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第三章 神と魔と

171 奉仕

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 アッサム師が言っていたように勇者たち、つまり俺たちの部屋は個室だった。
 この保養所の宿泊客のほとんどは大部屋でざこ寝が基本らしい。
 巡礼者の利用が多いからだ。
 巡礼者は道中は質素倹約を旨としていて、大聖堂に到着してから出来るだけお布施をするというのが基本の考え方らしい。
 どう考えても大聖堂側からの誘導だろう。
 しかし維持費という点では各国の貴族や王族が顧客となっているんだから金は十分あるだろうに、せめて貧乏な巡礼者からむしり取るのはやめて欲しい。
 もし大量にお布施をもらっているならもう少しここのような施設を増やしてくれ。
 俺たち冒険者はケガをすると教会か治療院での治療を行う。
 教会は魔法治療なので治りが早く、仕事をあまり休みたくない冒険者には助かるのだが、いかんせん料金が高い。
 そのため、自然によほどの大ケガでない限り治療院での薬などでの治療を受けることになるのだ。
 せめてもう少し値段が安ければなぁ。

「お師匠さま、メルリルの具合はどう?」

 ここの施設のことを考えていた俺に、部屋のなかから聖女が声を掛けて来た。
 女性メンバーはいつの間にかかなり仲良くなっていたので、聖女もメルリルの様子が気になるようだ。

「ああ、病気の元は抑えてもらった。後はゆっくり休めばいいらしい。次に起きたらこっちに移っていいと言われたよ」
「よかった」

 相変わらず感情の起伏がわかりにくいが、微笑む聖女は年相応に可愛らしい。
 なんとなくほっと安心する。

 勇者たちが案内されたという個室だが、決して豪華なものではない。
 ベッドは二段のものが二つで、他に板敷きの空間があり、板間には草で編んだ薄いマットレスが二枚用意されている。四人がベッドで、二人は板間で寝ろということだな。
 メルリルと聖女はベッドで決まりだが、他はどうするか後で話し合う必要があるだろう。
 とりあえず俺は板間で決まりだ。
 余計な家具もほとんどなく、安宿の大部屋に似ている。
 ただ、安宿の不潔さと比べると、この部屋はおそろしく清潔だ。
 あの病室で動いていたねじ巻き機を見るに、そういう部分は徹底しているのだろう。 

 勇者たちはこういう部屋に慣れていないので、どうもどうしていいかわからないらしい。
 突っ立ったままである。
 俺はため息をこぼして板間の隅に積んであるマットレスを引っ張り出し、畳んだ状態で向かい合った二つのソファーのような形にした。

「ここに座ろう」
「お、おう」

 勇者がおっかなびっくり畳んだマットレスに座る。
 座った感触はそう悪くない。
 他のみんなもそれぞれ腰を落ち着けた。
 どうでもいいが隣に勇者が座ったのが俺にとっては落ち着けない要素だ。

「部屋はわかったんでメルリルの様子を見て来る」
「そんな慌ただしくしないほうがメルリルのためにはいいんじゃないか?」
「……そうだな」

 勇者が珍しく正論を吐いた。くそっ。
 仕方なく浮かした腰を再び下ろし、こっちの話を詰めることにする。

「それで、案内してくれた人は何か言っていたか?」

 仕方ないので聞くべきことを聞くことにした。

「それが、出来れば奉仕で治療費を納めてもらえないかと言っていたのですが。理由は後から説明すると」
「ん? 現金よりも奉仕がいいって?」
「そう」

 聖騎士とモンクの言葉に少し考える。
 勇者一行が金がないということはまず考えられないだろう。
 もし本当に金がなかったとしても隣は教会だ。
 簡単に金を用意してくれることはわかり切っている。
 それでも金よりも奉仕を望むということは。

「魔法か戦力が必要ということか」
「おそらくは」

 聖騎士がうなずく。
 無茶な要求をされなければいいが。
 今回のことは俺とメルリルの問題だ。同行しているせいで勇者たちを巻き込むことになってしまったが、もし無茶な要求なら、その辺りを説明して交渉するしかないか。

「師匠」

 勇者が至極真面目な顔で俺に声をかけた。

「どうした?」

 俺はやや警戒しながら応える。
 こいつは自分の欲求を隠さないタイプだ。真面目な様子だからと言って油断は出来ない。

「さっき見たけど、そっちの奥の小部屋は竈とか水場になっている。腹が減ったから何か作って欲しい」
「……お前、師匠をどういうもんだと思ってるんだ? 一度その辺話し合ったほうがいいんじゃないか?」

 普通そういうことは弟子がするんだぞ? いや、お前にやれとは絶対に思わないけどな。
 まぁでも仕方ないか。適材適所とか言うらしいしな。俺だって正直空腹を感じていた。
 いろいろ考えることはひとまず置いておいて、勇者たちや俺自身のために何か簡単に作ることにしたのだった。
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