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第五章 破滅を招くもの
348 見知らぬ客人の遇し方
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ファンタジー地図作成サイトの「inkarnate worlds」さんを利用して地図を作ってみました。
赤丸が主人公たちの現在地です。
見にくい場合は高画質版を設定資料としてアップするのでそっちを見てくださいね。
「どうぞ、粗末なものしかありませんが」
どうやら俺たちが勇者一行と聞いたらしい里長の奥方が俺たちに茶を配ってくれた。
どこか態度に戸惑いを感じる。
カップは木を削り出して作ったものだ。
「ありがとうございます」
ひと口すする。
すっとさわやかな香りと、ほのかに甘味のある味わい。
これは新鮮な青葉を使ったものだろう。いいお茶だ。
「美味しいお茶ですね」
俺がそう言うと、少し緊張がほぐれたのか奥方が微笑む。
「俺たち森人は植物を見るとだいたいその味や使いどころがわかるんだ。こんな粗末な集落でもなんとか命を繋いでるのはこの能力のおかげだな」
里長がそう説明してくれた。
なるほど、精霊の声を聞けずとも、森人の能力は森ではかなり有用らしい。
「で、俺たちの現状は正直に話した。あんたたちの事情も聞かせちゃくれまいか?」
一息ついたところで里長が切り込んで来た。
そりゃあそうだよな。
どう考えても俺たちは怪しすぎる。
「ここは勇者さまが説明するところだろうな」
俺は勇者に視線を送って促した。
なぜか我関せずとゆったりと茶を飲んでいる姿が腹立たしい。
「えっ、俺が説明していいのか? まぁ師匠が言うなら説明するけど」
「へぇ?」
勇者が俺を師匠呼びしたことで、師匠が面白そうに俺を見た。
って、師匠師匠でややっこしいな。
「……お前がリーダーだぞ。説明するべきだ」
「わかった」
俺の言葉に勇者がうなずいて説明を始める。
「俺たちは世界救済の旅をしている。まぁそれが勇者の役割だからな。それについては特に説明する必要もないだろう。だが今俺たちがこの東部地域を訪れているのは、特別な事情が発生したからだ。先日大聖堂は神より賜った神託を発表した。それは世界崩壊の予言だ」
勇者の言葉に、さすがの師匠も驚いたようだった。
ちらりと俺を見るのでうなずいて見せる。
「その崩壊は東から訪れるということだった。それで俺たちは世界崩壊の原因となるものを探して、崩壊を阻止するために大陸東部にやって来たという訳だ」
説明を終えた勇者の言葉をどう受け止めていいのか、里長は困惑しているようだった。
それはそうだろう。
彼らは教会の教えや神の盟約とは何かということすら知らないはずだ。
まぁある程度は師匠から伝え聞いているかもしれないが。
そんな状態でいきなりご神託やら世界の崩壊とか言われたところで危機感を抱くことは難しいだろうな。
西側の国でも今回の件でまともに危機感を抱けるのは一定の知識階級以上だと思う。
教会の教えが取りこぼした貧しい者は多い。
彼らにとって神よりはその日の糧のほうが大事なのだ。
まぁ教会は食い詰めた連中に炊き出しや施しをたまに行うから嫌われちゃいないけどな。
「ふむ。正直に言うと、勇者さまだ、大聖堂だとおっしゃられても、我らにとっては詩人が祭りの夜に囁く物語のようなものだ。現実味がないというか、信じ難い気持ちになってしまう。だが、俺の千切れた腕をくっつけてくださったのは間違いなくそこのお嬢ちゃんで、聖女さまだとおっしゃる。俺にとっては恩人だ。それにあんたたちにはいきなり攻撃をしかけた不始末の借りもある。信じ難きも信じようとは思う」
そこまで言って、里長はコンコンと床を指で弾いた。
「だが、それは俺個人の気持ちに過ぎない。里の連中が納得するかどうかはちょっと保証出来ねぇ。すまないな」
そう言って里長は頭を下げる。
「おい、やめろ。あんたに頭を下げてもらっても俺たちには意味がないぞ。……あー、そうだな。里人への説明は、師匠……ダスター殿がやってくれるさ。そういうことは得意なんだ」
「は?」
いきなり俺に振った勇者を信じられない思いで見つめる。
勇者は俺を信頼のこもった目で見返していた。
嘘だろ、勇者の信頼が重い。
「ほう。それは助かります」
里長も勇者の言葉に乗っかるなよ。
今日いきなり来た余所者が、深い事情もそこそこしか知らずに不信感で一杯の人間を説得出来るはずねえだろ!
と言うか、師匠がすげえ楽しそうな顔をしてやがる。
そんなに自分の弟子が困っているのが面白いか?
面白いんだろうな!
「……とりあえず里の様子を見て歩いていいかな?」
「俺が付き添いますか?」
「いや、俺一人でいい」
「私も行きます!」
俺が里長の付き添いを断ると、間髪入れずにメルリルが声を上げた。
「里のみなさんも私が一緒のほうが安心するはずです」
「確かに」
里長もうなずく。
「俺も行く」
「お前は来るな」
「なんでだ!」
続いて名乗りを上げた勇者を、きっちりと拒絶した。
「お前は勇者さまで神の御子なんだぞ。それが里人に幻滅されでもしたら盟約の神への不信に繋がる。絶対ダメだ」
「……師匠が俺に厳しい」
「いつものことじゃない」
がっくりとする勇者を揶揄するようにモンクが言った。
おい、俺はそんなにいつも勇者に厳しくしてないぞ。
むしろ優しいだろ。
「私がお付きしましょうか?」
今度は聖騎士が言った。
外の敵意を感じ取って俺を守ってくれるつもりなんだろう。
しかし今はそれは悪手だ。
「いい。大丈夫だ。俺だってそこそこやれるんだぜ」
「そうですね。ダスター殿は私などよりもよほど頼りになります」
「それは買いかぶりだが」
ということで、俺はメルリルと一緒に外に出てみることにした。
フォルテと若葉もなぜかついて来ている。
出来ればついて来ないで欲しいんだが、フォルテだけなら追い返せるが、若葉は絶対言うこときかないしな。
そうなると若葉がやらかしたときにフォルテがいないと止められないということになる。
若葉を牽制するためにもフォルテの存在は必須なのだ。
結局俺はこいつらに関しては無力でしかない。
若葉、お前ほんと、早く営巣地に帰ってくれよ。
赤丸が主人公たちの現在地です。
見にくい場合は高画質版を設定資料としてアップするのでそっちを見てくださいね。
「どうぞ、粗末なものしかありませんが」
どうやら俺たちが勇者一行と聞いたらしい里長の奥方が俺たちに茶を配ってくれた。
どこか態度に戸惑いを感じる。
カップは木を削り出して作ったものだ。
「ありがとうございます」
ひと口すする。
すっとさわやかな香りと、ほのかに甘味のある味わい。
これは新鮮な青葉を使ったものだろう。いいお茶だ。
「美味しいお茶ですね」
俺がそう言うと、少し緊張がほぐれたのか奥方が微笑む。
「俺たち森人は植物を見るとだいたいその味や使いどころがわかるんだ。こんな粗末な集落でもなんとか命を繋いでるのはこの能力のおかげだな」
里長がそう説明してくれた。
なるほど、精霊の声を聞けずとも、森人の能力は森ではかなり有用らしい。
「で、俺たちの現状は正直に話した。あんたたちの事情も聞かせちゃくれまいか?」
一息ついたところで里長が切り込んで来た。
そりゃあそうだよな。
どう考えても俺たちは怪しすぎる。
「ここは勇者さまが説明するところだろうな」
俺は勇者に視線を送って促した。
なぜか我関せずとゆったりと茶を飲んでいる姿が腹立たしい。
「えっ、俺が説明していいのか? まぁ師匠が言うなら説明するけど」
「へぇ?」
勇者が俺を師匠呼びしたことで、師匠が面白そうに俺を見た。
って、師匠師匠でややっこしいな。
「……お前がリーダーだぞ。説明するべきだ」
「わかった」
俺の言葉に勇者がうなずいて説明を始める。
「俺たちは世界救済の旅をしている。まぁそれが勇者の役割だからな。それについては特に説明する必要もないだろう。だが今俺たちがこの東部地域を訪れているのは、特別な事情が発生したからだ。先日大聖堂は神より賜った神託を発表した。それは世界崩壊の予言だ」
勇者の言葉に、さすがの師匠も驚いたようだった。
ちらりと俺を見るのでうなずいて見せる。
「その崩壊は東から訪れるということだった。それで俺たちは世界崩壊の原因となるものを探して、崩壊を阻止するために大陸東部にやって来たという訳だ」
説明を終えた勇者の言葉をどう受け止めていいのか、里長は困惑しているようだった。
それはそうだろう。
彼らは教会の教えや神の盟約とは何かということすら知らないはずだ。
まぁある程度は師匠から伝え聞いているかもしれないが。
そんな状態でいきなりご神託やら世界の崩壊とか言われたところで危機感を抱くことは難しいだろうな。
西側の国でも今回の件でまともに危機感を抱けるのは一定の知識階級以上だと思う。
教会の教えが取りこぼした貧しい者は多い。
彼らにとって神よりはその日の糧のほうが大事なのだ。
まぁ教会は食い詰めた連中に炊き出しや施しをたまに行うから嫌われちゃいないけどな。
「ふむ。正直に言うと、勇者さまだ、大聖堂だとおっしゃられても、我らにとっては詩人が祭りの夜に囁く物語のようなものだ。現実味がないというか、信じ難い気持ちになってしまう。だが、俺の千切れた腕をくっつけてくださったのは間違いなくそこのお嬢ちゃんで、聖女さまだとおっしゃる。俺にとっては恩人だ。それにあんたたちにはいきなり攻撃をしかけた不始末の借りもある。信じ難きも信じようとは思う」
そこまで言って、里長はコンコンと床を指で弾いた。
「だが、それは俺個人の気持ちに過ぎない。里の連中が納得するかどうかはちょっと保証出来ねぇ。すまないな」
そう言って里長は頭を下げる。
「おい、やめろ。あんたに頭を下げてもらっても俺たちには意味がないぞ。……あー、そうだな。里人への説明は、師匠……ダスター殿がやってくれるさ。そういうことは得意なんだ」
「は?」
いきなり俺に振った勇者を信じられない思いで見つめる。
勇者は俺を信頼のこもった目で見返していた。
嘘だろ、勇者の信頼が重い。
「ほう。それは助かります」
里長も勇者の言葉に乗っかるなよ。
今日いきなり来た余所者が、深い事情もそこそこしか知らずに不信感で一杯の人間を説得出来るはずねえだろ!
と言うか、師匠がすげえ楽しそうな顔をしてやがる。
そんなに自分の弟子が困っているのが面白いか?
面白いんだろうな!
「……とりあえず里の様子を見て歩いていいかな?」
「俺が付き添いますか?」
「いや、俺一人でいい」
「私も行きます!」
俺が里長の付き添いを断ると、間髪入れずにメルリルが声を上げた。
「里のみなさんも私が一緒のほうが安心するはずです」
「確かに」
里長もうなずく。
「俺も行く」
「お前は来るな」
「なんでだ!」
続いて名乗りを上げた勇者を、きっちりと拒絶した。
「お前は勇者さまで神の御子なんだぞ。それが里人に幻滅されでもしたら盟約の神への不信に繋がる。絶対ダメだ」
「……師匠が俺に厳しい」
「いつものことじゃない」
がっくりとする勇者を揶揄するようにモンクが言った。
おい、俺はそんなにいつも勇者に厳しくしてないぞ。
むしろ優しいだろ。
「私がお付きしましょうか?」
今度は聖騎士が言った。
外の敵意を感じ取って俺を守ってくれるつもりなんだろう。
しかし今はそれは悪手だ。
「いい。大丈夫だ。俺だってそこそこやれるんだぜ」
「そうですね。ダスター殿は私などよりもよほど頼りになります」
「それは買いかぶりだが」
ということで、俺はメルリルと一緒に外に出てみることにした。
フォルテと若葉もなぜかついて来ている。
出来ればついて来ないで欲しいんだが、フォルテだけなら追い返せるが、若葉は絶対言うこときかないしな。
そうなると若葉がやらかしたときにフォルテがいないと止められないということになる。
若葉を牽制するためにもフォルテの存在は必須なのだ。
結局俺はこいつらに関しては無力でしかない。
若葉、お前ほんと、早く営巣地に帰ってくれよ。
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