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[24]白い闇、黒き陽光

ー271-:来たな、ハートの2

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 一体どういう事だ?

 どうしてベルタがジェレミーアの背後にいやがる?

 どうして!?

 
「タカサゴ、やった?」
 クレハが訊ねた。

「あ、ああ。ちょっと高さが有り過ぎたせいで、猪苗代には悪い事をしてしまったな」
 少し高度を取り過ぎてしまったせいで、ケイジロウにキョウコの唇を奪う隙を与えてしまった。

「まあ、しょうがないさね。ここから二人が立っている場所までの距離を、おおよそながら把握していても、ぶつからないように召喚しようとしたら、どうしても誤差が生じちゃうもんね」「だな」
 ヒューゴはスマホの通話を止めた。



「貴様ぁ!ベルタ!!」
 ベルタの出現に、ケイジロウは狼狽した。

「どうして、ここに!?貴様ぁ、マスターの霊力がショボ過ぎて透明化できないはずなのに!」
 登場に驚いてくれて少し嬉しい気もするが、いきなりマスターをバカにされると気分の良いものではない。

「!!」ケイジロウは気付いた。
 
 先程、高砂・飛遊午は親指を立ててこちらを見ていた。

 あの時、酔ったフリをして、正確な距離を割り出していたのか!

 詳しくは知らないが、そのような計測方法があったのを思い出した。

 事実は、黒玉門前教会の庭園が、左右対称に造られた西洋式庭園なので、入口の近くにある花壇の長さを把握できれば、キョウコたちのいる場所まで続く花壇の数から正確な距離は割り出せる。

 親指を立てていたのは、スマホを操作しているのをケイジロウに悟られないようにするフェイクであった。

「測ったな!高砂・飛遊午!」
 狼狽するも、すでにベルタは懐に入ったも同然。

「アナタごときに彼女は過ぎた女性ひとです」
 ベルタは告げると、ケイジロウの額にデコピンを一発食らわせた。

 どんなにマスターの霊力が低かろうと、ベルタは魔者に変わりはない。デコピンひとつでも強烈なパンチに匹敵する威力を発揮した。

 ケイジロウの体が仰け反った。

「このアマァ!ジェレミーア!!」
 痛みと悔しさに顔を歪め叫ぶと、透明化を解いたジェレミーアが姿を現した。

 ジェレミーアがキョウコの両腕を解放。即座に離れると、ベルタと対峙した。

「来たな、ハートの2」
 ジェレミーアは他の黒の魔者たちとは異なり、正装姿ではなく、マントの下は甲冑姿であった。

「懐かしい響きですね。だが、今は貴様の相手などしていられない!」
 ベルタが告げる中、空間から突如現れたナバリィが、解放されたキョウコの体を抱き留めて、再び空間の穴へと引っ込んでしまった。

 その際、キョウコは鼻腔をくすぐる甘い香りに、うとうとと微睡まどろみへと誘われた。

「ああ!キョウコがぁ!き、貴様らぁ!」
 キョウコを奪還されて怒りに打ち震えるケイジロウ。

 ならばと、ジェレミーアへと向きベルタを始末しろと目で合図を送るも、そのベルタの姿が、一瞬にしてヒューゴたちの場所へと飛んだ。

「な、何を!?」
 瞬間移動なんて、上位の騎士ナイトでも出来ないというのに。

 !?

 ヒューゴが得意げにスマホを掲げてニヤリと笑っている。

「こんな見える距離で召喚を!?くっそぉーッ!!」
 行きは座標指定召喚を行い、帰りは通常の召喚を用いてくれた。

「何をしている!?ジェレミーア!ヤツらを追え」
 時代劇の悪代官さながらに指示を送るも、ジェレミーアの眼前には大柄の女性の姿があった。

 女性の足元に魔法陣が展開され高速回転を始めた。

 高速で回る魔法陣が女性の頭部へと到達すると、女性は羽飾りの付いた甲冑姿へと変身を遂げていた。

「貴様…」
 行く手を阻む女性は。

「大人しく立ち去られよ。立ち去らぬなら、このフェネクスがお相手致そう」
 ミュッセが従える悪魔の一人、城砦ルークのフェネクスがケイジロウたちの行く手を阻んだ。



 △  △  △  △


 息を切らせながら、ヒューゴとクレハがリビングルームへとやってきた。少し遅れてベルタも到着。

「ベルタ、ソファーから離れてくれ」
 ヒューゴの指示に従い、ベルタが長横ソファーから離れると、ソファーの隣りに空間に穴が空いて、キョウコを抱き留めたナバリィが姿を現した。

 意識を失っているキョウコを、ナバリィはそっと長横ソファーに寝かせた。

「我がマスターに代わって礼を言う、ベルタのマスターたち」
 ナバリィがクレハたちに頭を下げた。

「顔を上げてくれ。アンタの願いに100パーセント応えてやれなかったんだから。猪苗代には辛い思いをさせてしまった」
 同意なきキスを阻止できなかった事がこと悔やまれてならない。

 それに、キョウコの両手首には無残にも、クッキリと手の形をしたアザが残っている。

 穏やかな寝顔が時々うなされるように歪む。見ていて哀れでならない。

「それは責めは致さぬ。元々我がジェレミーアに歯が立たぬ故、貴公らに助けを求めたのだから」
 ナバリィもソファーに腰掛けて、横になるキョウコの顔にまとわりつく髪を指でそってどけてやる。

「貴女も気苦労の絶えない人ね。マスターのノブナガに知られないようにキョウコちゃんを助けようなんて、ハードモードのミッションもいいところだわ」
 成功したのが奇跡に思えてならないクレハであった。

ヤツケイジロウの狙いは分かっていた。マスターの傍を透明化して見守っていたのでな。しかし、この娘を傷つけずに助けようとなると、見ず知らずの者に任せる訳にもいかず、結局のところ貴公らに頼るしかなかったのだ」
 マスターであるノブナガとキョウコの仲を何としても守りたかったのだろう。

 彼女の優しさに心打たれる。

「まぁ気にしなさんな。俺だってベルタ一人じゃ心細かったから、背に腹は代えられないとミュッセの手を借りる事にしたんだから」
 胡散臭さを払拭させるチャンスとして、虎の子のフェネクスを借り受けたのである。

「ベルタには悪い事をしたと思っている。ジェレミーアは貴公の仇なのであろう?」
 ナバリィはベルタにも頭を下げた。

「ヤツとはただ決着を着けられなかっただけで、仇という訳ではありませんよ」
 それを聞き届けて、ナバリィは安心の笑みを浮かべた。

「貴公らに礼をせねばな」
 ナバリィが立ち上がった。

「御礼なんて」
 滅相も無い事にございます。遠慮するふたりに「遠慮はいらぬよ」。

「我は宿呪霊ポゼッションのナバリィ。ノブナガをマスターとする兵士ポーンの魔者である」
 自身の情報を敵方の白側に与えた。

 ヒューゴもクレハも驚きを隠せなかった。

 チーム戦国センゴクのリーダーともあろう者が、ただのポーンのマスターだったとは…。
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