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[16]もうひとつの魔導書チェス

-163-:お迎えに上がりました

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 黒側のライクたちも帰った事だし。

 とはいえ、この学園の破壊され様…。

「結構派手にやられたな」
 両手を腰に当てて、困ったとばかりに学園を眺めるヒューゴ。

 校舎それ自体は、1年生たちの1号棟が階段部分をえぐられた程度。

 2年生の2号棟は爆風でガラス窓がすべて粉々に散っている。だけど、壁面にヒビも入っていないので、さほど大した事は無さそう。

 で、3年生の3号棟は…全くの無傷。

 学園のシンボルである時計塔は、もはや取り壊した方が安全と判断するレベル。もう、周囲は立ち入り禁止にせざるを得ないだろう。

「そうかな?思ったよりもダメージは少なそうだよ」
 少し嬉しげに否定しつつ、クレハはヒューゴの隣に並び立つ。

 もう用事は済んだので、二人は学園へと向かう事に。だけど。

「よぉ、草間。お前が来てくれてホント助かったぜ。有難うな」
 ヒューゴは振り向いて礼を述べる。

「勘違いするな、高砂・飛遊午。僕は君を助けた訳じゃない」
 フッと小さく笑うと、リョーマは乗ってきたマウンテンバイクに跨った。

 ―!?

 ふと、ダナを見やる。

「そうか。君はどうする?」
 訊ねた。

「私はマスターの御意思に従います」
 本来なら護衛として同行すべきなのだが、突然の出現に、リョーマを困らせはしないか?ココミの方をチラリと見やり困惑している。

 彼女なりの配慮なのだと。

 そんな困り果てているダナとココミを交互に見てリョーマは。

「君が来てくれると助かるよ。丁度父が家政婦さんを派遣しようとしていたところだったんだ。見知らぬ人の世話になるよりも、君なら幾分か気が楽になる」
 眼鏡を人差し指でクィッと上げると、リョーマはダナに手を差し伸べた。

「護衛として、そして、メイドさんとして僕に仕えてくれないか?」

「結局メイドなのかよ?」
 クレハのツッコミなどサラッと聞き流して、ダナは「喜んで」暖かい笑みを向けて、リョーマの手を取り握手をした。

「じゃあ、帰ろうか」
 仲良く帰ろうとする二人に。

「自転車の二人乗りは交通ルール違反だぞ」
 ヒューゴが冗談気に二人に告げる。

「分かっているさ。二人で話をしながら、ゆっくり歩いて帰るよ」
 言って、彼らは帰路に着いた。

「羨ましいんかい?」
 からかうように、ヒューゴの前に躍り出てクレハが訊ねる。

「いきなり眼鏡美人だもんなぁ」
 そこは全く否定しない。

 が。

 急にココミへと向いて。

「ココミ。まさかベルタの時みたいに、夜中にクィックフォワードが俺の枕元に現れたりしないだろうな?」
 念を押した。

「今回は霊力に余裕がありますので、あと30分くらいでヒューゴさんの元に現れるはずです」
 30分…それでも突然現れてもらっても困るな。

 だったら、もうしばらくココミと一緒にいた方が良さそうだ(コイツもココミに押し付けよう)。


「ココミィーッ!」
 遠くからココミを呼ぶ声。声の主はルーティだ。

 何だか、とても慌てた様子。

「あら、ルーティ。そんなに慌てて―」

「慌てるわ!アホ!ウチらの家が瓦礫になってるやんけ!」
 天馬教会は、オフィエルによって、ものの見事に木端微塵に吹き飛ばされていたのだった。

「そうでしたね…」
 ココミは困り顔。そして彼女に付き添うベルタも困った顔をヒューゴに向ける。

「お、俺の家はダメだぞ。今回みたいに難癖つけられて破壊されたら、堪ったものじゃない」
 意図を察するなり即座に拒否。断固拒否。

 そんな彼らのやり取りを、クレハはひとり冷静に眺めていた。

 何度も言うけど、天馬教会の神父は、今回の戦いに巻き込まれて命を失っているのだ。

 そこはスルーしてしまうのかい?

 彼らのモラルに問いたい。

「どないするねん…?」
 宿無しの女の子が3人。しかし、クレハもこの問題の打開策が見つけられない。

 本当に困った。



「そんな事だろうと、我が主も危惧されていました」
 ココミの傍に、彼女に向いて片膝を着く男性がひとり。


「誰?」
 訊ねるココミに。

「お前、何をしている!?って、どこから現れた!?」
 本格的に夏を迎えようとするこの季節に、フェイクファーの袖のベストを裸の上にまとった、寒いのか?暑いのか?分からない恰好をした男性。

 人狼ワーウルフのロボの突然の登場に、クレハは思わず声を上げた。

「我が主の申し付けに従い、お迎えに上がりました。ドラコットの姫君」

「お迎え?」
 彼女たちの動向が気になり、学園へと戻るに戻れなくなったクレハであった。







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