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第六章 その祈り、届かなくとも……
540 五感で知ること全て研究である
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「ダンゴムシというのはだね……」
学者先生が話しだしたところに。
「あ、私知ってる。石の下にごっそり集まっているやつだよね。丸丸鳥の餌にぴったりなんだよね」
と、モンクが口を挟んだ。
自由だな。
「ふむ、テスタ……君だったかな。君の言っているのは陸上の甲殻類である等脚類の小さな生き物のことだね。あれは実は虫ではないのだよ」
「えっ、そうなんですか?」
「河原でよく見かけるサワガニとかいるだろう? あれと同じ仲間だね」
「うそっ! 全然似てないのに」
「うむ。見た目は似ていなくても、体の作りや生態などがとても近いのだ。鳥にとってはごちそうだろうな」
「ほえー、勉強になりました」
「うん。知識が増えるのは素晴らしいことだろう?」
学者先生の講義が始まってしまった。
「ということはその荒野のダンゴムシというのは虫なんだな」
今度は勇者が意見を言う。
「そうだ。さすがは勇者殿だな」
「勇者殿はよしてくれ。名前で呼べ」
「おお、失礼した。アルフレッド殿。君の言った通り、荒野で発見されたダンゴムシは分類上虫だ。西で民間でダンゴムシと呼ばれているものがいるので少々ややこしいが、この呼称は現地の精霊の民の慣れ親しんだ呼び名なので、我々の都合で変える訳にもいかないからね」
「確かに」
「そうだな、仮に荒野ダンゴムシと呼ぶことにしよう。このほうがわかりやすいだろう」
「西でもこの大連合でも通じるだろうな。わかりやすいということは大切だ」
「うむ。さすがにアルフレッド殿は学習の真髄がわかっている。そう、わかりやすさは大切だ。我々学者と呼ばれる者が分類し命名するときに注意している点だよ」
勇者の言葉に学者先生が大きくうなずく。
「さて、その荒野ダンゴムシだが、その名前の由来は、身に危険が迫ると丸い小石に擬態するからということらしい」
「石なのにダンゴですか?」
今度は俺が尋ねた。
「ほら、子どもたちがよく作るだろう? 泥を固めたやつ」
「ああ、泥団子ですか?」
「そうそう、あれに似ているということからダンゴムシなのだそうだ」
「ははぁ」
ということはその名前をつけたのは子どもだな。
「このダンゴムシだが、なんと言うか、驚くべき生態をしているのだ」
学者先生が話を続ける。
「こいつは移動するときに風に転がされて移動するのだが、その転がりついた場所である種の虫にとって魅力的な餌に似た匂いの分泌物を排出して別の虫を誘う」
「別の虫?」
「ああ。生き物の排泄物から栄養を摂取するような羽虫のたぐいだな」
「全然違う生き物ですね。俺はてっきり仲間を呼ぶのかと思いました」
「はは。こいつはあまり群れない虫なのだよ。呼ばれた羽虫は餌の匂いがするので探すが見つからない。しかし美味しそうな匂いは魅力的で離れられない。そうして未練たらしくうろうろしているうちに餓死してしまう」
「うわぁ」
メルリルが思わずといった風に顔をしかめた。
騙された虫に同情しているのだろう。
優しいな。
「この荒野ダンゴムシが面白いのはその死体を直接食べるのではなく、キノコの胞子を植え付けて栽培を行う点にあるんだ」
「栽培を? 虫がですか?」
「ふふっ、不思議だろう?」
「もしかして魔物化した虫とか?」
「いや、魔物化の特徴は全くない。普通の虫だよ」
「驚きですね。確かに一部の虫は驚くほど賢い行動を取りますが、栽培とは、また……」
「うんうん。そしてそのキノコは精霊の民から奇跡のキノコと呼ばれている」
「奇跡?」
「とんでもなく美味いらしい。なんと手のひらに乗るぐらいのキノコ一本が鉄のロングソード一本と交換されているほど価値がある」
「……うそでしょう?」
「いやいや、本当だ」
いくら美味いと言ってもキノコ一本と剣じゃ割りが合わないと思うんだが、マジか。
そうなるとちょっと食ってみたいな。
「という訳で、君たちへの護衛料はこの奇跡のキノコだな」
そう言って、先生は大事そうに箱を取り出した。
蓋を開けると驚くほど白く、柄の部分が太いキノコが顔を出した。
傘部分は閉じているのか丸っこい。
「いや、ちょっと先生。確かにご馳走してくださいと言いましたけど。そんな高価なものいただけませんよ」
「なに、食べて自分で感じたことを記したり、自分以外に食べた感想を聞くのも研究の一環だよ。保管用や提出用はほかにある。こっちはもともと食べる用だったのさ。数は五本しかないが、切り分ければ問題ない。さて、さっそく現地で聞いた一番美味い食い方を試してみるか?」
……すごい香りだ。
蓋を開けただけなのにもうこの天幕のなかになんとも言えないいい香りが満ちている。
俺はごくりと喉を鳴らした。
「そういうことなら喜んで。……食べ方もいろいろ試してみませんか?」
「おお、さすがだなぁ。未知の食材を任せるのはやはり君が一番だからな」
「おまかせください」
間食してからそう時間は経ってないはずだが、急激に湧き上がる食欲に抗えなかった。
見れば全員同じ気持ちを感じさせるうっとりとしたような顔をしている。
さて、どう料理するかな。
学者先生が話しだしたところに。
「あ、私知ってる。石の下にごっそり集まっているやつだよね。丸丸鳥の餌にぴったりなんだよね」
と、モンクが口を挟んだ。
自由だな。
「ふむ、テスタ……君だったかな。君の言っているのは陸上の甲殻類である等脚類の小さな生き物のことだね。あれは実は虫ではないのだよ」
「えっ、そうなんですか?」
「河原でよく見かけるサワガニとかいるだろう? あれと同じ仲間だね」
「うそっ! 全然似てないのに」
「うむ。見た目は似ていなくても、体の作りや生態などがとても近いのだ。鳥にとってはごちそうだろうな」
「ほえー、勉強になりました」
「うん。知識が増えるのは素晴らしいことだろう?」
学者先生の講義が始まってしまった。
「ということはその荒野のダンゴムシというのは虫なんだな」
今度は勇者が意見を言う。
「そうだ。さすがは勇者殿だな」
「勇者殿はよしてくれ。名前で呼べ」
「おお、失礼した。アルフレッド殿。君の言った通り、荒野で発見されたダンゴムシは分類上虫だ。西で民間でダンゴムシと呼ばれているものがいるので少々ややこしいが、この呼称は現地の精霊の民の慣れ親しんだ呼び名なので、我々の都合で変える訳にもいかないからね」
「確かに」
「そうだな、仮に荒野ダンゴムシと呼ぶことにしよう。このほうがわかりやすいだろう」
「西でもこの大連合でも通じるだろうな。わかりやすいということは大切だ」
「うむ。さすがにアルフレッド殿は学習の真髄がわかっている。そう、わかりやすさは大切だ。我々学者と呼ばれる者が分類し命名するときに注意している点だよ」
勇者の言葉に学者先生が大きくうなずく。
「さて、その荒野ダンゴムシだが、その名前の由来は、身に危険が迫ると丸い小石に擬態するからということらしい」
「石なのにダンゴですか?」
今度は俺が尋ねた。
「ほら、子どもたちがよく作るだろう? 泥を固めたやつ」
「ああ、泥団子ですか?」
「そうそう、あれに似ているということからダンゴムシなのだそうだ」
「ははぁ」
ということはその名前をつけたのは子どもだな。
「このダンゴムシだが、なんと言うか、驚くべき生態をしているのだ」
学者先生が話を続ける。
「こいつは移動するときに風に転がされて移動するのだが、その転がりついた場所である種の虫にとって魅力的な餌に似た匂いの分泌物を排出して別の虫を誘う」
「別の虫?」
「ああ。生き物の排泄物から栄養を摂取するような羽虫のたぐいだな」
「全然違う生き物ですね。俺はてっきり仲間を呼ぶのかと思いました」
「はは。こいつはあまり群れない虫なのだよ。呼ばれた羽虫は餌の匂いがするので探すが見つからない。しかし美味しそうな匂いは魅力的で離れられない。そうして未練たらしくうろうろしているうちに餓死してしまう」
「うわぁ」
メルリルが思わずといった風に顔をしかめた。
騙された虫に同情しているのだろう。
優しいな。
「この荒野ダンゴムシが面白いのはその死体を直接食べるのではなく、キノコの胞子を植え付けて栽培を行う点にあるんだ」
「栽培を? 虫がですか?」
「ふふっ、不思議だろう?」
「もしかして魔物化した虫とか?」
「いや、魔物化の特徴は全くない。普通の虫だよ」
「驚きですね。確かに一部の虫は驚くほど賢い行動を取りますが、栽培とは、また……」
「うんうん。そしてそのキノコは精霊の民から奇跡のキノコと呼ばれている」
「奇跡?」
「とんでもなく美味いらしい。なんと手のひらに乗るぐらいのキノコ一本が鉄のロングソード一本と交換されているほど価値がある」
「……うそでしょう?」
「いやいや、本当だ」
いくら美味いと言ってもキノコ一本と剣じゃ割りが合わないと思うんだが、マジか。
そうなるとちょっと食ってみたいな。
「という訳で、君たちへの護衛料はこの奇跡のキノコだな」
そう言って、先生は大事そうに箱を取り出した。
蓋を開けると驚くほど白く、柄の部分が太いキノコが顔を出した。
傘部分は閉じているのか丸っこい。
「いや、ちょっと先生。確かにご馳走してくださいと言いましたけど。そんな高価なものいただけませんよ」
「なに、食べて自分で感じたことを記したり、自分以外に食べた感想を聞くのも研究の一環だよ。保管用や提出用はほかにある。こっちはもともと食べる用だったのさ。数は五本しかないが、切り分ければ問題ない。さて、さっそく現地で聞いた一番美味い食い方を試してみるか?」
……すごい香りだ。
蓋を開けただけなのにもうこの天幕のなかになんとも言えないいい香りが満ちている。
俺はごくりと喉を鳴らした。
「そういうことなら喜んで。……食べ方もいろいろ試してみませんか?」
「おお、さすがだなぁ。未知の食材を任せるのはやはり君が一番だからな」
「おまかせください」
間食してからそう時間は経ってないはずだが、急激に湧き上がる食欲に抗えなかった。
見れば全員同じ気持ちを感じさせるうっとりとしたような顔をしている。
さて、どう料理するかな。
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