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第四章
呼び出しをくらいました
しおりを挟む校舎裏はテンプレ通り、昼休みなのに薄暗くて、人通りも少なかった。
完全に1対多勢になっている。もちろん私が壁際だ。
だいたいの用件はわかっているから、早く済ませてほしい。
「蓮見くんのことなんだけどさ。」
ああ、やっぱり。そうですよね。
「あんた蓮見くんのなんなの?」
なんなの、と言われましても。
「この子、めちゃくちゃ蓮見くんのこと好きで、振り向いてもらえるようにがんばってて。あたしらもずっと応援してたのに。」
女子の群れの中心に守られるような形で、立つ女子が一人。華奢で可憐な少女が目に涙を溜めて震えている。
全っ然、覚えてないんだけど、ひょっとしてこの子が俺様ルートのライバルなのかな?
置かれてる状況もゲーム目線で見れば、客観的な見方ができて心も冷める。
皆さんの言い方だと完全に私が悪者なんですが…。なんかおかしくない?
この状況…本当に困ったことが今、まさに起きているのだけれど、ここで蓮見くんを呼んだら、さらなる誤解を生みそうだし、本当に困ったねえ。
思わず、ため息が漏れた。
一人歩きし続けている噂を今、私がここで簡単に否定したところで、この子たちは納得して、怒りを鎮めてくれるのだろうか?
そんなことを考える私の冷めた態度がよほど気に入らなかったのだろう。
「…っ。」
彼女らはさらに捲し立てた。
「だいたいなんであんたなんかっ…!顔がかわいい訳でもないし!」
はい、はい。
「秀でてることも、人より優れていることも、何もないじゃない!」
わかっているよ、そんなこと。
「あんたみたいに何の努力もしてない女が、蓮見くんの彼女だなんて許せない!!マジむかつく。あんたなんか、いなくなればいいのに!」
あーあ、なんで私、この子たちにそこまで言われなきゃいけないんだろう。
日頃感じていた自分自身への評価も、他人から言われると思いの外、堪えるもので…。
ここで負けてはだめだ。
何か言わなくちゃ。
そう思ってるのに…返す言葉が何も出てこない…。
涙が、目に溢れてくる。
「かなめはかわいいよ。」
突然、落ち着いた低い声が響く。
それと同時に、温かな掌が私の瞼に重ねられた。
声の方に抱き寄せられて、バランスを崩し、もたれかかる。
温かく大きな掌に目隠しをされて、彼女たちも、声の主も、何も見えなくなった。だけど頭上から聴こえるその声が私の心を弛ませて、涙が溢れる。
間違いない。
この声は兄ちゃんだ。
「かなめは世界一かわいい。性格だって優しくて、がんばり屋で、めちゃくちゃかわいい。」
「三津谷先輩…!?」
突然現れた兄ちゃんに、女子の群れが動揺しているのがわかった。
「俺の一番大事な…子だよ。」
兄ちゃんが、小さく息を吐く。
「だから、もしこれ以上泣かせるようなことしたら、本当に許さないから。」
兄ちゃんの掌に私の涙が溢れる。それはそこで止まることなく、私の頬を伝う。
「……もう、行こう。」
女子たちが、去って行く音が聞こえた。
「大丈夫か、かなめ?」
兄ちゃんは私の瞼から手を離すと、私を対面させて、少し屈んだ。
「よくがんばったな。もう大丈夫だから。」
昔、何かあるといつもそうしてくれたように、兄ちゃんは私の頬に流れる涙の線を指で擦り、優しく頭をなでてくれた。
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