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第四章 世界の片隅で生きる者たち
241 新たな国へ
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門前町はまだ混乱のさなかにあったが、後は大聖堂がなんとかするだろうということで、俺たちは早々に出立することにした。
癒やしや強力な魔法の本家本元なのだ、俺たちが出しゃばりすぎる必要はない。
「この地図によると、砂嵐の影響をほとんど受けないルートがあるらしい」
「あからさまだな」
俺の言葉に勇者がツッコむ気も起きないようで、ぼそりとそう言った。
自然の砂嵐と言い張るつもりもないんだろうな、大聖堂は。
俺たちは東部諸国に行くということになったので、まずは港のある大神聖帝国へと向かうことになる。
大神聖帝国は大聖堂のすぐ東にあり、東と西の文化のいいとこ取りをしている国と言われていた。
実はこの国、大聖堂との関係性において、西側諸国と歴史の解釈についての根深い対立をしている。
自国こそが神の盟約を結んだ最初の国であり、大聖堂の後ろ盾となる国であると主張しているのだ。
これはディスタス大公国と全く同じ主張であり、両者譲ることがなかった。
そして地理的な交易の関係から西側諸国の大半がディスタス大公国についた為、西側諸国の一員とされながらも、ほかの西側諸国との国交が断絶状態になっているのである。
そのせいで、俺はこの国に足を踏み入れたことがない。
何しろミホム王国の身分証では入国出来ないのだ。
ただし、移民については広く受け入れていて、移住するならうるさいことは言われない。
そのため、長年大神聖帝国はディスタス大公国で政争に破れた貴族の逃げ込み先となっていた。
ひどく面倒くさい国である。
まぁ今回俺たちは、大聖堂からの親書があるので問題ない……はずだ。
「しかし甲冑イナゴが発生するとは、飢饉が起きなければいいが」
勇者はなんだかんだ言っても国元が心配なのだろう。
東行きにあまり乗り気ではないようだ。
「神さまの盟約によれば、異変は東から起こっているんだから、根本的に対処しない限り、いずれ対処療法ではどうにも出来なくなるぞ。早い内に東に行けることをよかったと思ったほうがいい」
「……ああ」
まぁ頭ではわかっていても納得出来ないこともあるよな。
「それにしてもメルリルの秘術? すごかったね。あの火の玉、町のほうからも見えたよ」
テスタが話題を変える。
実際、気になっていたことなのだろう。
「甲冑イナゴは変異を起こしたらすぐに殲滅しないと大変なことになるから、代々伝わってるの」
「火の玉のなかの虫の魔物をどうやって逃さないようにしているの?」
お、いい質問だ。
それは俺も気になっていた。
「風を使っているの。あの術は風と火の精霊を同時に使うもの。とても制御が難しい術でもあるわ。だから本来は集落全員の力を借りて行うの」
「無茶したな」
そんなことじゃないかと思っていたが、やっぱりかなりの無茶だったようだ。
背後から俺の非難を受けて、メルリルはアワアワと慌てて振り向いた。
「違うの、あそこはとても精霊の力が強かったから、大丈夫だと思って」
「わかった、信用する。だが、今度からリスクがある場合は前もって言っておいてくれ。突然じゃ心の準備が出来ないからな」
「あ、そう言えば、ダスター師匠歌ったんだって? 聞きたかったなぁ」
悪気なく、テスタが言った。
その途端、勇者が勢い込んで食いついて来る。
「それだ! 神殿騎士共と一緒に歌ったと聞いたぞ。なんでだ!」
「なんでもクソも、その場にいたのが神殿騎士たちだけだったからそうなっただけだ」
「ずるい!」
「知るか!」
訳のわからんことにこだわる勇者をいなし、ため息をつく。
素面で歌とか、後から思い出すと赤面ものだ。
「わたくしも聖女としていくつか奉納の歌や舞を習いました。やはり森人にとっても神への奉納にそういったものが大切ということなのでしょうか?」
うまい具合に聖女が話を反らしてくれた。
純粋な心って素晴らしいな。
「私たちの場合は単純に精霊が好むからってだけなんだけどね。でも、私はそれだけじゃなくって、歌や踊りがとても好きなの。だからぜひ聖女さまの歌や舞も見聞きさせてもらいたいな」
「ええ、時節ごとの奉納もあります。そのときはぜひ。あ、もしよかったら一緒にどう、ですか?」
「本当に? 光栄です!」
聖女もメルリルもとても楽しそうだ。
二人の舞や歌か、俺も楽しみだな。
「そのときは、今度こそ師匠の歌も聞かせてくれ」
おいやめろ。せっかく話が収まっていたのに、また蒸し返すな。
「私も、楽しみです」
おおう、聖騎士貴様もか。
「いや、俺の歌なんぞ、酒場でがなりたてるだけのもんだ。あのときは仕方なかったから歌ったが、そんな大事な儀式を汚す訳にはいかんだろ」
「そんなことないです。低く響く声で、とても力が溢れて来て。精霊も喜んでました」
メルリルぅううう。
「ピュイ、ル、ル、ピィヤ」
「ほら、フォルテもダスターの歌が好きだって」
フォルテまで!
「お、ほら、海が見えて来たようだぞ!」
俺は視界の先に見えて来た光のきらめきへと全員の意識を反らすべく声を発した。
「海か、ドラゴンの砂浴び場以来だな」
「ああそうか、お前らはもう海を見ていたな」
俺の言葉に勇者が感慨深く言うのを聞いて、ずいぶん前のように感じる出来事を思い出す。
美しくきらめく砂と彼方まで続く海。
この世のものとも思えない光景だった。
「あのときは海を意識して見ていませんでした。わたくしは今回が初めてのようなものです」
聖女がなんとなく恥ずかしそうに言う。
彼女もいろいろあったからなぁ。
あのときはそれどころじゃなかったというのはわかる。
勇者は崖に上ってじっくり海を見ていたから覚えていたんだろう。
ずっと足場の悪い道を進んで来た馬をなだめながら、俺たちは海岸線の見える北端の地を未知なる国へと向かったのだった。
癒やしや強力な魔法の本家本元なのだ、俺たちが出しゃばりすぎる必要はない。
「この地図によると、砂嵐の影響をほとんど受けないルートがあるらしい」
「あからさまだな」
俺の言葉に勇者がツッコむ気も起きないようで、ぼそりとそう言った。
自然の砂嵐と言い張るつもりもないんだろうな、大聖堂は。
俺たちは東部諸国に行くということになったので、まずは港のある大神聖帝国へと向かうことになる。
大神聖帝国は大聖堂のすぐ東にあり、東と西の文化のいいとこ取りをしている国と言われていた。
実はこの国、大聖堂との関係性において、西側諸国と歴史の解釈についての根深い対立をしている。
自国こそが神の盟約を結んだ最初の国であり、大聖堂の後ろ盾となる国であると主張しているのだ。
これはディスタス大公国と全く同じ主張であり、両者譲ることがなかった。
そして地理的な交易の関係から西側諸国の大半がディスタス大公国についた為、西側諸国の一員とされながらも、ほかの西側諸国との国交が断絶状態になっているのである。
そのせいで、俺はこの国に足を踏み入れたことがない。
何しろミホム王国の身分証では入国出来ないのだ。
ただし、移民については広く受け入れていて、移住するならうるさいことは言われない。
そのため、長年大神聖帝国はディスタス大公国で政争に破れた貴族の逃げ込み先となっていた。
ひどく面倒くさい国である。
まぁ今回俺たちは、大聖堂からの親書があるので問題ない……はずだ。
「しかし甲冑イナゴが発生するとは、飢饉が起きなければいいが」
勇者はなんだかんだ言っても国元が心配なのだろう。
東行きにあまり乗り気ではないようだ。
「神さまの盟約によれば、異変は東から起こっているんだから、根本的に対処しない限り、いずれ対処療法ではどうにも出来なくなるぞ。早い内に東に行けることをよかったと思ったほうがいい」
「……ああ」
まぁ頭ではわかっていても納得出来ないこともあるよな。
「それにしてもメルリルの秘術? すごかったね。あの火の玉、町のほうからも見えたよ」
テスタが話題を変える。
実際、気になっていたことなのだろう。
「甲冑イナゴは変異を起こしたらすぐに殲滅しないと大変なことになるから、代々伝わってるの」
「火の玉のなかの虫の魔物をどうやって逃さないようにしているの?」
お、いい質問だ。
それは俺も気になっていた。
「風を使っているの。あの術は風と火の精霊を同時に使うもの。とても制御が難しい術でもあるわ。だから本来は集落全員の力を借りて行うの」
「無茶したな」
そんなことじゃないかと思っていたが、やっぱりかなりの無茶だったようだ。
背後から俺の非難を受けて、メルリルはアワアワと慌てて振り向いた。
「違うの、あそこはとても精霊の力が強かったから、大丈夫だと思って」
「わかった、信用する。だが、今度からリスクがある場合は前もって言っておいてくれ。突然じゃ心の準備が出来ないからな」
「あ、そう言えば、ダスター師匠歌ったんだって? 聞きたかったなぁ」
悪気なく、テスタが言った。
その途端、勇者が勢い込んで食いついて来る。
「それだ! 神殿騎士共と一緒に歌ったと聞いたぞ。なんでだ!」
「なんでもクソも、その場にいたのが神殿騎士たちだけだったからそうなっただけだ」
「ずるい!」
「知るか!」
訳のわからんことにこだわる勇者をいなし、ため息をつく。
素面で歌とか、後から思い出すと赤面ものだ。
「わたくしも聖女としていくつか奉納の歌や舞を習いました。やはり森人にとっても神への奉納にそういったものが大切ということなのでしょうか?」
うまい具合に聖女が話を反らしてくれた。
純粋な心って素晴らしいな。
「私たちの場合は単純に精霊が好むからってだけなんだけどね。でも、私はそれだけじゃなくって、歌や踊りがとても好きなの。だからぜひ聖女さまの歌や舞も見聞きさせてもらいたいな」
「ええ、時節ごとの奉納もあります。そのときはぜひ。あ、もしよかったら一緒にどう、ですか?」
「本当に? 光栄です!」
聖女もメルリルもとても楽しそうだ。
二人の舞や歌か、俺も楽しみだな。
「そのときは、今度こそ師匠の歌も聞かせてくれ」
おいやめろ。せっかく話が収まっていたのに、また蒸し返すな。
「私も、楽しみです」
おおう、聖騎士貴様もか。
「いや、俺の歌なんぞ、酒場でがなりたてるだけのもんだ。あのときは仕方なかったから歌ったが、そんな大事な儀式を汚す訳にはいかんだろ」
「そんなことないです。低く響く声で、とても力が溢れて来て。精霊も喜んでました」
メルリルぅううう。
「ピュイ、ル、ル、ピィヤ」
「ほら、フォルテもダスターの歌が好きだって」
フォルテまで!
「お、ほら、海が見えて来たようだぞ!」
俺は視界の先に見えて来た光のきらめきへと全員の意識を反らすべく声を発した。
「海か、ドラゴンの砂浴び場以来だな」
「ああそうか、お前らはもう海を見ていたな」
俺の言葉に勇者が感慨深く言うのを聞いて、ずいぶん前のように感じる出来事を思い出す。
美しくきらめく砂と彼方まで続く海。
この世のものとも思えない光景だった。
「あのときは海を意識して見ていませんでした。わたくしは今回が初めてのようなものです」
聖女がなんとなく恥ずかしそうに言う。
彼女もいろいろあったからなぁ。
あのときはそれどころじゃなかったというのはわかる。
勇者は崖に上ってじっくり海を見ていたから覚えていたんだろう。
ずっと足場の悪い道を進んで来た馬をなだめながら、俺たちは海岸線の見える北端の地を未知なる国へと向かったのだった。
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