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第五章 破滅を招くもの

337 迷宮跡~最悪?との遭遇~

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 ほとんど人の背丈ほどもある草を倒して道を作りながら進む。
 気ばかり焦るが、奥歯を噛み締めて気持ちを落ち着かせた。
 本来は迷宮跡だから魔力がないはずの場所だが、現在ここはドラゴンの魔力で満ちている。
 何か理由があるのか、砂浴び場で感じたほどの濃密さはないが、全身が地面に押し付けられるような圧迫感が常に押し寄せて来ていた。
 倒した草を踏みつけていると、ズルズルと足元で何かが動く感触があり、ぱっと飛び退く。
 見ると黄緑色のツタがまるで蛇のようにゆっくりと動いている。植物の魔物だろう。
 幸いなことに俺たちを獲物と見定めた訳ではないらしい。
 聖女の魔法が効果を発揮しているようだ。
 振動を感じて獲物を探してツルを伸ばして来たと思われた。
 感覚で動いているなら絡みついて来る可能性がある。切っておいたほうがいい。
 俺は「星降りの剣」を抜くと、すっぱりとそのツタを切断した。

「大丈夫か?」

 止まったついでに後ろの様子を確認する。
 メルリルは平気そうでにこっと笑ってくれたが、勇者から後ろはすでに辛そうだ。
 歩きにくい上に周囲は見えないし、その上ドラゴンの魔力がプレッシャーとしてのしかかって来るのだから仕方のない話だろう。

「師匠が草を倒してくれるから楽だ」

 勇者が汗を拭きながら言った。
 全員まだ体力はありそうだ。
 メルリルは寸前までは真っ青になって震えていたが、周囲を草で囲まれると顔色がよくなって元気になった。

「ドラゴンの魔力があるのでたいしたことは出来ないけど、ダスターが触れた草に道を開けるようにお願いしてみる?」
「目立ったりしないか?」
精霊メイスは自然な存在だから特に気にされることはないの」
「頼む」
「はい。ごめんなさい。もっと早く思いつけばよかった」
「いや、ドラゴンの気に当てられていたんだろ。だいぶ回復してくれただけでもありがたい」

 俺の言葉に自分が担がれていたのを思い出したのか、ちょっと恥ずかしそうな顔をしたが、すぐにかすかな声で唄を口ずさむ。
 すると、俺が行きたいと思って手を触れた草が自然にぺしゃりと倒れた。
 これはありがたいな。
 楽になった分進む速度が上がる。
 と、ドドドドドドと、地面が揺れた。

「ち、まずい。魔物の群れだ。ミュリア、守護の壁を作ってくれ」
「はい。神と愛し子に堅牢なるゆりかごを」

 聖女の魔法が半ドーム状の目に見えない壁を作る。
 壁が完成した瞬間、俺の背丈の倍ぐらい、いや、もっとありそうな大角の群れが現れた。
 俺たちなど目にも止めずに走り抜けて行く。
 聖女の作った守護の壁に押しのけられた大角は不思議そうな顔をしながらも、壁を避けて先へと進む。
 地面が上下に激しく揺れて立っていられない。

「ぐっ、障壁が間に合わなかったら潰されていたぞ。さすが師匠」

 勇者が蒼白な顔で群れの移動を見送る。
 
「ミュリアがいなければどうにもならなかったな」

 俺の手柄じゃなくって聖女のおかげだぞ、聖女を褒めろ。
 しかし、この大角でかいな。
 そうだ、大角と言えば、勇者たちが死にかけた原因だったな。
 そして白いドラゴンのあの日のご飯か。
 少し思い出して思わず笑いがこぼれる。

「どうしたの?」

 メルリルが不思議そうに俺の顔を見た。

「いや、ちょっと思い出してな。……ん、振動が減って来たな。そろそろ終わるか」

 地面の振動が収まり、周囲の草全てをなぎ倒して大角の群れが通り過ぎて行った。
 おかげですっかり見晴らしがよくなってしまった。
 草漕ぎをしなくてよくなったのはいいが、目立つ。
 認識されにくいとわかってはいるが、障害物のないところを移動するのは精神的にキツイ。
 聖女の張った障壁を解除してもらって急いで移動する。
 大人数人で囲んでやっと幹全部を囲えるぐらい大きな巨木が生えている場所を目指して移動していると、大角の群れの後ろからのっそりと、大きな猫のような魔物が姿を現した。
 あ、顔が猛禽類だ。
 
「うへぇ、グリフォンだ」
「グリフォン?」
「ああっと、この大陸にはいないとされている魔物だ。南のほうにある大きな火山島にいるという与太話だったんだがな。いるんだなぁ」

 ここに来て、冒険者の与太話が現実であることを二つも確かめることになった。
 正直知らないままでいたかったな。
 勇者はポカーンと口を開いてその魔物を見た。

「なかなか強そうだな」
「まぁ強いんじゃないか? ドラゴンよりは弱いんだろうけどな」

 おそらくはドラゴンが南の島から持って来たんだろうが、どんでもないな。
 下手すると元の迷宮よりも危険な場所になっていないか、ここ。
 そのグリフォンはイライラしたように地面を掻いていた。
 そして周囲をギョロギョロと見回す。
 ふと、俺たちのほうへと視線を向けて、何かを考えるように首をかしげる。
 背中がすっと冷たくなった。
 もし見つかったらこいつと戦う羽目になる。
 そうすると当然俺たちの存在は露見して、下手するとドラゴンを呼び寄せてしまうのだ。
 冗談ではない。
 俺たちは彫像にでもなったように巨木の影で固まる。
 グリフォンはしばし空中の匂いを嗅ぐような様子を見せていたが、やがて諦めたのか大角が向かった方へ走り出した。
 ふうっと、大きな息を吐く。
 木の皮に張り付いたような指を外して、先へ進もうと後ろを向いた。

「キャウ!」
「キュウ?」
「ギャウン?」
「ピャ?」

 なんかいる。
 デカイが、本来の姿を考えると小さい?

「し、師匠、フォルテが話しかけている相手……」
「言うな、現実を認めたくない」
「ドラゴンですね」

 せっかく勇者の言葉を遮ったのに、聖女があっさりと暴露してしまう。
 ああ、厄介ごとだ。
 というか、フォルテなにやってんだよ。
 そこにいたのは濡れた若葉のような色をしたドラゴンの子どもだった。
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