上 下
432 / 885
第六章 その祈り、届かなくとも……

537 家に戻るまでが旅である

しおりを挟む
 船着き場ではピャラウとフォウが待っていた。

「せいれいおうさま!」

 フォウさん、やめてください。
 フォウはとんでもないことを叫びながら俺の足に抱きついて来た。
 当然周囲の目が集中し、俺の頭上にいるフォルテが衆目にさらされる。

「おお……ありがたや」
「我らをお救いくださり、ありがとうございます」

 拝むな、泣いている人までいるぞ。
 ちょ、収拾つかないじゃねえか。
 こういうこともあろうかとフードを深く被っていたが、フォルテは堂々と頭の上にいるからな。
 勇者のほうにでも行ってくれればよかったんだが、こいつどうも勇者と相性が悪い。
 しかもそこに若葉が加わったせいで、勇者の近くには全く近寄らなくなった。
 残念ながら押し付けられなかったのである。

「ダスターさん、やっぱり精霊王の依代の御方だったのですね」
「やっぱりってなんだ。違うぞ。誤解だ。フォルテが青い鳥ってだけだ」

 ピャラウまでそんなことを言い出したのできっちりと誤解を解く。

「はい。わかっています。ほら、フォウもそんな大声で言ったらご迷惑でしょう?」
「うん。ごめんね。せいれいおうさま」
「違うからな」

 これ以上このオアシスに滞在するととんでもないことになりそうだったので、早々に出立することにした。
 俺たちはオアシスの入り口の街である連合区に一泊した後、大巫女様やピャラウやフォウ、それと酒場で俺たちの話を吹聴して回ってくれたらしい大巫女様の護衛の戦士に別れを告げ、ミホムに戻るべくまず大連合の入り口である市場バザールに戻る。
 
「お師匠様、リンちゃんたちはどうしますか?」

 聖女が不安そうに聞いて来た。

「連れて行けばいいだろう? 馬は大聖堂に預けたままだし、急ぎの旅でなければ荷物を積んで歩いて移動しても構わないし。お前たちはどうせ辻馬車とかには乗らないよな?」
「はい。通常の街道を通っていては淀みは見つかりにくいので」
「それなら大聖堂まで山岳馬リャマで戻ってそのままあそこで世話してもらえばいい。まぁ山岳馬リャマは山地や荒野に強い生き物だからこの辺のほうが需要があるし、ここか市場バザールで馬に買い換えるという方法もあるが」
「い、いいえ!」

 俺がそう提案すると、聖女が慌てて首を横に振る。

「わたくし、この子たちがいいです」

 どうやらすっかり情が移ってしまったようだ。
 オアシスから市場バザールまでの道は、来るときにピャラウに聞いた道の覚え方のおかげで最短距離で辿り着くことが出来た。

 大連合と他国との交流の街、市場バザールはオアシスとはまた違う喧騒に満ちている。
 姿を偽らずに俺の頭で丸まっているフォルテを見ても首をかしげるぐらいでいきなり拝みだす人もほとんどいない。
 うんうん、こういう適度な距離感がやはり心地良いな。
 とは言え、市場バザールには長く留まることはない。
 旅の準備を再度整えたらミホムに出立だ。

「と言うことで、お前たちとはここでお別れだな」
「ん? どういうことだ、師匠?」

 俺の宣言に勇者が不思議そうに聞き返した。

「いいか。俺はミホムに戻って普通の冒険者の仕事を続ける。お前たちは勇者として世界の安寧のための旅を続ける。ここで別れるのが潮時だ」
「え? 嫌だけど」

 勇者が真顔で即答した。

「嫌とかいいとかいう話じゃないだろ? 俺たちはそもそも役割が違う。それぞれのやるべきことをやる。当たり前のことだろ」
「だって、俺は師匠の弟子だから。弟子は師についてその教えを受けるのが当然だ」
「お前に教えることは何もない」
「俺はまだ教わることだらけだ」
「帰れ」
「嫌だ」
「ダスター」

 俺が勇者を根気よく説得していると、メルリルが笑って言った。

「勇者様と若葉さんのやりとりにそっくり」
「うぐっ」

 つまりそれはこいつが若葉なみに聞き分けがないということか?
 いや、知ってたけどな。

「とにかく俺は戻る。俺の仕事の邪魔は許さないぞ」

 許さないと言いはしても、具体的に勇者相手に何が出来る訳でもないんだよな。
 そこが痛いところではある。

「わかった。師匠の仕事の邪魔はしない」
「うぬぬ……」

 駄目だ。
 俺にはこいつを説得する力がない。
 己の力不足に愕然とするほかない。
 大巫女様はああ言ったが、こんな有様で英雄とか絶対ないからな。
しおりを挟む
感想 3,670

あなたにおすすめの小説

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!

八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。 『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。 魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。 しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も… そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。 しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。 …はたして主人公の運命やいかに…

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

スライムと異世界冒険〜追い出されたが実は強かった

Miiya
ファンタジー
学校に一人で残ってた時、突然光りだし、目を開けたら、王宮にいた。どうやら異世界召喚されたらしい。けど鑑定結果で俺は『成長』 『テイム』しかなく、弱いと追い出されたが、実はこれが神クラスだった。そんな彼、多田真司が森で出会ったスライムと旅するお話。 *ちょっとネタばれ 水が大好きなスライム、シンジの世話好きなスライム、建築もしてしまうスライム、小さいけど鉱石仕分けたり探索もするスライム、寝るのが大好きな白いスライム等多種多様で個性的なスライム達も登場!! *11月にHOTランキング一位獲得しました。 *なるべく毎日投稿ですが日によって変わってきますのでご了承ください。一話2000~2500で投稿しています。 *パソコンからの投稿をメインに切り替えました。ですので字体が違ったり点が変わったりしてますがご了承ください。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。