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[14]騎士と兵士

-143-:待っていたぞ。高砂・飛遊午

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 鋭利な包帯の刃が冷たく光る。

 その全てがクィックフォワードへと向けられ、今まさに細切れにされようとしていた。

「おや?」
 アルルカンの前面に全身を覆うほどの巨大な包帯の盾がドスンッと地面を響かせ立てられた。

 アルルカンは地に足を着けたまま。

 しかも、微動もしない。

 ヒューゴは試しに剣の檻を斬りつけてみる。

 キィィィーン…。

 まさしく、剣と剣がぶつかり合う音。
 その衝撃は、音と共に檻全体に響いている。

 フムフムと何かを理解したように頷くと、今度はアルルカンに向けて発砲。しかし、相手は盾で完全防御に入っている。案の定、ライフル弾の着弾は爆炎を生むが、アルルカンは無傷のままだ。

 ヒューゴが導き出した答えは。

「どちらも硬いな」「何をやっている!?高砂・飛遊午!」
 すかさずクィックフォワードが声を張り上げる。

「まあ、ここを抜け出すにはアルルカン本体を叩かないとダメだな、と思ったんだが、ガッチリ防御を固めてやがる」

「で、貴様は諦めてしまうのか?」
 吐き捨てるようにクィックフォワードが訊ねる。

「アルルカンの野郎が俺たちを“細切れにする”と言っていたのに、刃は一向に動く気配がないのが不思議に思えてな。もしかしたら、包帯を全部硬くしたせいで動きそのものが鈍くなっているんじゃないかなぁ…なんて思ってよ」

 さきほどまで、良く回っていたアルルカンの口が驚くほど静かになっていた。

 まるで、図星であった事を悟られないように…静か過ぎる。

 ヒューゴは続ける。

「それに、急にガチガチに防御を固めたって事は、あそこから全く動けないんじゃないか?だから、今、ダナが来てくれたら、あの野郎は格好の標的だぜ」

「え?」
 驚きのあまり、アルルカンは小さく声を発してしまった。

「ヤツの鉄壁の防御は、俺たちにだけ・・向けられている」
 詳しく説明をくれるヒューゴに割り込んできて「いない僚騎に期待するしかないなんて、憐れなものねぇ~」

 強がって見せても。

「声が震えているじゃねぇか」
 ものの見事に見透かされていた。

 レスバトルでは勝ちを収めたものの。

 さて、これからどうしたものか。
 思案に入った束の間。

「こんな状況でダナに頼るとは、見損なったぞ!高砂・飛遊午」
 急にクィックフォワードが怒りだした。

「急に何を怒っているんだよ?」
 彼の怒る理由が掴めない。

「ダナに助けられるくらいなら、死んだ方がマシだ!」

「いやいや、死ぬのは勝手だが、いまは止めてくれ。一蓮托生のこの状況で死なれると、俺も死ぬ事になってしまう」
 正論を述べようものなら「えぇいッ!」クィックフォワードは振り切るかのような声を発した。

 何なんだ?コイツは?

 そういえば、契約時からクィックフォワードはダナを意識するような発言をしていたな…ヒューゴはふと思い出した。


 それは…。


 アンデスィデが発生する30分前に、ヒューゴのスマホにベルタから電話が入った。

 嫌ーな予感は見事に的中。

 電話の相手はベルタではなくココミだった。

「やっぱり、別の駒のマスターを得られなかったんだろう?」

「エヘヘ、面目ない次第です」
 挨拶もままならず、先に用件を言われてしまい、ココミはただ笑ってごまかす。

「察しが良いといいますか、どうして私が新たな駒のマスターを探しているのをご存じなのですか?それに、アンデスィデが発生する事を予見なさっていたような発言を…」

「今朝方、黒側の連中に出くわして教えてもらったんだよ。そんで、俺にも参戦しろと脅してきやがった」

「なら、話は早いです」
 悪びれるどころか、頼む気満々のココミに、ヒューゴは呆れてため息をついた。

「で、次はどの駒のマスターになれば良い?」


「ヒューゴさんの霊力なら兵士ポーンが関の山ですかねぇ。騎士ナイトなんて、宝の持ち腐れですよ」
 他人様にモノを頼む身でありながら、ぞんざいに扱ってくれる。

 人々の命がかかっていなかったら、こんな一文の得にもならない話、即蹴っているところだ。

 とにかく。

 駐車場出入り口で落ち合う事に。

 契約の手続きに入る。

 手順は前回のベルタの時と同じ。

 魔導書の契約ページに記されているクィックフォワードの欄の、QRコード[2]をスマホに読み取らせて契約画面に移行。

 個人情報を入力して契約終了。

 ライフィング・ピースのクィックフォワードは姿を現さず、またもや不具合が生じているのだろうと、ヒューゴはさして気にする事はしなかった。

 そして、アンデスィデが発生。

 ヒューゴはクィックフォワードに電話をして、初めて彼の声を聴く事となる。

「待っていたぞ。高砂・飛遊午」
 意気揚々と名前を呼ぶ彼を、ヒューゴは相当な自信家だなと感じた。






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