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第四章 世界の片隅で生きる者たち

261 列車を楽しもう2

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 食堂は先程訪れたときとは違い、多くの人で賑わっていた。
 全員が上品な服装だ。
 大神聖帝国の西の門を守る西門の街の領主さまに作ってもらった謁見用の服でちょうどいいぐらいかもしれない。
 そんなところへ少しボロボロの旅装の俺たちが現れたのだから、目立ってしまった。
 だが、育ちがいい人間が多いのか、ちらっと見た後は特に意識することなく自分たちの身内での会話に戻った。
 食堂の係の人間も、先程もそうだったが、特に俺たちを差別するでもなく、席へ案内してくれた。
 六人ということで、大きめの丸テーブルに椅子を追加してくれる。

「ありがとう」
「いえ、ごゆるりとお過ごしください。食事メニューは二種類からの選択制となっていますが、どういたしますか?」
「何があるんだ?」
「海産物メインの料理と、山のものメインの料理です」
「そうか、せっかくだから俺は海産物で。フォルテは俺のを分けるということでいいか?」
「キュッ」

 実のところしょっちゅう腹を減らしているように見えて、フォルテはかなり燃費がいい。
 食事は一日一食でいいし、実のところ食わなくてもいいんじゃないかと睨んでいる。
 ようはみんながうまそうに食ってるから味わいたいという気持ちが大きいのだ。
 今は俺の肩から飾りのように尾羽根を垂らしてじっとしていたのだが、鳴き声でそれが生きていることに気づいた係の人が一瞬びっくりしていた。

「鳥、ですか?」
「ああ、従魔だ。迷惑はかけない」
「承りました。ほかの方々はいかがいたしますか?」
「私は山のもの、で」

 メルリルがひどく緊張した面持ちで注文する。
 そんなにガチガチにならなくても大丈夫なのに。

「俺は師匠と同じ海産物だ」

 勇者は主体性を持て。
 いや、まぁそれが主体性だと言うならそれはそれでいいけどな。

「あ、わたくしも、海産物、で」

 聖女さまは小さい声でそう言った。
 小さい声なのにはっきり聞こえるところが凄いと思う。

「私も海産物で」

 聖騎士が簡潔に告げた。

「あ、わたしは山のものね。ミュリア、少しずつ交換しない?」
「あ、はい楽しそうですね」

 モンクは要領がいいな。
 お互いに分け合うことで両方楽しめるということか。

「みなさまのご注文お伺いいたしました。お代はお一人さま大銅貨二枚です」
「やたら安いな」
「乗車料金に基本的なサービス料金が含まれております。料理はお客さまのなかには自分の食べたいものを持ち込まれる方もいらっしゃいますので、一応別料金となっております」
「なるほどな」

 こういうところも高級宿のシステムに近い。
 やっぱり宿のサービスをベースにしているんだろう。
 係の人がきれいな礼をして厨房のほうへと立ち去ると、隣に座るメルリルが何やら言いたそうな雰囲気で俺をチラチラ見て来た。

「どうした?」
「いえ……あの」

 ぬぬっ? 女心の機微は俺には読み切れないぞ。
 誰か、ヘルプ!
 テーブルに座るメンバーにぐるっと目を向けると、モンクが俺に目で合図を送って来た。
 ん? なに、何が言いたい?
 モンクはさりげなく聖女に話しかける。

「美味しいものを分け合える相手がいるのはとても幸いなことだよね」
「はい! テスタにはとても感謝しています」

 うんうん、聖女は素直でかわいいな。
 ん? モンクから強い視線が。
 あ、ああ、そういうことか? え? マジで?

「メ、メルリル、その、海産物を使った料理も少し食べてみないか? 俺のを分けよう」

 俺がそう言うと、メルリルの顔がパァッと明るくなった。
 どうやら正解だったらしい。

「いいの? そ、それなら私も山のものの料理をダスターにあげます」

 くっ、赤くなって恥ずかしげに言うのは勘弁して欲しい。
 俺まで真っ赤になるだろ。
 実は今、メルリルは髪飾りをつけていつもと違う姿の美人さんとなっていた。
 まるでほかの女性に心を動かされてしまったような訳のわからない罪悪感が湧き上がって来るのだ。
 なんだ、この状況。
 けっこう辛いものがあるぞ。

「師匠、俺とも分け合おう」
「お前とは同じ料理だろうが、何言ってるんだ」

 バカなことを言い出す勇者に今は救われた気分だ。
 ただ、真剣に「くっ」とか言いながら悔しそうにするのはやめろ。
 運ばれて来た食事は、海のものなど食べたことがない俺にとって、驚きの内容だった。
 魚は川や湖にもいるが、海の魚だからか、少し風味が違う。
 貝は大きい上に肉厚がすごいし、エビがデカくて殻が硬かった。魔物じゃないんだよな? これ。
 これが海の生物の平均的なサイズなら、海の魔物はそうとう強いんじゃないか?
 以前見たバカでかい触手のような化物を思い出して冷や汗が出て来た。

 一方で山のものは肉が分厚く、ソースもこってりとしていたのでメルリルにはちょっと多すぎたようだ。大半を譲られてしまう。
 お返しに酢を使ったらしいあっさりとした魚料理の半分をメルリルに回した。
 山のものの豆とイモのスープがうまかった。
 豆が知らない種類のものだ。気になるな。
 海産物のスープには薄く透き通った野菜のようなものが入っていて、クニュッとした食感が面白かった。

 食後に小さめの菓子とお茶を運んで来た係の人に、俺はずっと気になっていたことを尋ねる。

「あの階段の上はどうなっているんだ?」
「あの上はゆっくりおくつろぎいただけるサロンとなっています。投影窓ではなく硝子の窓なので、高い場所にあるので壁向こうの外の景色がそのまま見える造りとなっております。ご利用は予約制で、使いたい時間帯をおっしゃっていただけると調整して順番にお使いいただけます」
「ほう。どうする?」

 おもしろそうだと感じて、俺は勇者に話を振った。

「時間帯を指定出来るというのは景色の問題か?」
「はい。時間と、通り過ぎる場所で見ることの出来る風景が違いますので。最も人気があるのが夕刻、日が暮れる時間帯ですね」
「俺たちはそういうこだわりはない。一番長く時間が取れる時間帯で予約してもらえるか?」
「はい。それでしたらこの後すぐの午前中をおすすめします。午後は日光浴を楽しみたい貴族の方が多いのですが、午前中はこのまま食堂でお過ごしになる方が多く、サロンの予約が入っていません。一番長く時間が使えます」
「わかった。頼む」
「はい。承りました」

 いつもの通り完璧な姿勢で戻る係の人に手間賃を渡そうとしたら、「もう十分いただいていますから」と断られてしまった。
 早朝対応してくれた人がテーブルについてくれていたと思っていたが、渡した手間賃分のサービスをするつもりだったということか。ありがたいことだ。

「それじゃあサロンでゆっくり読書しましょう」

 聖女がそう言ったので、午前中の予定は決まったのであった。
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