上 下
210 / 351
[19]悪魔の王

-205-:恩返しが出来て何よりです

しおりを挟む
「どうするんだ?コレ」
 惨劇の場と化した道場を眺めながら、ヒューゴは唖然として呟いた。

 と。

 急に足元がフラついて、ヒューゴは崩れ落ちる。

 すると、駆け寄ってくるリョーマの姿が見えるも、ヒューゴの体は崩れ落ちる事は無かった。

 フェネクスが彼を抱き留めてくれたのだ。

 フェネクスの優しい笑顔に、ヒューゴは安堵を覚えて意識を失い…ムギュゥゥと鼻を思いっ切りつままれてしまい、遠退く意識は、あっという間に現実へと連れ戻されてしまった。

「痛ってぇ!」
 痛みに声を上げれば、サツキの顔があった。

「ブッ倒れる前に、先にお礼を言いなさい」
 言いたいのは山々だが、今頃になって左腕を失った痛みが、激しくヒューゴを襲った。

 痛みに悲鳴を上げる中、「君たちに恩返しが出来て何よりです」フェネクスが告げた。

「恩返し?僕たちに?」リョーマが訊ねた。

「先の戦いに於いて、君たちに命を救ってもらった盤上戦騎ディザスターが私だったのです」
 アルルカンたちとの戦いに乱入してきて返り討ちにしてやった、オフィエルとエプシロンにダルマにされていたアイツだ。

「あ、あの時の」
 すっかりと相手がいたのを忘れていた。

「ついでにヤツらを倒してもらって、これくらいじゃ、まだ恩返しできたものではないですね」
 命を救ってもらっただけでも十分なのに、フェネクスは自らのモヒカン頭から大量の髪の毛をむしり取ってヒューゴの左腕に巻き付けた。

 そして、床に転がるヒューゴの左腕にも、同じように髪の毛を巻きつけて、両方をくっ付ける。

 すると、魔方陣が展開されて、何と!ヒューゴの腕が見事にくっ付いたではないか。

「さすがは本体同士。即座に元通りになりましたね」
 フェネクスは優しい笑顔を向けてくれた。

「本体同士?他と他のモノもくっ付けられるのですか?」
 リョーマが恐ろしい事を訊ねた。

 すると。

「ええ。私の回復魔法は、私の髪の毛を媒介に、何でもくっ付けられますよ。もしも左腕が失われていたのなら、どこかから腕を調達してくっ付けるまでですが」
 実に恐ろしい事をあっけらかんと仰ってくれます。

 その、どこかからとは、どこを指すのでしょう?

 とりあえず、敵を倒してくれた事、それに腕を治療してくれた事にお礼を言う。

「おぉー。アナタ方がヒューゴボーイとリョーマボーイですね。フェネクスから報告を受けてイマース」
 突然現れた男性は土足で道場に上がっていた。

「オイ!ここは土足禁止!」「でもデース。サツキは土足デスよネー」

「それでもアカンものはアカンのだ」
 口答えする謎の人物に再度注意を促す。

 それにしても。

 何とも胡散臭い出で立ち。

 藍色なのか?濃緑の大きな本を抱えた、やたら肩幅の広い紫色のスーツをまとった、跳っ毛気味の長髪、しかも左目を前髪で隠した、変なイントネーションで喋る男性。

「高砂・飛遊午。僕はこの男は敵だと思う」

「ああ、コイツは間違いなく俺たちの敵だ」
 二人して剣を取ろうとすると、男性は慌てて。

「待ってクダサーイ。私の名前はミュッセ・ペンドラゴン。正確にはミュッセ・グラーフ・ペンドラゴン。魔導書グリモワールゴエティアの持ち主にして黒側のプレイヤー。以後、お見知りおきを」
 訊いてもいないのに自己紹介してくれた。だけど。

「正確にとは何だよ?」
 ツッコまれてしまった。

「ほとんど使われる事の無いミドルネームですヨ。我が世界では、頻繁に変える者が多々いるので、あまり意味をなさないノデス」
 ココミやライクもそうなのだろうか?だけど、あの二人は省略せずにキチンと名乗っている。

「コラコラ二人とも。お客様がお見えなんだから、ちゃんとお出迎えしなきゃ失礼でしょう?」
 言われても、道場はメチャクチャ。おまけに血の惨劇と来たものだ。

「あれ?」
 二人が途方に暮れて道場を見渡していると、見る見る内に飛び散った血液やハギトの遺体が光の粒となって消えて行く。

「心配はアリマセーン。魔者や私の体は元々この世界に存在しないモノ。なので、死んでしまえば跡形も無くこの世から消え去るノデース」
 しかし、メチャクチャにされた道場はそのまま。

 話せば話すほどに胡散臭さを増すこのミュッセなる男を、二人は殺してもどうせ死なないんだし、いっその事、一度殺してしまおうかと企むのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ワイルド・ソルジャー

アサシン工房
SF
時は199X年。世界各地で戦争が行われ、終戦を迎えようとしていた。 世界は荒廃し、辺りは無法者で溢れかえっていた。 主人公のマティアス・マッカーサーは、かつては裕福な家庭で育ったが、戦争に巻き込まれて両親と弟を失い、その後傭兵となって生きてきた。 旅の途中、人間離れした強さを持つ大柄な軍人ハンニバル・クルーガーにスカウトされ、マティアスは軍人として活動することになる。 ハンニバルと共に任務をこなしていくうちに、冷徹で利己主義だったマティアスは利害を超えた友情を覚えていく。 世紀末の荒廃したアメリカを舞台にしたバトルファンタジー。 他の小説サイトにも投稿しています。

高校生とUFO

廣瀬純一
SF
UFOと遭遇した高校生の男女の体が入れ替わる話

女子竹槍攻撃隊

みらいつりびと
SF
 えいえいおう、えいえいおうと声をあげながら、私たちは竹槍を突く訓練をつづけています。  約2メートルほどの長さの竹槍をひたすら前へ振り出していると、握力と腕力がなくなってきます。とてもつらい。  訓練後、私たちは山腹に掘ったトンネル内で休憩します。 「竹槍で米軍相手になにができるというのでしょうか」と私が弱音を吐くと、かぐやさんに叱られました。 「みきさん、大和撫子たる者、けっしてあきらめてはなりません。なにがなんでも日本を守り抜くという強い意志を持って戦い抜くのです。私はアメリカの兵士のひとりと相討ちしてみせる所存です」  かぐやさんの目は彼女のことばどおり強い意志であふれていました……。  日米戦争の偽史SF短編です。全4話。

果てしなき宇宙の片隅で 序章 サラマンダー

緋熊熊五郎
SF
果てしなき宇宙の片隅で、未知の生物などが紡ぐ物語 遂に火星に到達した人類は、2035年、入植地東キャナル市北東35キロの地点で、古代宇宙文明の残滓といえる宇宙船の残骸を発見した。その宇宙船の中から古代の神話、歴史、物語とも判断がつかない断簡を発掘し、それを平易に翻訳したのが本物語の序章、サラマンダーである。サラマンダーと名付けられた由縁は、断簡を納めていた金属ケースに、羽根を持ち、火を吐く赤い竜が描かれていたことによる。

あの夕方を、もう一度

秋澤えで
ファンタジー
海洋に浮かび隔絶された島国、メタンプシコーズ王国。かつて豊かで恵まれた国であった。しかし天災に見舞われ太平は乱れ始める。この国では二度、革命戦争が起こった。 二度目の革命戦争、革命軍総長メンテ・エスペランサの公開処刑が行われることに。革命軍は王都へなだれ込み、総長の奪還に向かう。しかし奮闘するも敵わず、革命軍副長アルマ・ベルネットの前でメンテは首を落とされてしまう。そしてアルマもまた、王国軍大将によって斬首される。 だがアルマが気が付くと何故か自身の故郷にいた。わけもわからず茫然とするが、海面に映る自分の姿を見て自身が革命戦争の18年前にいることに気が付く。 友人であり、恩人であったメンテを助け出すために、アルマは王国軍軍人として二度目の人生を歩み始める。 全てはあの日の、あの一瞬のために 元革命軍アルマ・ベルネットのやり直しファンタジー戦記 小説家になろうにて「あの夕方を、もう一度」として投稿した物を一人称に書き換えたものです。 9月末まで毎日投稿になります。

INNER NAUTS(インナーノーツ) 〜精神と異界の航海者〜

SunYoh
SF
ーー22世紀半ばーー 魂の源とされる精神世界「インナースペース」……その次元から無尽蔵のエネルギーを得ることを可能にした代償に、さまざまな災害や心身への未知の脅威が発生していた。 「インナーノーツ」は、時空を超越する船<アマテラス>を駆り、脅威の解消に「インナースペース」へ挑む。 <第一章 「誘い」> 粗筋 余剰次元活動艇<アマテラス>の最終試験となった有人起動試験は、原因不明のトラブルに見舞われ、中断を余儀なくされたが、同じ頃、「インナーノーツ」が所属する研究機関で保護していた少女「亜夢」にもまた異変が起こっていた……5年もの間、眠り続けていた彼女の深層無意識の中で何かが目覚めようとしている。 「インナースペース」のエネルギーを解放する特異な能力を秘めた亜夢の目覚めは、即ち、「インナースペース」のみならず、物質世界である「現象界(この世)」にも甚大な被害をもたらす可能性がある。 ーー亜夢が目覚める前に、この脅威を解消するーー 「インナーノーツ」は、この使命を胸に<アマテラス>を駆り、未知なる世界「インナースペース」へと旅立つ! そこで彼らを待ち受けていたものとは…… ※この物語はフィクションです。実際の国や団体などとは関係ありません。 ※SFジャンルですが殆ど空想科学です。 ※セルフレイティングに関して、若干抵触する可能性がある表現が含まれます。 ※「小説家になろう」、「ノベルアップ+」でも連載中 ※スピリチュアル系の内容を含みますが、特定の宗教団体等とは一切関係無く、布教、勧誘等を目的とした作品ではありません。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

ファイナルアンサー、Mrガリレオ?

ちみあくた
SF
 1582年4月、ピサ大学の学生としてミサに参加している若きガリレオ・ガリレイは、挑戦的に議論をふっかけてくるサグレドという奇妙な学生と出会った。  魔法に似た不思議な力で、いきなりピサの聖堂から連れ出されるガリレオ。  16世紀の科学レベルをはるかに超えるサグレドの知識に圧倒されつつ、時代も場所も特定できない奇妙な空間を旅する羽目に追い込まれるのだが……  最後まで傍観してはいられなかった。  サグレドの望みは、極めて深刻なある「質問」を、後に科学の父と呼ばれるガリレオへ投げかける事にあったのだ。

処理中です...