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第三章 神と魔と
227 神と魔と
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「どういうことでしょう?」
純粋な魔人じゃないと神の盟約の侵蝕を妨げられないということか?
しかし、純粋な魔人は少ないと、この聖者さま自身がおっしゃってたよな。
「今、大陸西の国々の貴族のほとんどと、平民でも多くの者が魔力を持っています。それは私共教会の尽力ゆえです」
「本来の魔力持ちである魔人はとても少ないとおっしゃっていましたね」
「そうです。純粋な魔人は小さな村なら百年に一人、大きな街でも十年に一人程度生まれるかどうかでしょう」
人間の魔力持ちも生まれる条件は魔物と同じと考えれば、納得出来る話だ。
野生の魔物も普通の動物との割合はそんなもんだろう。
もちろん例外はある。それが系譜だ。
魔物同士の仔は魔物となる。そして魔物のボスに率いられた群れは魔物となる。
だからこそ群れを作る魔物は恐れられているのだ。
これは人間にも当てはまるはずだ。
……――っそうか!
「なるほど、魔王の系譜、つまり辺境伯の子孫を大聖堂に迎えるのはそれが理由か」
聖者はにこりと笑った。
「少し話の流れが飛んでしまいましたね。元に戻しましょう。今大陸西の国々に多くいる魔力持ちの人間は、ほぼ全てが神の祝福を受けた人間の系譜です。神の盟約によってその身に紋章を与えられた者は、魔力が宿る体となります。そしてその体質は子へと引き継がれる」
「本来滅多に生まれないはずの魔力持ちが、驚くほどに増えたカラクリはそれか」
「はい。大陸西は魔境。魔物の森と山に囲まれた狭い土地です。そのような土地で、魔物が襲って来ることに怯えて暮らすしかなかった人間が、魔物と対等に戦えるようになるのが、私共教会が目指した未来」
驚くべき深慮遠謀と言うべきか。
人間という種族全体を改造したと言ってもいい。
その一方で、勇者の供である聖騎士クルスのような魔力を持たない貴族の子への風当たりが強くなってしまったのは皮肉なものだ。
「現在の有り様は私共にとって歓迎すべきことです。ただし、一つ問題がありました。神の盟約の祝福を受けた者がその影響を強く受けすぎると、野望や欲望を駆り立てられてしまうようなのです」
「……それは、あの導師も影響を受けていたということか?」
「わかりません。しかし、可能性としては高いでしょう」
聖者は悲しそうに言った。
それはまたずいぶんな悪影響だな。
本来利益を追求しないはずの教会の中心である大聖堂に、欲望をたぎらせた強力な魔法使いが集まるなんぞ悪夢のようなものだ。
「なんでそうなるんだ? 確か神との盟約は『守護』なんじゃなかったのか?」
「これは神の本質によるものです。あなたは神とはどういうものかわかりますか?」
こっちが聞いたのに質問で返されてムッとしたが、俺は聖者の言うことに答える。
「神は世界の意思だって聞いた。つまり世界そのものだと」
「そう、神は世界の意思。しかし、意思とは統一されたものではありません。私たちでもさまざまな相反する意思に悩まされるもの。多くの命を抱える世界ならばなおさらでしょう。ゆえに世界は大きな二つの意思を生み出しました。一つは神、そして一つは魔」
「魔も世界の意思?」
「そうです」
段々頭がこんがらがって来たぞ。
というか、俺、途中から聖者さまに対してかしこまった態度を取り繕わなくなっていたな。
まぁ今更か。
「神は成長の意思、未来を望むものです。欲望も競争心も成長のためのもの、だからこそ刺激されてしまうのでしょう」
「で、魔は?」
「……魔は成長を阻むもの。いえ、もっとわかりやすく言いましょう。魔は死を否定するものです」
聖者はおごそかにそう俺に告げた。
純粋な魔人じゃないと神の盟約の侵蝕を妨げられないということか?
しかし、純粋な魔人は少ないと、この聖者さま自身がおっしゃってたよな。
「今、大陸西の国々の貴族のほとんどと、平民でも多くの者が魔力を持っています。それは私共教会の尽力ゆえです」
「本来の魔力持ちである魔人はとても少ないとおっしゃっていましたね」
「そうです。純粋な魔人は小さな村なら百年に一人、大きな街でも十年に一人程度生まれるかどうかでしょう」
人間の魔力持ちも生まれる条件は魔物と同じと考えれば、納得出来る話だ。
野生の魔物も普通の動物との割合はそんなもんだろう。
もちろん例外はある。それが系譜だ。
魔物同士の仔は魔物となる。そして魔物のボスに率いられた群れは魔物となる。
だからこそ群れを作る魔物は恐れられているのだ。
これは人間にも当てはまるはずだ。
……――っそうか!
「なるほど、魔王の系譜、つまり辺境伯の子孫を大聖堂に迎えるのはそれが理由か」
聖者はにこりと笑った。
「少し話の流れが飛んでしまいましたね。元に戻しましょう。今大陸西の国々に多くいる魔力持ちの人間は、ほぼ全てが神の祝福を受けた人間の系譜です。神の盟約によってその身に紋章を与えられた者は、魔力が宿る体となります。そしてその体質は子へと引き継がれる」
「本来滅多に生まれないはずの魔力持ちが、驚くほどに増えたカラクリはそれか」
「はい。大陸西は魔境。魔物の森と山に囲まれた狭い土地です。そのような土地で、魔物が襲って来ることに怯えて暮らすしかなかった人間が、魔物と対等に戦えるようになるのが、私共教会が目指した未来」
驚くべき深慮遠謀と言うべきか。
人間という種族全体を改造したと言ってもいい。
その一方で、勇者の供である聖騎士クルスのような魔力を持たない貴族の子への風当たりが強くなってしまったのは皮肉なものだ。
「現在の有り様は私共にとって歓迎すべきことです。ただし、一つ問題がありました。神の盟約の祝福を受けた者がその影響を強く受けすぎると、野望や欲望を駆り立てられてしまうようなのです」
「……それは、あの導師も影響を受けていたということか?」
「わかりません。しかし、可能性としては高いでしょう」
聖者は悲しそうに言った。
それはまたずいぶんな悪影響だな。
本来利益を追求しないはずの教会の中心である大聖堂に、欲望をたぎらせた強力な魔法使いが集まるなんぞ悪夢のようなものだ。
「なんでそうなるんだ? 確か神との盟約は『守護』なんじゃなかったのか?」
「これは神の本質によるものです。あなたは神とはどういうものかわかりますか?」
こっちが聞いたのに質問で返されてムッとしたが、俺は聖者の言うことに答える。
「神は世界の意思だって聞いた。つまり世界そのものだと」
「そう、神は世界の意思。しかし、意思とは統一されたものではありません。私たちでもさまざまな相反する意思に悩まされるもの。多くの命を抱える世界ならばなおさらでしょう。ゆえに世界は大きな二つの意思を生み出しました。一つは神、そして一つは魔」
「魔も世界の意思?」
「そうです」
段々頭がこんがらがって来たぞ。
というか、俺、途中から聖者さまに対してかしこまった態度を取り繕わなくなっていたな。
まぁ今更か。
「神は成長の意思、未来を望むものです。欲望も競争心も成長のためのもの、だからこそ刺激されてしまうのでしょう」
「で、魔は?」
「……魔は成長を阻むもの。いえ、もっとわかりやすく言いましょう。魔は死を否定するものです」
聖者はおごそかにそう俺に告げた。
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