モブ子は今日も青春中！

番外編

恋

　私は、自分が許せなかった。
　かなめの落胆に染まる眼が頭から離れない。

　かたるくんの登場に動揺しつつもかなめへの反発を強める友人たちに、私は頭を下げ、協力はいらないと告げた。

　私がかかわったせいで小説にはない出来事が起きて、かなめを深く傷つけてしまった。

　かなめにも謝りたい。
　でも…、これ以上私がこの物語をかき回してはいけないと思うと、怖くてそれもできなかった。

　学校の廊下で偶然かなめとすれ違った時、元気そうに笑っているのを見てホッとした。
　ストーリーは軌道修正され、順調に進んでいるのだろうか。

　冷たい風が鼻をツンっとさせた。
　気づけばもう12月。
　かなめは記憶が戻った頃か…。

　それなら蓮見くんが彼女を支えてくれているはず。亡くなっていたお父さんのお墓参りに付き添って、かなめを怒らせたり笑わせたりして元気づけてくれているはず…。

　私に笑い掛けてくれた時の彼の笑顔を思い出して、胸が痛んだ。
　しばらく蓮見くんとの接触は避けていた。だって、仕方ない。気づいてしまったのだから。

　私、蓮見くんが好きだ。

　推しとか、観賞用とか、尊いとか、そういうのじゃない。
　これは恋…だ。

　そんなことに気づいたからって、どうこうできるはずもない。ここは『モブ子は今日も恋愛中！』の世界なのだから。私はモブキャラクターで、これ以上ストーリーを壊してはいけないのだから…。

　私は大きく一度深呼吸をして、目尻に浮かんだ涙を、ギュッと握った掌でなぞった。