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第三章 神と魔と
203 森の中の館7
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「一度戻るぞ」
階段の登り口に戻り勇者にそう伝える。
「今助けないのか?」
「今助けると救出中に気づかれるし、外は嵐で逃がす場所がない。たとえ相手が二人でも、かばいながら戦って、助けるべき人たちを巻き込まずに無事に守りきれると思うか?」
俺の言葉に勇者は悔しそうに言った。
「自信は、ない」
そう考えられるようになっただけ十分成長したと思うぞ。
「それとアルフ、屋内で相手に気取られたくない探索の場合、体重移動に注意しながら歩くんだ。体重を点から点に移動するな、足裏を地面に貼り付けてスライドさせるように歩くんだ」
「……こうか?」
俺の言葉に勇者はすっと足を滑らせるように歩いてみせた。
少しヒントを伝えただけでそれをモノに出来るのはさすがだな。
「そうそう。さすがだな」
「お、おう」
あ、ものすごく嬉しそうだ。
こいつちょっと褒めると調子に乗るから気を使うんだよな。
「行くぞ」
「わかった」
俺たちは危なげなく二階の部屋へと戻った。
部屋に着くと、全員起きていて、息を殺して俺たちを待っていたようだった。
俺たちを確認して、皆ホッとした顔をする。
さて、これからの動きを考えないと。
「地下に閉じ込められている人たちを確認した。大人の女性二人と性別はわからないが子どもが三人いた。全員牢のような場所にいて鎖で繋がれていた」
「なんてこと」
メルリルが苦痛を自分が感じているような声を上げた。
勇者と聖騎士がギリリと奥歯を噛みしめる。
勇者は実際に囚われた人たちを目にしていないが、もし見ていたら牢を破壊していたかもしれないな。
「かろうじて起きてくれた女性に確認したが、どうやらこの館の主は違法に奴隷を扱っているようだ。あと、館の主が漏らしたのを聞いた限りでは、もう一人の男は他人を殺害するのを好むタイプの輩らしい」
「外道ね」
モンクが吐き捨てるように言った。
「どうしたらいいのでしょう?」
聖女が厳しい顔でそう尋ねた。
「連中はどうやら夜明け前に俺たちを殺害するか捕らえるかする計画を立てていたようだ。それを迎え討つのは当然として、地下の人たちが人質にされるのを防ぐ必要がある。幸い相手は少人数だが、俺たちも戦力を分散しなければならない。勇者アルフ、お前ならどう対処する?」
俺はあえて勇者に作戦を決めさせることにした。
このパーティのリーダーはあくまでも勇者だし、この機会に経験を積んだほうがいいだろう。
勇者はしばらく考えた後に答えた。
「殺人狂のクソ野郎を迎え討つのは俺とクルスとミュリア。地下へ続く階段部屋を守るのは師匠とテスタとメルリルで行こう」
「ピャ!」
勇者の言葉が終わった途端、フォルテが勇者を激しくつついた。
「いてっ! くそ、わかった。お前も師匠と一緒に地下への階段を守れ。いいか、師匠の言うことをちゃんと聞けよ」
「キュルルル」
「は? もしかして俺をバカにしてるのか?」
フォルテは自分も勘定に入れろと言いたかったようだ。
勇者もフォルテとちゃんと意思疎通出来ているようでなによりだな。
「わかった」
「はい」
俺とメルリルが返事を返し、ほかの者はただうなずく。
勇者が眉をしかめて見せる。
「どうも、あの屋敷の主のほうが厄介な相手のような気がするんだが、だからと言ってこっちを手薄にする訳にはいかない。テスタ、師匠とメルリルとフォルテを頼んだぞ」
「まかせときな」
モンクがニヤッと笑ってみせる。
うんうん、勇者がちゃんとリーダーをしていて安心出来るな。
そうして作戦は決まった。
深夜に相手の位置を探りながら戦うのは無謀でしかない。
俺たちは基本的には待ちの戦法で戦うことにしたのだ。
さっそく俺とメルリルとフォルテ、そしてモンクは、密かに地下への階段部屋へと移動した。
「風がほとんどない状態なので大きな効果はないのだけど、音を聞こえにくくすることは出来ます」
頼もしいメッセリであるメルリルが、俺たち全員に消音の効果をほどこしてくれたおかげで、一番不安だった館の主の部屋の前をなんとか無事にクリアすることが出来た。
俺一人ならなんとでも出来るが、モンクとメルリルという女性二人が一緒だと思うと、恐ろしいほどに緊張してしまう。
二人共決して弱くはない。
モンクはもちろんのこと、メルリルは戦闘能力的には弱いかもしれないが、その意思の力と判断力は信頼していいだろう。
それでも、俺からするとどちらも守るべき対象と感じてしまうのだ。
これはもう本能のようなものだと思う。
到着した階段部屋は荷物が多く、もし戦いとなったら身動きが取り辛い。
地下の牢の前のほうがある程度広さがあるのだが、そこまで下りると囚われた人たちを戦いに巻き込む可能性が高くなる。
もし敵が来たらなんとしてもこの部屋で抑えなければならない。
「少し荷物を移動しておくか。すまんがテスタ、外を警戒していてくれるか?」
「わかった」
俺は階段へと続く扉の前に荷物を集め、そう簡単に下へと行けないようにすると共に、ある程度大立ち回りが出来るように空間を作った。
メルリルはフォルテを抱きしめるように闇のなかでじっとしている。
俺ほど夜目が利かないので物音を立てないようにしているのだ。
「ダスター師匠、誰か来る」
荷物を動かしていると、モンクが小声で鋭く警告を発した。
夜明け前にはまだ少し時間があるが、荷物の移動の音を察知されたのかもしれない。
まぁ来てくれるというなら当てもなく待つよりはいいけどな。
俺は小さく息を吸い込み、魔力を整えてそのときに備えた。
階段の登り口に戻り勇者にそう伝える。
「今助けないのか?」
「今助けると救出中に気づかれるし、外は嵐で逃がす場所がない。たとえ相手が二人でも、かばいながら戦って、助けるべき人たちを巻き込まずに無事に守りきれると思うか?」
俺の言葉に勇者は悔しそうに言った。
「自信は、ない」
そう考えられるようになっただけ十分成長したと思うぞ。
「それとアルフ、屋内で相手に気取られたくない探索の場合、体重移動に注意しながら歩くんだ。体重を点から点に移動するな、足裏を地面に貼り付けてスライドさせるように歩くんだ」
「……こうか?」
俺の言葉に勇者はすっと足を滑らせるように歩いてみせた。
少しヒントを伝えただけでそれをモノに出来るのはさすがだな。
「そうそう。さすがだな」
「お、おう」
あ、ものすごく嬉しそうだ。
こいつちょっと褒めると調子に乗るから気を使うんだよな。
「行くぞ」
「わかった」
俺たちは危なげなく二階の部屋へと戻った。
部屋に着くと、全員起きていて、息を殺して俺たちを待っていたようだった。
俺たちを確認して、皆ホッとした顔をする。
さて、これからの動きを考えないと。
「地下に閉じ込められている人たちを確認した。大人の女性二人と性別はわからないが子どもが三人いた。全員牢のような場所にいて鎖で繋がれていた」
「なんてこと」
メルリルが苦痛を自分が感じているような声を上げた。
勇者と聖騎士がギリリと奥歯を噛みしめる。
勇者は実際に囚われた人たちを目にしていないが、もし見ていたら牢を破壊していたかもしれないな。
「かろうじて起きてくれた女性に確認したが、どうやらこの館の主は違法に奴隷を扱っているようだ。あと、館の主が漏らしたのを聞いた限りでは、もう一人の男は他人を殺害するのを好むタイプの輩らしい」
「外道ね」
モンクが吐き捨てるように言った。
「どうしたらいいのでしょう?」
聖女が厳しい顔でそう尋ねた。
「連中はどうやら夜明け前に俺たちを殺害するか捕らえるかする計画を立てていたようだ。それを迎え討つのは当然として、地下の人たちが人質にされるのを防ぐ必要がある。幸い相手は少人数だが、俺たちも戦力を分散しなければならない。勇者アルフ、お前ならどう対処する?」
俺はあえて勇者に作戦を決めさせることにした。
このパーティのリーダーはあくまでも勇者だし、この機会に経験を積んだほうがいいだろう。
勇者はしばらく考えた後に答えた。
「殺人狂のクソ野郎を迎え討つのは俺とクルスとミュリア。地下へ続く階段部屋を守るのは師匠とテスタとメルリルで行こう」
「ピャ!」
勇者の言葉が終わった途端、フォルテが勇者を激しくつついた。
「いてっ! くそ、わかった。お前も師匠と一緒に地下への階段を守れ。いいか、師匠の言うことをちゃんと聞けよ」
「キュルルル」
「は? もしかして俺をバカにしてるのか?」
フォルテは自分も勘定に入れろと言いたかったようだ。
勇者もフォルテとちゃんと意思疎通出来ているようでなによりだな。
「わかった」
「はい」
俺とメルリルが返事を返し、ほかの者はただうなずく。
勇者が眉をしかめて見せる。
「どうも、あの屋敷の主のほうが厄介な相手のような気がするんだが、だからと言ってこっちを手薄にする訳にはいかない。テスタ、師匠とメルリルとフォルテを頼んだぞ」
「まかせときな」
モンクがニヤッと笑ってみせる。
うんうん、勇者がちゃんとリーダーをしていて安心出来るな。
そうして作戦は決まった。
深夜に相手の位置を探りながら戦うのは無謀でしかない。
俺たちは基本的には待ちの戦法で戦うことにしたのだ。
さっそく俺とメルリルとフォルテ、そしてモンクは、密かに地下への階段部屋へと移動した。
「風がほとんどない状態なので大きな効果はないのだけど、音を聞こえにくくすることは出来ます」
頼もしいメッセリであるメルリルが、俺たち全員に消音の効果をほどこしてくれたおかげで、一番不安だった館の主の部屋の前をなんとか無事にクリアすることが出来た。
俺一人ならなんとでも出来るが、モンクとメルリルという女性二人が一緒だと思うと、恐ろしいほどに緊張してしまう。
二人共決して弱くはない。
モンクはもちろんのこと、メルリルは戦闘能力的には弱いかもしれないが、その意思の力と判断力は信頼していいだろう。
それでも、俺からするとどちらも守るべき対象と感じてしまうのだ。
これはもう本能のようなものだと思う。
到着した階段部屋は荷物が多く、もし戦いとなったら身動きが取り辛い。
地下の牢の前のほうがある程度広さがあるのだが、そこまで下りると囚われた人たちを戦いに巻き込む可能性が高くなる。
もし敵が来たらなんとしてもこの部屋で抑えなければならない。
「少し荷物を移動しておくか。すまんがテスタ、外を警戒していてくれるか?」
「わかった」
俺は階段へと続く扉の前に荷物を集め、そう簡単に下へと行けないようにすると共に、ある程度大立ち回りが出来るように空間を作った。
メルリルはフォルテを抱きしめるように闇のなかでじっとしている。
俺ほど夜目が利かないので物音を立てないようにしているのだ。
「ダスター師匠、誰か来る」
荷物を動かしていると、モンクが小声で鋭く警告を発した。
夜明け前にはまだ少し時間があるが、荷物の移動の音を察知されたのかもしれない。
まぁ来てくれるというなら当てもなく待つよりはいいけどな。
俺は小さく息を吸い込み、魔力を整えてそのときに備えた。
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