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[19]悪魔の王

-196-:貴女は戦ってはいけない

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 ベルタとダナは、鶏冠井道場の少年少女たちと、アメリカのネット番組スタッフたちを引率して黒玉門前教会を目指していた。

「ベルタ様、後方はクリア。敵の姿は見当たりません」
 殿しんがりを務めるダナが状況を報告した。

 100メートルほど行った先に、信号の無い十字路が見える。

「では、私が斥候して安全を確認、確保してきます」
 ベルタが速度を上げて先行した。

 十字路に差し掛かった、その時。

 ベルタの体が右方向へと跳んだ。

 間一髪のところで、ムチの攻撃を躱したのだ。そして、すぐさま「ダナ様!来てはダなりません!敵が現れました」
 敵を確認、皆を停止させた。

 瞬間!そのベルタの体が、巨漢男の強烈なショルダータックルを食らって飛ばされてしまった。

 が、すぐさま体勢を起こすと、両腰から脇差を抜刀、巨漢男に向けて構えた。

「んふゥー。今のはほんの序の口」
 ベルタは巨漢男を目にするなり、そのアンバランスさを奇妙に感じた。

 距離を置く鞭を使っておきながら、一方で肉弾戦を仕掛けてくる。この男は一体、どの距離を得意としているのか?

「私の名はベルタ―」
 名乗っている最中に、またもやショルダータックル!だけど、今度は不意打ちではないので難なく避けた。

「ほぉふッ!俺様の名はガンマ!」
 名乗りながら、彼が手にする鞭はすでに攻撃態勢に入っていた。

 鞭の先端部にさえ集中すれば、こんな攻撃容易く避けられる。

 ただし、それは相手が動いていなければの話。

 ドンッ!

 まるで大型車両に跳ね飛ばされたかのように、ベルタの体が宙に舞った。

「ベルタ様!」
 地に伏せるベルタに、ダナが叫ぶ。

「のほぉぉぉおッ!まだまだ、おやすみタイムには早いんだぞぉ」
 しなるムチが激しい音を立ててベルタの背中を切り裂いた。

 痛みに声を上げるも、ベルタは跳ぶようにして起き上がり、今度は2つの脇差を上下に構える。

 背中を裂かれてジンジンと痛む中、ベルタは相手の攻撃を攻略すべく策を練り始めた。


 相手はムチによる攻撃もタックルも、ほぼ同時に行ってくる。


 ダメージを受けて気付いたが、鞭の攻撃とは、当たる瞬間に手首のスナップを利かせる必要がある。ただ闇雲にムチを振り下ろすだけでは威力はさほど上がらない。あくまでもインパクトの瞬間に手首のスナップを利かせなければならない。

 いかに鞭の先端部を相手の体に触れさせるか。それがムチによる攻撃の肝と言える。

 ガンマはムチ攻撃&タックルを同時にスタートさせる事で相手をかく乱、攻撃を命中させているのだと理解した。

 ならば。

 この1振りは正眼に、もう1振りは手前1メートルに切っ先を向ける下段に、双方の剣で“上下の構え”を取り対応する。

「ベルタ様。私が」
 ダナが前へと出ようとする。

「なりません!ダナ様。貴方が戦えばマスターである草間・涼馬の霊力が消耗してしまう。彼らが道場にいる魔者に勝つ方法は、彼の剣に懸かっているのです。だから、貴女は戦ってはいけない」
 ガンマを見据えたままダナを諭した。

「ですが、ベルタ様!今の貴女のそのお体で、その男を倒すのは無理です」
 ダナの言う通り、今のベルタは本来の力を発揮できてはいない。

 ベルタ自身もその事は十分把握している。

 いま高砂・飛遊午は2体の魔者と、仮とはいえ契約を結んでしまっている。

 ただでさえ霊力の低いヒューゴが2体もとなると、その負担はすさまじく、同時に魔者たちにもその影響は出ており本来の力を発揮出来ずにいる。



「あのー」
 戦いを見守るダナに、番組プロデューサーが隣に立ち、声を掛けてきた。

「何です?今は貴方と話している場合ではありません」
 目を合わす事なく告げた。

「いえ、その…先程から、貴女たちの姿だけがどうしてもカメラに映らないのですが、何かのトリックなら、是非ともタネを明かして頂けないかな~と」
 この、脅威にさらされている状況下においても、決して止まない彼の好奇心には感服する。

 だけど、状況が状況なだけに、説明している暇は無い。

「私たちの姿は、いずれ貴方達の記憶から消え去るでしょう。カメラに映らない事なども全て。なので、気にする必要はありません」
 突き放すように言ってのける。

 そんなクールなダナの表情に、プロデューサーは胸をときめかせて、「あっ、あともう一つ訊いて良いですか?」

 状況を考えるあまり、素っ気ない態度を取ってしまったと、幾分か後悔の念を抱いていたダナは、突き放す態度を変えることはしなかったが、「何でしょう?」話を聞くことにした。

「貴女と、向こうで戦っているベルタさんはどのようなご関係でいらっしゃるのかと。どちらも敬称で呼び合っているので、どちらが先輩もしくは上司なのか?ふと」
 それでもなお、好奇心を絶やさないこの男性には、呆れを通り越して、心から敬意を払いたい。

 ダナは、小さくため息を漏らすと。

「先輩後輩といえば、ベルタ様の方が私の先輩に当たります。そして、私の方が格上の駒を担当していますので、彼女の上司と言えるでしょう。ですが、彼女は先の戦では英雄となられた方。尊敬に値する立派なお方なのです」
 “よろしいですか?”と付け加えてダナは早々に話を切り上げた。

 話を聞き終えたプロデューサーは、お互いに敬意を払っている二人の姿に感銘を受けた。

 そして、命を賭して皆を守ろうとする二人の姿にも感銘を受けた。

「私は、貴女たちの中に、本物の騎士を見た気がします」
 それは、彼が今現在頭のデータベースから引き出せる最大限の褒め言葉。…のつもりだったが。

「はい。私は駒としての騎士ナイトであると同時に、マスターに誓いを立てた騎士にございます」
 ダナは彼の言葉を、過ぎるほどにストレートに受け止めていた。

 そんなやり取りをしている彼らの先では。

 情報を整理し終えたベルタが、ガンマへと向かって走り出した。





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