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第八章
後輩 ③
しおりを挟む眠れなかった…。
昨日のあの場面が、映画のワンシーンのように鮮明に頭に残り、瞼の裏で何度となく繰り返し映し出されていた。
あの人が『夏子さん』という可能性も考える。でも、若過ぎる。
私が兄ちゃんを見間違えるはずはない。
モヤモヤする。
兄ちゃんが他の人に優しくしている場面なんて、今までだって何度も見てきたはずのに、私にだけその優しさを向けてほしいだなんて考えてしまって、どこからか芽生えてしまったこの傲慢な気持ちに、また苛立ちを覚える。
やるせない気持ちのぶつけどころが見つからなくて、私はパソコンをつけた。
久しぶりに『黄昏のロマンス』をプレイする。
あー…私、この先輩キャラ好きだったな。3次元より2次元とか騒いで…。
画面が移り変わる瞬間、真っ暗になって自分の顔が鏡のように映る。
「全然楽しそうじゃないじゃん、私…。」
そこにはあんなに大好きだった『黄昏のロマンス』を無表情でプレイする私がいた。
ふと、スマホを見ると、ラインが入っていることに気づく。
タップして中を覗く。
画面上にはウサギのかわいいスタンプとともに、
『先輩、受験勉強の気晴らしにつき合ってくれませんか?』
というメッセージが映し出されていた。
待ち合わせ場所の公園につくと、優馬はすでに着いていたようで、ブランコに座って揺られていた。
私に気づき、飛び降りる。
「いやー、誰も掴まんなくて。先輩が暇で良かったです。」
それから私に近づき、驚きの声を上げる。
「先輩、どうしちゃったんですか!?」
なんのこっちゃ。
「顔も服もひどいです。」
余計なお世話だと思いながら、自分の服装を見る。
…確かに。コートで隠しているとはいえ、スニーカーの足元から部屋着のスウェットパンツが丸見えである。
髪も一応とかしてはきたが、からっ風に煽られ、ボサボサだろう。
顔に至っては、寝不足でさらにひどくなっているに違いない。
「……。」
「もうっ!大丈夫ですか?今日、調子悪いなら帰ります?」
私は首を横に振るう。
今日は帰っても、心が休まりそうにない。
優馬が服好きなことを思い出す。
「…じゃあさ、新しい冬物買うためのお小遣いをお母さんからもらっていたから、優馬、私の服をコーディネートしてくれないかな?」
正直自分で服を選ぶのは、面倒臭い方だ。ついつい無難なモノトーンになりがちである。
それに対し、優馬は今日だって、雑誌に載っていてもおかしくないくらいオシャレだ。ネイビーのブルゾンから覗くピンクのシャツが良いアクセントになっている。
昨日も買い物に出かけたけれど、そうそう出かけるタイプじゃない。たまには、2日連続のショッピングも悪くないだろう。
優馬は私の提案に「いいですよ!」ととても嬉しそうに笑ってくれた。
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