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[26]闇を貪る者
-299-:マスターにしかできない事をおやりなさい
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タツローは驚いた表情のまま、ただポカンと口を開けてイオリの顔を見つめている。
そんなタツローの目の前で、イオリが手を振って見せる。
しかし、タツローの目線は固定されたまま動かない。
見えているのか?見えていないのか?
イオリは一瞬だけ手を挙げる素振りを見せたものの。
開いたタツローの唇に軽くキスをした。
「な、何を!?」
反射的に体を仰け反らせてイオリのキスから逃れた。
恥ずかしさのあまり、徐々に顔が真っ赤になってゆく。
「いきなり何ですか!?キスなんかして!」
怒った素振りを見せるも、顔を真っ赤にしたままでは、格好が付かない。
「ボンヤリしているからよ。ビンタを食らわせてやれば、とも思ったけれど、御陵・御伽が求めているものを先に奪っておいてやれば、あの女の悔しがる顔が目に浮かんで。ハァー、清々した」
茫然としていたのは認めるが、ただの腹いせにキスなんて、堪ったものではない。
「だいたい人の顔を、死んだ魚のような目で見ないで頂戴。気持ち悪いんだから」
性格の悪さと言い、毒舌っぷりと言い、神楽・いおりは健在だ。
心底イヤな子ではあるが、生きていてくれた事だけは素直に嬉しい。
これでオトギは殺人犯にならなくて済む。今のところは…。
「イオリ様。映像で確認しましたが、どうやって助かったのですか?」
コールブランドが訊ねた。
「あの共闘アンデスィデでの姫様とライクの戦いは、元々テイクした私が戦線離脱をして引き分けになる予定だったの」
それは打ち合わせで聞いている。
「でね、戦いを終えて、えっちらおっちらと500kmも移動するのも面倒だから、あらかじめオロチを遠隔操作モードにしておいたの」
それは初めて聞く謎機能。
「遠隔操作モード?」
コールブランドですら知らないらしい。
「ええ。出力は3割方低下してしまうけれど、遠く離れた場所からオロチを操作できるの。もっとも、有り余る霊力が無ければ叶わない能力だけどね。そこでほぼ450km地点から操作していたら、御陵・御伽が何だか知らないけど私に殺意を向けてきたの」
結果的に、イオリの大着ぶりが功を奏した事になる。
「でも、なんで病院から出てきたの?どこもケガをしている様には見えないけど」
タツローがイオリの足元からなぞるように顔まで眺める。
そんなタツローの視線に、イオリは顔を真っ赤に染めた。
「そんなのどうだっていいでしょ!!それよりも、嫌らしい目で見ないでよ!ホンットに気持ち悪いんだから」
その気持ち悪いと思う男子にキスをしたのは、どこの何方でしょうか?
コールブランドは思春期丸出しのイオリに、つい溜息を洩らした。
「下手に街中を出歩いて御陵・御伽とジョーカーに生きている事を知られないためよ。貴方があの女と会っている間は足止めにもなるし、こうやって平然と外出できるってワケ」
それでコールブランドの妨害を阻止してくれたのか。
「ですが、イオリ様。こうやって我がマスターに生存を報せてしまった以上、マスターの口から貴女様の生存がジョーカーたちに知れてしまうのではありませんか?」
コールブランドが危惧するのはもっともだ
「だから、僧正ごときが女王に敵わないと申したであろう?」
告げて、イオリはタツローの額に札を貼り付けた。
「え?何?何を貼りつけたの?」「そ、それは!?」
あまりのコールブランドの驚き様に、タツローは不安に駆られた。
イオリが何やらブツブツと呟いている。
これは何かの呪文?
とたん、頭の中が真っ白になってゆく感覚に襲われた。
………………。
「ハッ!」
気が付いたかと思えば、病院の玄関前。
立ったまま白昼夢でも見ていたかのような感覚。
さらに驚いた事に、目の前にはコールブランドの姿が。
「マスター?」
心配そうな眼差しでコールブランドが声を掛けてくれた。
「いや、君こそ、どうしてここへ?」
タツローが問うと、コールブランドはさらに驚いた表情を見せた。
「あ、あの…姫様から召集が掛かっているのですが、一向にマスターが電話にお出になられないので、つい」
ただ理由を尋ねただけなのに、何故、これほどまでに困惑しているのか?
「ええッ!?黒玉門前教会から?って、あんな遠くから、わざわざ迎えに来てくれたの!?」
一言違えば、とんでもない勘違いを招いてしまう。
コールブランドは、さらに困惑した。
そもそも、イオリの指示そのものが無茶でならない。
「御手洗・達郎を御陵・御伽の元へと向かわせよ。私はその間に姫様の元へと向かう。くれぐれも達郎の邪魔立てはせぬ様、良いな?」
念を押されてしまった…。
……約束を破ったら、申開きの余地なく確実に滅却されてしまう。
命は元より、こんな下らない理由で戦線離脱してしまうのは、心から勘弁願いたい。
コールブランドはイオリの指示に従う事にした。
「マスター…。何かお急ぎのご様子でしたが…」
知っている理由を、さも知らないように訊ねる事の滑稽さ。
「うん。でも、ココミさんからの召集って滅多に無い事なのに、僕は出なくていいの?」
コールブランドは顔を背けて舌打ちを鳴らした。
何で止めた時にはオトギの元へと向かおうとして、見過ごそうとすればココミの元へと行きたがるのか??
「ま、まあ…私たち下っ端が行っても、ただ話を聞いているだけですし・・ハハハ」
引きつり笑いを交えて、コールブランドは自虐ネタをブッ込んだ。
「さあ、行って下さい。マスターにしかできない事をおやりなさい」
一体何の事を言っているのか?タツローは首を傾げながら、「う、うん」困惑した様子で送り出された。
そんなタツローの目の前で、イオリが手を振って見せる。
しかし、タツローの目線は固定されたまま動かない。
見えているのか?見えていないのか?
イオリは一瞬だけ手を挙げる素振りを見せたものの。
開いたタツローの唇に軽くキスをした。
「な、何を!?」
反射的に体を仰け反らせてイオリのキスから逃れた。
恥ずかしさのあまり、徐々に顔が真っ赤になってゆく。
「いきなり何ですか!?キスなんかして!」
怒った素振りを見せるも、顔を真っ赤にしたままでは、格好が付かない。
「ボンヤリしているからよ。ビンタを食らわせてやれば、とも思ったけれど、御陵・御伽が求めているものを先に奪っておいてやれば、あの女の悔しがる顔が目に浮かんで。ハァー、清々した」
茫然としていたのは認めるが、ただの腹いせにキスなんて、堪ったものではない。
「だいたい人の顔を、死んだ魚のような目で見ないで頂戴。気持ち悪いんだから」
性格の悪さと言い、毒舌っぷりと言い、神楽・いおりは健在だ。
心底イヤな子ではあるが、生きていてくれた事だけは素直に嬉しい。
これでオトギは殺人犯にならなくて済む。今のところは…。
「イオリ様。映像で確認しましたが、どうやって助かったのですか?」
コールブランドが訊ねた。
「あの共闘アンデスィデでの姫様とライクの戦いは、元々テイクした私が戦線離脱をして引き分けになる予定だったの」
それは打ち合わせで聞いている。
「でね、戦いを終えて、えっちらおっちらと500kmも移動するのも面倒だから、あらかじめオロチを遠隔操作モードにしておいたの」
それは初めて聞く謎機能。
「遠隔操作モード?」
コールブランドですら知らないらしい。
「ええ。出力は3割方低下してしまうけれど、遠く離れた場所からオロチを操作できるの。もっとも、有り余る霊力が無ければ叶わない能力だけどね。そこでほぼ450km地点から操作していたら、御陵・御伽が何だか知らないけど私に殺意を向けてきたの」
結果的に、イオリの大着ぶりが功を奏した事になる。
「でも、なんで病院から出てきたの?どこもケガをしている様には見えないけど」
タツローがイオリの足元からなぞるように顔まで眺める。
そんなタツローの視線に、イオリは顔を真っ赤に染めた。
「そんなのどうだっていいでしょ!!それよりも、嫌らしい目で見ないでよ!ホンットに気持ち悪いんだから」
その気持ち悪いと思う男子にキスをしたのは、どこの何方でしょうか?
コールブランドは思春期丸出しのイオリに、つい溜息を洩らした。
「下手に街中を出歩いて御陵・御伽とジョーカーに生きている事を知られないためよ。貴方があの女と会っている間は足止めにもなるし、こうやって平然と外出できるってワケ」
それでコールブランドの妨害を阻止してくれたのか。
「ですが、イオリ様。こうやって我がマスターに生存を報せてしまった以上、マスターの口から貴女様の生存がジョーカーたちに知れてしまうのではありませんか?」
コールブランドが危惧するのはもっともだ
「だから、僧正ごときが女王に敵わないと申したであろう?」
告げて、イオリはタツローの額に札を貼り付けた。
「え?何?何を貼りつけたの?」「そ、それは!?」
あまりのコールブランドの驚き様に、タツローは不安に駆られた。
イオリが何やらブツブツと呟いている。
これは何かの呪文?
とたん、頭の中が真っ白になってゆく感覚に襲われた。
………………。
「ハッ!」
気が付いたかと思えば、病院の玄関前。
立ったまま白昼夢でも見ていたかのような感覚。
さらに驚いた事に、目の前にはコールブランドの姿が。
「マスター?」
心配そうな眼差しでコールブランドが声を掛けてくれた。
「いや、君こそ、どうしてここへ?」
タツローが問うと、コールブランドはさらに驚いた表情を見せた。
「あ、あの…姫様から召集が掛かっているのですが、一向にマスターが電話にお出になられないので、つい」
ただ理由を尋ねただけなのに、何故、これほどまでに困惑しているのか?
「ええッ!?黒玉門前教会から?って、あんな遠くから、わざわざ迎えに来てくれたの!?」
一言違えば、とんでもない勘違いを招いてしまう。
コールブランドは、さらに困惑した。
そもそも、イオリの指示そのものが無茶でならない。
「御手洗・達郎を御陵・御伽の元へと向かわせよ。私はその間に姫様の元へと向かう。くれぐれも達郎の邪魔立てはせぬ様、良いな?」
念を押されてしまった…。
……約束を破ったら、申開きの余地なく確実に滅却されてしまう。
命は元より、こんな下らない理由で戦線離脱してしまうのは、心から勘弁願いたい。
コールブランドはイオリの指示に従う事にした。
「マスター…。何かお急ぎのご様子でしたが…」
知っている理由を、さも知らないように訊ねる事の滑稽さ。
「うん。でも、ココミさんからの召集って滅多に無い事なのに、僕は出なくていいの?」
コールブランドは顔を背けて舌打ちを鳴らした。
何で止めた時にはオトギの元へと向かおうとして、見過ごそうとすればココミの元へと行きたがるのか??
「ま、まあ…私たち下っ端が行っても、ただ話を聞いているだけですし・・ハハハ」
引きつり笑いを交えて、コールブランドは自虐ネタをブッ込んだ。
「さあ、行って下さい。マスターにしかできない事をおやりなさい」
一体何の事を言っているのか?タツローは首を傾げながら、「う、うん」困惑した様子で送り出された。
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