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[7]猪苗代・恐子の災難

-62-:私は世間一般に呼ばれる騎士ではなく、変態という名の紳士

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「その辺で止めときな。変態野郎」
 別の男性の声が聞こえた。

 ジェレミーアは誰にも見える事は無いと言っていたのに。

 ジェレミーアの視線が動く。と。キョウコも虚ろな眼差しも彼の視線を追う。
 そこには、黒玉工業高校の制服を着た長身の少年の姿があった。

「テメェ・・騎士の端くれなんだろ?女の子には紳士的に接しろよ」

「ええ。私は今でも現役続行中の騎士ナイトですよ~。ですが我が主マスター。私は“騎士の理想”を美しくうたった叙事詩に出てくる騎士などではなーく、暗黒時代の騎士であり、それは!力こそが全て、力こそが正義とされた、力なき者は虐げられ、救世主が現れるのをただひたすら神に祈るしか無かったすさみ切った世界を駆け抜けた一本の剣であり、故に!女子の耳をくすぐらせ喜ばせる言葉を並べる口など持ち合わせてはおりません!」
 長い口上はともかく、とうとうジェレミーアのマスターまでもが姿を現した。

なげぇな・・。もうちょっと簡潔に話せないのか?」
 二人のやり取りを、キョウコは虚ろな眼差しで眺めていた。

「では。私は世間一般に呼ばれる騎士ではなく、変態という名の紳士。これでいかがでしょうか?」

「どうでもいいわ、ンなモン。それよりも、そこまでビビらせたら、もう充分だろ。さっさと解放してやれよ」

「何をおっしゃる。傷痕を残してこその警告。これで解放などしたら、後々この娘が調子に乗って報復に出るかもしれませんよ」
 キョウコの足首を掴んでいる手を高々と掲げた。もはやグッタリとまるで玩具のよう。

「その手を離せ!命令だ!」

「マスターだからとイキがるなよ、小僧!マスターなど、いくらでも首を挿げ替えれば良いだけの事。ククク、私は離されても平気ですがね」
 命令を聞き入れないばかりか、逆に主を脅し始めた。

 キョウコを釣り上げたまま少年へとにじり寄る。

「さぁ、どうするね?マァスタァ~」

 すると、ジェレミーアの体が急にガクガクと震えだした。

「ど、どうした!?私の体!?」
 答えるはずの無い、体へ問うている。

「小僧!俺に何をしたぁーッ!?」

 少年へと問う頭だけのジェレミーアが呻き声を上げた。

「おぉぉぉぉぉ」

 ジェレミーアの卑猥な長い舌が、みるみるうちに切り干し大根のようにシワシワにしおれてゆく。顔や体までもが一気に干上がって。
 キョウコの足を解放すると、その場に崩れ落ちて地に伏せてしまった。

「ライクが俺をお前のマスターに据えたのは、お前の暴走を止めるためだ。俺がただお前に霊力を供給しているだけの存在だと思ったか?霊力を止めるだけじゃねぇ。逆に吸い上げる事もできる事を、この際ハッキリ貴様の身体に覚えさせてやるぜ!」
 もはや干からびる寸前。ジェレミーアは手を挙げて降参した。

「ほら、立てるか?」
 少年が手を差し伸べて、まだ脚のフラつくキョウコを立たせた。
 そしてキョウコの腰に手を回して引き寄せると、彼女をバス停の柱に寄り掛からせた。

 とたん、周囲が人で覆われた。

 結界が解かれたのだ。

 同時に彼女の眼は生気を取り戻した。
「こ、こんなに人が??」
 疑っていた訳ではないが、場面の早変わりのような光景が信じ難かった。

「いいな?二度とこんな目に遭いたくなければ、ココミには関わるな」
 名も知らぬ“彼”が背を向けて去ってゆく。瞬きすると、そこにはもう天馬学府の生徒たちの姿しか見当たらない。


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