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[24]白い闇、黒き陽光

-259-:今のままでいいです

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 “鈴木・くれは”は何時になくガチガチに緊張しまくっていた。

 今夜開かれる、慰労を兼ねた祝賀パーティの準備において、カクテルドレスにドレスアップを果たしたものの、いつも手を焼いている寝癖髪を超有名なヘアメイクアーティストにセットしてもらっている。

 まさか、あのAmyアミィさんが!

 彼(彼女)はおネェキャラとして世間一般的に広く浸透してはいるが、つい最近まで、テレビではコメンテイターとして多くの番組に出演していた。

 元を辿れば、海外のコレクションや映画等で名を上げ、引っ張りだことなった超人気ヘアーメイクアーティストである。

 ところが、ここ3ヶ月、めっきりテレビで姿を見ることがなくなったので、てっきり本業に戻り海外で仕事をしているのかと思えば…。

 何と!ココミとは知り合いの仲というではないか。

 それにしても…。

 ガチガチに固まりながらも、目線だけでアミィをしげしげと見つめてしまう。

 彼(彼女)のトレードマークとも言える燃えるような真っ赤な髪を、ライオンのたてがみのように逆立てた独特のヘアースタイルから一変して、今では紫の髪を片方だけこめかみの辺りから三つ編みにしている。

「せっかく女の子として生まれてきたのだから、お洒落を楽しまなくっちゃ」
 言って、アミィはクレハの髪を留めまくっているヘアピンを次々と外しては後方へと投げ捨ててゆく。

 ヘアピンの枷を失った髪は、方々好き勝手な方向へと飛び跳ねる。

 つい、「あちゃー」と顔に出てしまう。

 そんなクレハの耳元に、アミィはふっと息を吹きかけた。

 「ひゃんっ!」思わず椅子から跳ね上がってしまった。

「さっきからガチガチー。そんなんだと、男子もドン引きー」
 確かに固い表情を見せていると、男性は話し辛いだろうな…しかしドン引きは言い過ぎじゃないの?

「おまけに肩もカチカチー。少し凝っているんじゃない?」
 肩を揉む手は明らかに男性そのもの。一つ一つの指が肌にめり込むくらいに力強い。

 リラックスさせようと、何かと気に掛けてくれるアミィを見ていると、どこか既視感を覚えてしまう。

 それは当然だと、大して疑いもしなかった。

 何しろ相手は、しょっちゅうテレビに出ていた超有名人なのだから。

 だけど、それとは違う、何か最近どこかで会ったような感覚にとらわれた。

(はて?)
 面と向かって訊ねる事もできず。

 相手が有名人となると、つい腰が引けてしまう。

「クレハちゃんは好きな男子とかいるの?」
 唐突に訊ねられ、思わず咳き込んでしまう。

「もしかして、リョーマくん?それともヒューゴくん?」
 どうして草間・涼馬が出てくるのか?クレハは間髪を入れずに首を振った。

「タカサゴとは、お向かいさんの幼馴染みです」
 答えると、アミィは「ふぅーん」ニヤニヤしながら、鏡に映るクレハの顔をまじまじと見つめる。

 視線に耐えられなくなったクレハは、つい俯いてしまう。

「ヒューゴくんを苗字で呼んでいるんだ。幼馴染みなんだから、もうちょっと距離を縮めましょうよ」
 それは散々努力した。

 何度か、さりげなく名前で呼んではみたけれど、結局は返事もしてもらえずに「スズキ」と苗字で返されてしまう。

 少し寂しい気はするけれど、普通に会話もしてくれるし、今は苗字で呼び合う事に抵抗は感じない。

「今のままでいいです」
 首を横に振ると、「そっか…」さらに強く肩を揉まれてしまい、思わず悶絶。

 コン、コン、コン。

 ドアがノックされた。
「いいスかぁ?」
 訊ねながらも、すでにドアは開かれていた。

 ドアの隙間からガンランチャーが顔を覗かせていた。と、「うわっ、メチャクチャ可愛いじゃないスかぁ、クレハさぁん」

 アンデスィデが終了したとたん、何の前触れも無く一方的に契約解除してくれたおかげで、どれだけ心細い思いをした事か…。

 結果的に2騎の盤上戦騎ディザスターを撃墜した身として、黒側から直接命を狙われる恐れがあるというのに、何の守り手もいないまま数日を過ごすハメとなった。

 ココミとライクが休戦協定を結ぶまでは。

「褒めても許してあげませんからね!この裏切り者!」
 鏡に映るガンランチャーからプイッと顔を背けてやる。

「そんな、そんな、そんなぁ、クレハさぁん。機嫌を直して下さいよぉ。あれはマスターに言われて解約したまでで、私はこれっぽっちもクレハさんとは別れたいと思ってもいませんでしたよ」
 言い訳など聞かぬと強い意志を示すかのように、目線すら合わせてやらない!

「いい加減に許してあげて、クレハさん」
 ガンランチャーと同じく、ドアの隙間から顔を覗かせた鳳凰院・風理ほうおういん・かざりがコン、コン、コンとノックをしながら告げた。

「やっぱり部長でしたか…。ランちゃんのマスター」
 正体を見破られながらも、フフフと笑顔を絶やさずにメイク室へと入ってきた。

「どこで気づいたのかしら?クレハさん」
 鏡に映るクレハに訊ねる。

「ガンランチャーの操作方法をインストールしてもらっている時かな。マスターの生体情報を読み取って盤上戦騎の機能が設定されるとするなら、私と似たような経験を持っている人を基に構築していると考えたんです」
 ココミがヒューゴと連絡を取れない時点で、他の誰かを探すにしても、何故わざわざ自分を指名してきたのか?とても謎だった。

 本来なら、ベルタも太鼓判を押している猪苗代・恐子を指名しているはずだ。

 彼女なら、実戦経験も豊富だ。

「代打を指名するなら、それなりの経験を持つ者を選ぶはず。ならば、ガンランチャーは長中距離戦特化仕様騎なのだから、元のマスターも何らかの射撃に関わる経験者でなければならない。だとすると…」
 クレハの目線は真っ直ぐとカザリに向けられた。

「ご明察。だけど、戦うのが嫌だから貴女に押し付けた訳じゃないのよ。今回は貴女の方がガンランチャーの特性を活かせると判断したからなの。悪く思わないでね」
 カザリに対して恨みなど抱いていない。だけど、どういう状況なら彼女はガンランチャーに乗り込んでくれるのだろう?少し気になる。


「部長は、どういう状況なら参戦されたのですか?」
 ひとつ訊ねてみた。

「もちろん、辺りを構わず焼け野原にできる掃討戦よ。今回は結果として市街地はがれきの山と化したけど、本来なら建造物をも守る戦いだったから、キャンセルしたのよ」
 チクリチクリと責められているような…。申し訳なく思うあまり、委縮してしまうも、アミィが強く肩を揉むものだから、思わず悶絶。

「何かを守るのって、スゴク大変なのよ。貴女に任せて正解だったわ。お疲れ様」
 今頃になって労いの言葉を頂いた。

 悪い気はしない。

 ツウラを倒してしまった後ろめたさも少しは和らいだ。
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