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第三章 神と魔と
175 源泉と魔宝石
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保養所では元気になったと主張するメルリルが自分もついて来ると言ったが、俺はそれを鼻で笑った。
「寝てろ、休めるときに休めないやつは俺は頼りにしない」
「うう、ずるい」
なんと言おうと、自分の体調を管理出来ずに具合を悪くした者が体の状態について信頼されないのは当然だろう。
無理をしていいのは命が懸かったときぐらいだ。
一方で勇者は調子に乗っている。メルリルに対してあからさまにニヤニヤと笑って挑発してみせたのだ。
悔しがるメルリルを聖女とモンクがなだめ、聖女は勇者に「そういうことをしては駄目です」と、また珍しく怒っている。お前たちもういい加減子どもじゃないんだからさ。
勇者は準備のときにいろいろやらかしたから結構厳しく叱り飛ばしたんだが、あまりこたえていないんだろうな。
こういうポジティブさはさすが勇者と言うべきか。
まあいい、普段力技でものごとを解決している勇者には、地道な調査の経験は必ず糧となると信じている。……信じていいはずだ。……なんでこんなに不安になるんだろうな。
ともあれ、俺と勇者はそれなりの荷物を背負って出発した。
最初はまだ山に入らない。保養所の源泉管理者に案内されて温泉の湧き出る場所を教えてもらうのだ。
そうして案内された源泉は施設の裏にある崖の下にあった。
石組みと金属で作った大きな囲いがあり、そこを小屋でさらに囲んでいる。
かなり厳重に管理しているようだ。
そこでわかったことは、温泉の源泉は、崖の奥から湧いているということだけだった。
あと、実際に源泉の状態を見たが、確かに魔力濃度が高く、しかも魔物のように魔力に色が付いている。
普通の人には見えないが、魔力を見ることが出来る者ならくっきりと見えるぐらい黒い。
黒というのは、魔力が混ざっているものと考えることが出来る。
源泉の元の部分が迷宮化したというのが一番ありそうな話だった。
「そう言えば、少し不思議に思ったんだが」
俺は源泉を管理している男に尋ねた。
「へい?」
「魔宝石で魔力を吸っているなら、その魔力を吸った魔宝石を売って負担を減らすことは出来ないのか?」
魔宝石は魔道具に使用することで、時間と共に魔力が減っていく。
その魔力が減った魔宝石に温泉の魔力を吸わせているということだったので、魔力が溜まった魔宝石はまた使用することが出来るのではないかと思ったのだ。
「それがそううまくもいかないようでして」
「師匠、空の魔宝石に魔力を吸わせるには魔法を使う必要がある。そして魔法で吸わせた魔力は出すときには一気に出るんだ。そのせいで魔道具には使えないし、魔力変換も難しい」
「そうなのか。ああ、なるほど、本来少しずつ魔力が溜まって結晶化した魔鉱石を加工したものが魔宝石だから、性質として魔力をゆっくり放出するという訳か。しかし魔力で無理やり詰め込んだものは栓を外せば一気に抜ける」
「さすが師匠、そういう感じだと思う」
一気に放出する魔力を何かに変換することが出来るのはよほど魔力操作が上手い者だけだろう。
だが、それはそれで需要がない訳ではないと思う。
「その魔力をチャージした魔宝石だが、冒険者ギルドに持ち込んでみるといいかもしれないぞ」
「冒険者ギルドですか? 魔法師ギルドでなく」
「魔法師ギルドでは研究対象として有用だろうが、冒険者ギルドなら工夫してなんらかの攻撃の補助に使うことも出来るはずだ。空の魔宝石の金額とチャージ魔法の料金分を合わせた金額よりも高く売れるようなら大助かりだろう?」
「ま、まことに。あの……」
「ん?」
保養所の管理の男はひどくオドオドと俺と勇者を見比べていた。
「勇者のお師匠さまで?」
「ん、あっ!」
いかん、勇者に口止めするのを忘れていた。というか、いつの間にかすっかり慣れていた。これは俺のポカだな。
「勇者どのはどのような相手からも学ぶ姿勢をお持ちなのだ。だから一介の冒険者の俺なんぞにも見習うべきところを感じて師匠などと呼んでくださるのさ」
「おお、なるほど。さすがは勇者さま、謙虚なお方ですな」
「全くだ」
勇者が何かを言いたそうにしていたが、とりあえず手で制しておく。
せっかくうまくまとまった話をかき回されてはたまらん。
「では、俺たちはこれより山に入って調査を開始する。三日以上戻らないときは勇者の連れの者たちが対処するから、あんたたちは気にせずにどっしり構えていてくれ」
「はい。俺らのような者が勇者さま方を心配するのは不遜なことですが、やっぱりその、俺らの仕事の為にしていただくことですから、お気をつけて、ご無事を神の御心にお祈りしております」
俺は勇者を振り向いた。
勇者は既に意識を山に向けていて、俺の視線に不思議そうな顔をする。
俺は勇者の足を蹴っ飛ばしながら、「ありがとうございます」と、担当の男に礼を言った。
勇者もさすがに気づいて向き直って礼を言う。
「あ、ああ、ありがとう。必ずいい結果をもたらすことを約束しよう」
「おお、勇者さま、ありがとうございます!」
純朴そうな担当の男は勇者を伏し拝むようにペコペコと頭を下げた。
んのバカ、礼を言うだけでいいんだよ。なんでいらん約束をするんだ。
もしかして勇者の本能か?
俺はモヤモヤを抱えながら出立することとなったのだった。
「寝てろ、休めるときに休めないやつは俺は頼りにしない」
「うう、ずるい」
なんと言おうと、自分の体調を管理出来ずに具合を悪くした者が体の状態について信頼されないのは当然だろう。
無理をしていいのは命が懸かったときぐらいだ。
一方で勇者は調子に乗っている。メルリルに対してあからさまにニヤニヤと笑って挑発してみせたのだ。
悔しがるメルリルを聖女とモンクがなだめ、聖女は勇者に「そういうことをしては駄目です」と、また珍しく怒っている。お前たちもういい加減子どもじゃないんだからさ。
勇者は準備のときにいろいろやらかしたから結構厳しく叱り飛ばしたんだが、あまりこたえていないんだろうな。
こういうポジティブさはさすが勇者と言うべきか。
まあいい、普段力技でものごとを解決している勇者には、地道な調査の経験は必ず糧となると信じている。……信じていいはずだ。……なんでこんなに不安になるんだろうな。
ともあれ、俺と勇者はそれなりの荷物を背負って出発した。
最初はまだ山に入らない。保養所の源泉管理者に案内されて温泉の湧き出る場所を教えてもらうのだ。
そうして案内された源泉は施設の裏にある崖の下にあった。
石組みと金属で作った大きな囲いがあり、そこを小屋でさらに囲んでいる。
かなり厳重に管理しているようだ。
そこでわかったことは、温泉の源泉は、崖の奥から湧いているということだけだった。
あと、実際に源泉の状態を見たが、確かに魔力濃度が高く、しかも魔物のように魔力に色が付いている。
普通の人には見えないが、魔力を見ることが出来る者ならくっきりと見えるぐらい黒い。
黒というのは、魔力が混ざっているものと考えることが出来る。
源泉の元の部分が迷宮化したというのが一番ありそうな話だった。
「そう言えば、少し不思議に思ったんだが」
俺は源泉を管理している男に尋ねた。
「へい?」
「魔宝石で魔力を吸っているなら、その魔力を吸った魔宝石を売って負担を減らすことは出来ないのか?」
魔宝石は魔道具に使用することで、時間と共に魔力が減っていく。
その魔力が減った魔宝石に温泉の魔力を吸わせているということだったので、魔力が溜まった魔宝石はまた使用することが出来るのではないかと思ったのだ。
「それがそううまくもいかないようでして」
「師匠、空の魔宝石に魔力を吸わせるには魔法を使う必要がある。そして魔法で吸わせた魔力は出すときには一気に出るんだ。そのせいで魔道具には使えないし、魔力変換も難しい」
「そうなのか。ああ、なるほど、本来少しずつ魔力が溜まって結晶化した魔鉱石を加工したものが魔宝石だから、性質として魔力をゆっくり放出するという訳か。しかし魔力で無理やり詰め込んだものは栓を外せば一気に抜ける」
「さすが師匠、そういう感じだと思う」
一気に放出する魔力を何かに変換することが出来るのはよほど魔力操作が上手い者だけだろう。
だが、それはそれで需要がない訳ではないと思う。
「その魔力をチャージした魔宝石だが、冒険者ギルドに持ち込んでみるといいかもしれないぞ」
「冒険者ギルドですか? 魔法師ギルドでなく」
「魔法師ギルドでは研究対象として有用だろうが、冒険者ギルドなら工夫してなんらかの攻撃の補助に使うことも出来るはずだ。空の魔宝石の金額とチャージ魔法の料金分を合わせた金額よりも高く売れるようなら大助かりだろう?」
「ま、まことに。あの……」
「ん?」
保養所の管理の男はひどくオドオドと俺と勇者を見比べていた。
「勇者のお師匠さまで?」
「ん、あっ!」
いかん、勇者に口止めするのを忘れていた。というか、いつの間にかすっかり慣れていた。これは俺のポカだな。
「勇者どのはどのような相手からも学ぶ姿勢をお持ちなのだ。だから一介の冒険者の俺なんぞにも見習うべきところを感じて師匠などと呼んでくださるのさ」
「おお、なるほど。さすがは勇者さま、謙虚なお方ですな」
「全くだ」
勇者が何かを言いたそうにしていたが、とりあえず手で制しておく。
せっかくうまくまとまった話をかき回されてはたまらん。
「では、俺たちはこれより山に入って調査を開始する。三日以上戻らないときは勇者の連れの者たちが対処するから、あんたたちは気にせずにどっしり構えていてくれ」
「はい。俺らのような者が勇者さま方を心配するのは不遜なことですが、やっぱりその、俺らの仕事の為にしていただくことですから、お気をつけて、ご無事を神の御心にお祈りしております」
俺は勇者を振り向いた。
勇者は既に意識を山に向けていて、俺の視線に不思議そうな顔をする。
俺は勇者の足を蹴っ飛ばしながら、「ありがとうございます」と、担当の男に礼を言った。
勇者もさすがに気づいて向き直って礼を言う。
「あ、ああ、ありがとう。必ずいい結果をもたらすことを約束しよう」
「おお、勇者さま、ありがとうございます!」
純朴そうな担当の男は勇者を伏し拝むようにペコペコと頭を下げた。
んのバカ、礼を言うだけでいいんだよ。なんでいらん約束をするんだ。
もしかして勇者の本能か?
俺はモヤモヤを抱えながら出立することとなったのだった。
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