モブ子は今日も青春中!

のんとむ

文字の大きさ
上 下
17 / 64
第四章

呼び出しをくらいました

しおりを挟む

 
 校舎裏はテンプレ通り、昼休みなのに薄暗くて、人通りも少なかった。
 完全に1対多勢になっている。もちろん私が壁際だ。

 だいたいの用件はわかっているから、早く済ませてほしい。


「蓮見くんのことなんだけどさ。」

 ああ、やっぱり。そうですよね。

「あんた蓮見くんのなんなの?」

 なんなの、と言われましても。


「この子、めちゃくちゃ蓮見くんのこと好きで、振り向いてもらえるようにがんばってて。あたしらもずっと応援してたのに。」

 女子の群れの中心に守られるような形で、立つ女子が一人。華奢で可憐な少女が目に涙を溜めて震えている。

 全っ然、覚えてないんだけど、ひょっとしてこの子が俺様ルートのライバルなのかな?

 置かれてる状況もゲーム目線で見れば、客観的な見方ができて心も冷める。

 皆さんの言い方だと完全に私が悪者なんですが…。なんかおかしくない?

 この状況…本当に困ったことが今、まさに起きているのだけれど、ここで蓮見くんを呼んだら、さらなる誤解を生みそうだし、本当に困ったねえ。

 思わず、ため息が漏れた。
 一人歩きし続けている噂を今、私がここで簡単に否定したところで、この子たちは納得して、怒りを鎮めてくれるのだろうか?


 そんなことを考える私の冷めた態度がよほど気に入らなかったのだろう。


「…っ。」

 彼女らはさらに捲し立てた。

「だいたいなんであんたなんかっ…!顔がかわいい訳でもないし!」

 はい、はい。

「秀でてることも、人より優れていることも、何もないじゃない!」

 わかっているよ、そんなこと。


「あんたみたいに何の努力もしてない女が、蓮見くんの彼女だなんて許せない!!マジむかつく。あんたなんか、いなくなればいいのに!」


 あーあ、なんで私、この子たちにそこまで言われなきゃいけないんだろう。

 日頃感じていた自分自身への評価も、他人から言われると思いの外、堪えるもので…。

 ここで負けてはだめだ。
 何か言わなくちゃ。
 そう思ってるのに…返す言葉が何も出てこない…。


 涙が、目に溢れてくる。


「かなめはかわいいよ。」

 突然、落ち着いた低い声が響く。
 それと同時に、温かな掌が私の瞼に重ねられた。
 声の方に抱き寄せられて、バランスを崩し、もたれかかる。

 温かく大きな掌に目隠しをされて、彼女たちも、声の主も、何も見えなくなった。だけど頭上から聴こえるその声が私の心を弛ませて、涙が溢れる。

 間違いない。
 この声は兄ちゃんだ。


「かなめは世界一かわいい。性格だって優しくて、がんばり屋で、めちゃくちゃかわいい。」

「三津谷先輩…!?」

 突然現れた兄ちゃんに、女子の群れが動揺しているのがわかった。


「俺の一番大事な…子だよ。」

 兄ちゃんが、小さく息を吐く。

「だから、もしこれ以上泣かせるようなことしたら、本当に許さないから。」


 兄ちゃんの掌に私の涙が溢れる。それはそこで止まることなく、私の頬を伝う。
 

「……もう、行こう。」

 女子たちが、去って行く音が聞こえた。

「大丈夫か、かなめ?」

 兄ちゃんは私の瞼から手を離すと、私を対面させて、少し屈んだ。

「よくがんばったな。もう大丈夫だから。」

 昔、何かあるといつもそうしてくれたように、兄ちゃんは私の頬に流れる涙の線を指で擦り、優しく頭をなでてくれた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~

一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、 快楽漬けの日々を過ごすことになる! そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

処理中です...