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[16]もうひとつの魔導書チェス

-162-:意外と鋭いのね、お嬢さん

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「身体のキレが全然違う??」
 ヒューゴは倒れた状態で、耳にしたクレハの言葉を繰り返した。

 そして、思い起こす。先程の戦いを。

 盤上戦騎のアルルカンと戦った当事者だったからこそ、マサムネの身体能力を見誤り、不覚にも彼の放つ蹴りを受けてしまったのだ。

 言われてみれば確かに…。

 あんなに急激にと言うか、いきなりトップギヤに入れたような動きは見せなかった。

 奥の手として隠していたとしても、その片鱗はどこかに垣間見せていたはず。

 では、盤上戦騎のアルルカンは誰が操作していたのか?

 クレハの右手がゆっくりと上がってゆく。そしてビシッと指差した先は。

「アンタね。ディザスターを操っていたのは」
 まるで、犯人を言い当てるかのごとく、アルルカンを指差した。

「えぇッ!?」「馬鹿な!?」
 倒れていたヒューゴ、リョーマが驚き持って上体を起こした。

「そ、そんなハズは無いだろ…。だったら、マスターとなった人間の役目は?」
 ヒューゴが訊ねた。

「乾電池の役割」
 短く、過ぎるくらいに要約して答えてくれた。

「あの…乾電池で盤上戦騎は―」
 指摘を入れるココミは睨みを利かせて黙らせる。

「それと、包帯の操作ね。あんなメチャクチャ複雑な動き、身体を動かしながら同時操作なんて、聖徳太子でも無理だわ」

「二人の話を同時に聞くのと、あの包帯の操作を一緒にするのは…」
 指摘するリョーマは目で殺す。

 すると、アルルカンが突然拍手をして。

「意外と鋭いのね、お嬢さん。全く持ってその通りよ」
 隠すことも否定さえもしない。素直に正解を認めた。

「あの攻撃、とんでもない複雑な演算が必要なの。私じゃあ、とてもじゃないけどムリ!だから、マスターのマサムネにお任せしたの」
 よくよく考えてみれば、手こずっていたのは本体のアルルカンではなく、縦横無尽に襲い来る、そして瞬時にして防御に移れる包帯の方だったと、ヒューゴは思い返していた。

 あまりにも素直過ぎるネタばらし。

 それは、逆に。

 もしも操者が逆だったのならば、本体相手に苦戦を、いや、窮地に立たされていたと戦慄する。

 ヒューゴは思わずゴクリと唾を飲み込んだ。

「それと」
 クレハの指先は、今度はマサムネへと向く。

「あなた、真島・導火まじま・どうかでしょ?」

 マサムネが舌打ちを鳴らす傍ら、リョーマは驚いた様子で。

「ば、馬鹿な!彼が、あの真島・導火であるはずが無い!」
 即否定した。

「驚くのは無理も無いわ。でも、見る影も無く様変わりしていても、さっきの動き、真島・導火!ダイナマイト導火のキレッキレの動きに間違いないわ!」
 散々な言い様に誰も指摘はしないが、聞いた事も無い二つ名に、ヒューゴは思わず「何やってた人なの?」クレハに訊ねた。

 しかし、彼女は見事にスルー。

 仕方がないので。

「お前、真島ってヤツの事を知っているのか?」
 リョーマに訊ねた。

「知らないのか?あの真島・導火だぞ?」
 この驚き様。常識を知らないのかと言わんばかり。

「あ、ああ。お手数でなければ、お教え願いたい」
 無知を恥じるヒューゴに求められて、仕方なく人物紹介に入る。

「真島・導火は僕たちと同学年の学生で、中学時代に注目を集めたスーパーサッカープレイヤーだったんだ。一度火が着いたら誰も止められないドリブルテクニックに突破力。そんな彼を人々は、“ダイナマイト導火”と呼ぶようになったんだ」

 何て安直な…。名前に導火線の導火が入っているから、ダイナマイトを付けたのか。

 ヒューゴは彼の輝かしい経歴よりも、二つ名のダサさに強い印象を受けた。

「確か、冬の高校サッカーの予選で、前半にハットトリックを決めて、後半にベンチに下がったところで6点取られて負けたと聞くが」
 貴重な情報のオマケ付き。

 さらに。

「残り10分で6点取られたんだっけ」
 クレハから得た情報は、それは衝撃的なものだった。

 思わず「あちゃー」マサムネこと導火に同情してしまう。

 そして、このたるみ具合、きっとヤケ食いの後遺症なのだろうと、同情の眼差しで見つめてしまう。

「スゴーい。マサムネ、超有名人じゃなぁい」
 嬉しそうに両手を合わせてアルルカンが告げるも、当の導火は笑みすら見せる事無く、「二度とその名で呼ぶな」告げると彼らに背を向けた。


 去り行く導火の背中にココミは。

「ダイナマイト導火…」
 言われた尻から、ポツリと呟いた。



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