匠、悪い顔をしているぞ」
「お前に言われたくないな」
こっちは長い旅から戻って地元でゆっくりと羽を伸ばして、そして、落ち着いた頃合いで親しい人間に囲まれた結婚式を計画していたのだ。
それを戦争とか余計なことで台無しにしてくれたバカ共には、少々思い知らせてやる必要があるだろう。
「これまでお前は周囲に多少遠慮していたんだろ? だがな、勇者という存在が現実にいる時代に戦争をおっぱじめる国がいるというのは、お前、なめられてるってことなんだぞ? わかっているのか?」
「うっ!」
俺の指摘に勇者が顔を歪める。
「ここらで一発ぶち上げろ! 民を苦しめる者はたとえそれが人間であろうとも容赦はしないと、な」
「……お師匠さま、少し過激」
聖女が俺の言葉を受けてそう言って、そして微笑んだ。
実に美しい、まさに聖女の笑みだった。
「でも、そうですね。ぶち上げましょう!」
残念ながら発言はかなり過激だった。
いや、俺が言ったことをなぞっているだけだけど、聖女に言わせることじゃなかったな。
反省する。
「わかった。ぶち上げよう」
勇者まで真似をした。
「よっし、ぶち上げるよ!」
「わかりました。ぶち上げましょう」
モンクと聖騎士が続く。
お前ら、ちょっとわざと言ってる?
俺は少し恥ずかしくなってきてるんだが。
「え、えっと、あの、ぶち上げ、ますね?」
「メルリル、意味がわからないなら無理しなくていいから」
戸惑いながら真似をするメルリルは可愛いけどな。
「ピャッ!」
「ガフン!」
フォルテと、なにやら半透明の若葉まで真似している。
くそっ、もう二度とこんな似合わないことしないからな。
「……ところで、その半透明な若葉はなんだ?」
「剣の鞘のなかから精神体を投影しているらしい」
「まるでその剣に宿った精霊みたいだな」
「いいですね、それ。今後はそれでごまかしませんか? 勇者の剣ならそれぐらいの不思議があっても誰もおかしく思わないでしょう」
だんだんノリがよくなって来ている聖騎士がそんなことを言った。
……まぁそれでいいんじゃないかな? 本体が出て来るよりもずっと安心だしな。
「剣にドラゴンを宿した勇者か。まぁ型破りでいいかもな」
意外と勇者自身も気に入ったようだ。
『僕、アルフの守護竜やる!』
若葉がそのノリのままおかしなことを言い始めたが、俺たちは無視することにした。
なにやら引き返せないところに足を突っ込んでしまったような気がするが、きっと気のせいだ。
購入した馬車を飛ばし、まずは大森林の外縁部に辿り着く。
大森林の奥深くまで切り開いて作られた俺の拠点である先駆けの郷だと遠回りになるので、まだ開かれていない北部のほうだ。
そこの開拓村で馬車を適当に売り、森へと入り込む。
そして森のなかでメルリルに精霊の道を開いてもらったのだが……。
「おおっ! 前に使ったときよりも広くなってないか? それに風景がくっきりとしている」
勇者が驚いたように言う。
確かにメルリルの道は前とは様相が違っていた。
「多分、精霊の国に入って精霊とのつながりが強固になったせいだと思う」
笛をなくしてからはもっぱら聖者さまからもらった宝石で出来た花のような神璽を翳しながら歌うことで巫女としての力を使っているメルリルは、神璽を胸元に留めて俺たちの会話に加わった。
道は一度開けば不安定でない限りは維持し続ける必要はない。
メルリルも道を歩きながら会話が出来るのだ。
「あれが影響しているのか」
実際、周囲の風景は、以前のツタの絡まる洞窟から、花咲き誇る野原の真ん中の道へと姿を変えていた。
周囲に咲き誇る花が急速に育って花開いて砕け、そしてまた育つという状態でなければ美しい野原にいるだけのような錯覚を起こしそうだ。
いい香りまでしてきた。
「これは少し向こう側に近すぎる。休息は早めに取ったほうがいいかも。幸い踏破出来る距離も伸びているようなので、休息を多めに入れても距離はかなりかせげると思う」
「わかった。アルフ、それでいいか?」
「問題ない。こういうことは専門家に任せる」
「そうだな」
まさか勇者の口から任せるという言葉が出るとはな。
予想とは違うことがいろいろ起きてはいるが、とりあえず俺たちの旅は順調に進んでいた。、
「大森林を突っ切るほうが時間がかかるんじゃないか?」
俺の提案に勇者が疑問を挟んだ。
「忘れたか、うちにはメルリルがいる」
「なるほど。あのなんとかの道を使うんだな」
「精霊の道です」
勇者のいい加減な記憶にメルリルがツッコミを入れる。
「ただし、メルリルの精霊の道は迷宮化した部分は通れない。森の外縁部をなぞるように進むことになる。それと精霊の道に長時間い続けるのは生き物にとっては危険とのことなので、間に休憩を挟むから、それでも少なくとも一日半はかかるだろう」
「この距離を一日半ですか? さすがというか、馬車よりもそうとう早いですね」
俺の説明に聖騎士が感心した。
俺たちが今いるのが王都なので、森まで到達するまでの時間が一番長い。
辻馬車を使っていては間に合わないので荷馬車を買い上げる。
そして山岳馬たちとはここでお別れだ。
王都の教会に相談して預かってもらうことになった。
聖女が特別気にかけている動物だと説明したところ「大切にお世話いたします」と、ニコニコしながら請け負ってくれたので大丈夫だろう。
聖女は悲しそうだったが、戦地に連れて行くよりは安心ということで納得してくれた。
その際の涙ながらのお別れが周囲の感動を呼んだ。
教会の厩舎担当の男が「命にかえてもこの子たちを幸せにしてみせます!」などと聖女に誓ったりしてたな。
実は本来は辺境領を経由して出国手続きをする必要があるのだが、今回は無視する。
あそこに寄って素通り出来る訳がないからだ。
幸い二翼国の南西の国アンデルは大森林沿いの国なので、直接入国出来る。
どの国でもそうだが、森側からの旅人は想定していないし、魔物に対する防衛線があるので、人間の侵入にあまり注意を払っていない。
いろいろと横紙破りのやり方だったが、そこは勇者の立場がものを言う。
本来勇者は国に縛られない存在だ。
そのため、国境はフリーパスなのである。
これまでは混乱を避けるためにいちいち国境で申告していたが、今回はぜひ混乱してもらおうじゃないか。
「師匠、悪い顔をしているぞ」
「お前に言われたくないな」
こっちは長い旅から戻って地元でゆっくりと羽を伸ばして、そして、落ち着いた頃合いで親しい人間に囲まれた結婚式を計画していたのだ。
それを戦争とか余計なことで台無しにしてくれたバカ共には、少々思い知らせてやる必要があるだろう。
「これまでお前は周囲に多少遠慮していたんだろ? だがな、勇者という存在が現実にいる時代に戦争をおっぱじめる国がいるというのは、お前、なめられてるってことなんだぞ? わかっているのか?」
「うっ!」
俺の指摘に勇者が顔を歪める。
「ここらで一発ぶち上げろ! 民を苦しめる者はたとえそれが人間であろうとも容赦はしないと、な」
「……お師匠さま、少し過激」
聖女が俺の言葉を受けてそう言って、そして微笑んだ。
実に美しい、まさに聖女の笑みだった。
「でも、そうですね。ぶち上げましょう!」
残念ながら発言はかなり過激だった。
いや、俺が言ったことをなぞっているだけだけど、聖女に言わせることじゃなかったな。
反省する。
「わかった。ぶち上げよう」
勇者まで真似をした。
「よっし、ぶち上げるよ!」
「わかりました。ぶち上げましょう」
モンクと聖騎士が続く。
お前ら、ちょっとわざと言ってる?
俺は少し恥ずかしくなってきてるんだが。
「え、えっと、あの、ぶち上げ、ますね?」
「メルリル、意味がわからないなら無理しなくていいから」
戸惑いながら真似をするメルリルは可愛いけどな。
「ピャッ!」
「ガフン!」
フォルテと、なにやら半透明の若葉まで真似している。
くそっ、もう二度とこんな似合わないことしないからな。
「……ところで、その半透明な若葉はなんだ?」
「剣の鞘のなかから精神体を投影しているらしい」
「まるでその剣に宿った精霊みたいだな」
「いいですね、それ。今後はそれでごまかしませんか? 勇者の剣ならそれぐらいの不思議があっても誰もおかしく思わないでしょう」
だんだんノリがよくなって来ている聖騎士がそんなことを言った。
……まぁそれでいいんじゃないかな? 本体が出て来るよりもずっと安心だしな。
「剣にドラゴンを宿した勇者か。まぁ型破りでいいかもな」
意外と勇者自身も気に入ったようだ。
『僕、アルフの守護竜やる!』
若葉がそのノリのままおかしなことを言い始めたが、俺たちは無視することにした。
なにやら引き返せないところに足を突っ込んでしまったような気がするが、きっと気のせいだ。
購入した馬車を飛ばし、まずは大森林の外縁部に辿り着く。
大森林の奥深くまで切り開いて作られた俺の拠点である先駆けの郷だと遠回りになるので、まだ開かれていない北部のほうだ。
そこの開拓村で馬車を適当に売り、森へと入り込む。
そして森のなかでメルリルに精霊の道を開いてもらったのだが……。
「おおっ! 前に使ったときよりも広くなってないか? それに風景がくっきりとしている」
勇者が驚いたように言う。
確かにメルリルの道は前とは様相が違っていた。
「多分、精霊の国に入って精霊とのつながりが強固になったせいだと思う」
笛をなくしてからはもっぱら聖者さまからもらった宝石で出来た花のような神璽を翳しながら歌うことで巫女としての力を使っているメルリルは、神璽を胸元に留めて俺たちの会話に加わった。
道は一度開けば不安定でない限りは維持し続ける必要はない。
メルリルも道を歩きながら会話が出来るのだ。
「あれが影響しているのか」
実際、周囲の風景は、以前のツタの絡まる洞窟から、花咲き誇る野原の真ん中の道へと姿を変えていた。
周囲に咲き誇る花が急速に育って花開いて砕け、そしてまた育つという状態でなければ美しい野原にいるだけのような錯覚を起こしそうだ。
いい香りまでしてきた。
「これは少し向こう側に近すぎる。休息は早めに取ったほうがいいかも。幸い踏破出来る距離も伸びているようなので、休息を多めに入れても距離はかなりかせげると思う」
「わかった。アルフ、それでいいか?」
「問題ない。こういうことは専門家に任せる」
「そうだな」
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