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[2]邂逅
-21-:何でもありません
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もう二人の姿は見えない。全力疾走で逃げ切ってくれた。
「そやから言うたやろ。あないな恩知らずな連中に恩売ろう思うこと自体無駄やったんや」
ムカっ腹立てながら後方のココミへと向き直った。
「どうしたん?」
他方を見つめるココミに訊ねた。
「彼らを追いましょう」
「はぁ?何言うてんデス?あいつらが何処へ逃げたかも分からへんのに!!」
ココミはルーティに微笑むと、「あの人たちに案内してもらいましょう」
視線の先には、交差点で待つ、2輪の自転車が。その二人は、共にクレハたちと同じ制服をまとっている。
交差点の信号が青に変わった―。
今日はバスケット部男女共に早朝練習の無い日なので、御手洗・虎美と達郎姉弟はいつもより遅くに登校していた。
が、いつもと勝手が違い、信号のタイミングが合わず、ことごとく赤信号に引っ掛かっていた。
また赤信号に引っ掛かってしまい、「またぁ?」
もう、うんざりとトラミはタツローに向いて「渡っちゃおっか」
でも、ここは片側2車線の4車線。それは自殺行為だとタツローは首を横に振る。
と、一台の黒いリムジンが、二人の横に信号待ちの停車をした。
「あれ、もしかして御陵・御伽じゃない?」トラミが小声でタツローに訊ねた。
朝の陽射しが眩しさに目をくらませながら、オトギは初夏の風に触れようとウィンドウをほんの少しだけ開けた。が、車はすぐに赤信号に引っ掛かり停車した。
自分と同じ制服を着た自転車登校している男女が、同じく信号待ちをしている。
女子生徒がこちらをチラリと見て、そして男子生徒に何か耳元で囁いている。
また、いつもの“お嬢様”話に花を咲かせているのかしら?
オトギは勝手に人の“育ちを羨ましがっておけばいい”と二人の方へ顔はおろか目線すら逸らした。
「彼女、さすが御陵財閥のお嬢様だよねぇ。いきなり弓道部のエースだヨ」
女子生徒の話し声が耳に入ってきた。と、やはりいつもの事だと溜め息を漏らした。
学業優秀、スポーツ万能、その上芸術事でも見事に結果を出して見せている。
両親や姉たちは、それが出来て当前だと言う。人が誰でもぶち当たる挫折という壁が、御陵家の人間には存在しないと言わんばかりだ。
どんなに頑張っても、「頑張ったね」と声を掛けてくれるのは祖父だけ…。
決して人に褒められたい訳ではない。
弓道部のエースになれたのも、元エースの“鈴木くれは”が、がむしゃらに頑張る姿を見せてくれたおかげなのに、周りの者たちは、“さすが天才は違う!”と評するだけ。
「でも、思うんだ。人よりスゴイ人って、きっと人よりもっともっとたくさん努力しているから、スゴイ人になれたんだと思うよ」
「だったら、タツローもレギュラー目指して頑張らなきゃね」
!!!
思いも寄らぬ男子生徒の言葉に、オトギの視線は彼らに向けられた。
「あっ!」
女子生徒は、オトギの視線に気づくと“タツロー”の陰に隠れた。と、信号が青へと変わり、オトギを乗せた車が発進した。
ウィンドウから入り込んできた風が、オトギの髪を優しく撫でてゆく。
「・・タツロー…」思わず小さく呟いた。
「何かおっしゃいましたか?お嬢様」
バックミラーに映るオトギと視線を合わせ・・。
「何でもありません」少しばかり表情をほころばせながら。
オトギの中に新しい風が吹いた―。
「そやから言うたやろ。あないな恩知らずな連中に恩売ろう思うこと自体無駄やったんや」
ムカっ腹立てながら後方のココミへと向き直った。
「どうしたん?」
他方を見つめるココミに訊ねた。
「彼らを追いましょう」
「はぁ?何言うてんデス?あいつらが何処へ逃げたかも分からへんのに!!」
ココミはルーティに微笑むと、「あの人たちに案内してもらいましょう」
視線の先には、交差点で待つ、2輪の自転車が。その二人は、共にクレハたちと同じ制服をまとっている。
交差点の信号が青に変わった―。
今日はバスケット部男女共に早朝練習の無い日なので、御手洗・虎美と達郎姉弟はいつもより遅くに登校していた。
が、いつもと勝手が違い、信号のタイミングが合わず、ことごとく赤信号に引っ掛かっていた。
また赤信号に引っ掛かってしまい、「またぁ?」
もう、うんざりとトラミはタツローに向いて「渡っちゃおっか」
でも、ここは片側2車線の4車線。それは自殺行為だとタツローは首を横に振る。
と、一台の黒いリムジンが、二人の横に信号待ちの停車をした。
「あれ、もしかして御陵・御伽じゃない?」トラミが小声でタツローに訊ねた。
朝の陽射しが眩しさに目をくらませながら、オトギは初夏の風に触れようとウィンドウをほんの少しだけ開けた。が、車はすぐに赤信号に引っ掛かり停車した。
自分と同じ制服を着た自転車登校している男女が、同じく信号待ちをしている。
女子生徒がこちらをチラリと見て、そして男子生徒に何か耳元で囁いている。
また、いつもの“お嬢様”話に花を咲かせているのかしら?
オトギは勝手に人の“育ちを羨ましがっておけばいい”と二人の方へ顔はおろか目線すら逸らした。
「彼女、さすが御陵財閥のお嬢様だよねぇ。いきなり弓道部のエースだヨ」
女子生徒の話し声が耳に入ってきた。と、やはりいつもの事だと溜め息を漏らした。
学業優秀、スポーツ万能、その上芸術事でも見事に結果を出して見せている。
両親や姉たちは、それが出来て当前だと言う。人が誰でもぶち当たる挫折という壁が、御陵家の人間には存在しないと言わんばかりだ。
どんなに頑張っても、「頑張ったね」と声を掛けてくれるのは祖父だけ…。
決して人に褒められたい訳ではない。
弓道部のエースになれたのも、元エースの“鈴木くれは”が、がむしゃらに頑張る姿を見せてくれたおかげなのに、周りの者たちは、“さすが天才は違う!”と評するだけ。
「でも、思うんだ。人よりスゴイ人って、きっと人よりもっともっとたくさん努力しているから、スゴイ人になれたんだと思うよ」
「だったら、タツローもレギュラー目指して頑張らなきゃね」
!!!
思いも寄らぬ男子生徒の言葉に、オトギの視線は彼らに向けられた。
「あっ!」
女子生徒は、オトギの視線に気づくと“タツロー”の陰に隠れた。と、信号が青へと変わり、オトギを乗せた車が発進した。
ウィンドウから入り込んできた風が、オトギの髪を優しく撫でてゆく。
「・・タツロー…」思わず小さく呟いた。
「何かおっしゃいましたか?お嬢様」
バックミラーに映るオトギと視線を合わせ・・。
「何でもありません」少しばかり表情をほころばせながら。
オトギの中に新しい風が吹いた―。
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