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人生初めての斬り合い
初めて見る・・・
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確かにウルは大男に先制ダメージを与える事には成功した。
しかし、それは、ほんのかすり傷を与えただけに過ぎない。
それなりに出血はしているけれど、走ったり踏み込んだりの動作に影響を与えるには至らなかった。
なので。
リムリーと呼ばれた少女を連れて逃げても、男との差は一向に開くことは無かった。
「腹立つーッ!何でお前、そんなに足が遅いんだよ!」
とにかくリムリーの足が壊滅的に遅かった。
身軽そうな格好をしておいて、超が付くほどの鈍足だなって、詐欺もいいところじゃないか。
「えー、アンタがあのブタ野郎をブチのめしてくれたら済む話じゃないの。さっさとやっておしまいなさいよ」
自らの非を他人におっ被せる最低女であった。
「オレの剣ではアイツを倒す事はできない」
手にする板の剣に目をやる。
剣そのものが完成にほど遠い未完成品な以前に、ウルは剣術においても傍が見て一発で分かる未熟者である。
それ以前に。
男のスネをかすめただけでウルの板の剣は見事に変形してしまっている。
鉄を薄く延しただけの剣などしょせんはそんなものでしかない。
「疲れたー」
リムリーが立ち止まってしまった。
「何をやってんだよ!?走らないと、アイツにとっ捕まっちまうぞ」
言葉を掛けるも、当のリムリーは息があがってしまい、返答もままならない。
なんて体力の無い女だ・・・。
振り返れば、峠の茶屋が未だ視界に収まっている。
アホほど視力の良いウルには看板までもがバッチリと見えている。
「邪魔立てするなら容赦はせんぞ」
大男が血走った眼でウルを睨み付ける。
「何だか知らないけど、大の大人が女の子を追いかけ回すのはどうかな?見ていて助けたいって気持ちになるじゃないか」
よくよく考えてみれば、理由も無しに、その場の気分だけで行動してしまっていた。
瞬間!
ブワァッとウルの横をかすめる影が目に映ると。
板の大剣を構えようとしていた大男の胸にバツ印が描かれていた。
ドスンッ!と力無くうつ伏せに倒れ伏す大男。
「そんな・・・殺人!?」
背後でリムリーが驚きの声を上げている。
すると影は反転すると、今度はウルへと向かって来たではないか。
あまりにも瞬間的な出来事に、ウルは身構える事すらできない。
再びブワッと風をまとった影がウルの横をかすめる。
ドスンッ。
落下音が耳に届いた。
え?
振り返れば。
リムリーがうつ伏せに倒れていた。
その首からおびただしい量の血溜まりができている。
「おやおや、私とした事が」
反省をしつつ影(実は真っ黒のマントを羽織った男性だった)がリムリーの背に曲剣を突き刺してとどめを刺してしまった。
声を上げる事無くグッタリと横たわるリムリー。
彼女はもう憎まれ口を叩くこともしない。
「彼女・・・を・・殺してしまったのか?」
男性に訊ねた。
「ええ。仕事ですから。ん?君は彼女の・・・。まあいいか。ところで仇討ちでもするのかい?この私に?」
思わぬ質問を返されてしまった。
「仇討ちだなんて。オレ、この子とさっきそこの茶屋で逢ったばかりで名前しか・・・」
まだ互いに自己紹介すらしていない。
なのに。
どうしてか両目から涙が溢れてきて止まらない。
「オレ・・・彼女にまだ名前を名乗っていなかった」
赤の他人とはいえ、人の命が目の前で失われる事がこれほどまでも精神にくるものだったとは。
ウルは初めて命の重さを知った。
「オレも殺されてしまうのか?」
暗殺者に訊ねてしまう。
「私は無差別に殺人を働くイカレタ輩じゃないよ。あくまでも仕事を請け負って彼女を抹殺したまで。心配しなくていいよ」
それを聞いてひとまず安心を得た。
「あの・・・仕事って?」
深く関わるつもりは無いけど、つい訊ねてしまう。
「彼女リムリーはある一族のご息女でね。よくある跡目争いってヤツですよ。私の依頼人は彼女の実の兄で、彼もまたリムリーの放った暗殺者に今も命を狙われているから、いわゆる早い者勝ちなのですよ」
リムリーは椅子取りゲームに負けたのだ。
「彼の命もあるからね。僕はリムリーの首を早く持ち帰ってあげなくちゃならないんで、これで失礼するよ」
話し込んでいる間にも、暗殺者はリムリーの頭を胴体から切り離していた。
首の無い女の子の死体が道端に転がっている。
「あぁ、そうそう。ひとつ僕のお願いを聞いてくれるかな、少年」
思い出したかのように暗殺者がウルに話しかけてきた。
「オレの名はウルです」
「じゃあウル。僕は先を急いでいるので代わりに彼女の遺体を弔ってもらえないかな」
するとウルは離れて倒れる大男をチラリと見やった。
「毛嫌いしていた護衛の男と一緒じゃあ彼女は成仏できないよ」
あの大男はリムリーの護衛だったのか・・・。
「そっか。だったら彼女だけを埋葬しておくよ。あんまり遠くへ運べないから道の脇になっちゃうけど」
「それでも弔ってもらう事で彼女は人としての生を歩んだ事になる」
殺人を犯した者の理屈などまったく理解できない。
「終着点あってこそ人生」
だから、貴方の言っている事は理解できないって。
暗殺者がウルの顔をのぞき込んで小さく笑った。
「君は優しい人なんだね」
今更何を言っているんだ?この人。
しかし、それは、ほんのかすり傷を与えただけに過ぎない。
それなりに出血はしているけれど、走ったり踏み込んだりの動作に影響を与えるには至らなかった。
なので。
リムリーと呼ばれた少女を連れて逃げても、男との差は一向に開くことは無かった。
「腹立つーッ!何でお前、そんなに足が遅いんだよ!」
とにかくリムリーの足が壊滅的に遅かった。
身軽そうな格好をしておいて、超が付くほどの鈍足だなって、詐欺もいいところじゃないか。
「えー、アンタがあのブタ野郎をブチのめしてくれたら済む話じゃないの。さっさとやっておしまいなさいよ」
自らの非を他人におっ被せる最低女であった。
「オレの剣ではアイツを倒す事はできない」
手にする板の剣に目をやる。
剣そのものが完成にほど遠い未完成品な以前に、ウルは剣術においても傍が見て一発で分かる未熟者である。
それ以前に。
男のスネをかすめただけでウルの板の剣は見事に変形してしまっている。
鉄を薄く延しただけの剣などしょせんはそんなものでしかない。
「疲れたー」
リムリーが立ち止まってしまった。
「何をやってんだよ!?走らないと、アイツにとっ捕まっちまうぞ」
言葉を掛けるも、当のリムリーは息があがってしまい、返答もままならない。
なんて体力の無い女だ・・・。
振り返れば、峠の茶屋が未だ視界に収まっている。
アホほど視力の良いウルには看板までもがバッチリと見えている。
「邪魔立てするなら容赦はせんぞ」
大男が血走った眼でウルを睨み付ける。
「何だか知らないけど、大の大人が女の子を追いかけ回すのはどうかな?見ていて助けたいって気持ちになるじゃないか」
よくよく考えてみれば、理由も無しに、その場の気分だけで行動してしまっていた。
瞬間!
ブワァッとウルの横をかすめる影が目に映ると。
板の大剣を構えようとしていた大男の胸にバツ印が描かれていた。
ドスンッ!と力無くうつ伏せに倒れ伏す大男。
「そんな・・・殺人!?」
背後でリムリーが驚きの声を上げている。
すると影は反転すると、今度はウルへと向かって来たではないか。
あまりにも瞬間的な出来事に、ウルは身構える事すらできない。
再びブワッと風をまとった影がウルの横をかすめる。
ドスンッ。
落下音が耳に届いた。
え?
振り返れば。
リムリーがうつ伏せに倒れていた。
その首からおびただしい量の血溜まりができている。
「おやおや、私とした事が」
反省をしつつ影(実は真っ黒のマントを羽織った男性だった)がリムリーの背に曲剣を突き刺してとどめを刺してしまった。
声を上げる事無くグッタリと横たわるリムリー。
彼女はもう憎まれ口を叩くこともしない。
「彼女・・・を・・殺してしまったのか?」
男性に訊ねた。
「ええ。仕事ですから。ん?君は彼女の・・・。まあいいか。ところで仇討ちでもするのかい?この私に?」
思わぬ質問を返されてしまった。
「仇討ちだなんて。オレ、この子とさっきそこの茶屋で逢ったばかりで名前しか・・・」
まだ互いに自己紹介すらしていない。
なのに。
どうしてか両目から涙が溢れてきて止まらない。
「オレ・・・彼女にまだ名前を名乗っていなかった」
赤の他人とはいえ、人の命が目の前で失われる事がこれほどまでも精神にくるものだったとは。
ウルは初めて命の重さを知った。
「オレも殺されてしまうのか?」
暗殺者に訊ねてしまう。
「私は無差別に殺人を働くイカレタ輩じゃないよ。あくまでも仕事を請け負って彼女を抹殺したまで。心配しなくていいよ」
それを聞いてひとまず安心を得た。
「あの・・・仕事って?」
深く関わるつもりは無いけど、つい訊ねてしまう。
「彼女リムリーはある一族のご息女でね。よくある跡目争いってヤツですよ。私の依頼人は彼女の実の兄で、彼もまたリムリーの放った暗殺者に今も命を狙われているから、いわゆる早い者勝ちなのですよ」
リムリーは椅子取りゲームに負けたのだ。
「彼の命もあるからね。僕はリムリーの首を早く持ち帰ってあげなくちゃならないんで、これで失礼するよ」
話し込んでいる間にも、暗殺者はリムリーの頭を胴体から切り離していた。
首の無い女の子の死体が道端に転がっている。
「あぁ、そうそう。ひとつ僕のお願いを聞いてくれるかな、少年」
思い出したかのように暗殺者がウルに話しかけてきた。
「オレの名はウルです」
「じゃあウル。僕は先を急いでいるので代わりに彼女の遺体を弔ってもらえないかな」
するとウルは離れて倒れる大男をチラリと見やった。
「毛嫌いしていた護衛の男と一緒じゃあ彼女は成仏できないよ」
あの大男はリムリーの護衛だったのか・・・。
「そっか。だったら彼女だけを埋葬しておくよ。あんまり遠くへ運べないから道の脇になっちゃうけど」
「それでも弔ってもらう事で彼女は人としての生を歩んだ事になる」
殺人を犯した者の理屈などまったく理解できない。
「終着点あってこそ人生」
だから、貴方の言っている事は理解できないって。
暗殺者がウルの顔をのぞき込んで小さく笑った。
「君は優しい人なんだね」
今更何を言っているんだ?この人。
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