上 下
56 / 59
【神アカシ篇】(1項目)

ページ10

しおりを挟む
昼休み。

「何してるの?」

ため息まじりに僕が言う。

若頭が学園の至る所にお札を貼りまくっていた。

「見て解らぬのか?
主は本当に阿呆ゾヨな! 結界を張っておるゾヨ!」

そのせいで風紀委員にめちゃくちゃ迷惑がられている。

「今回は何のスクープも撮れまへんでしたのぅ」

気がつくと後ろに、報道部部長が立っていた。
パソコン部部長が傍にいないことに少し安堵した。

「ごめんね。夜の校舎で張り込みまでさせてたのに」

もしかしたら、また何か有力な情報が得られるかと待機してもらっていたけど、何の成果も得られなかった。

「かまわんけん。
それよりでんが、あれから風紀委員の奴らが、変な文句つけに来なくなりましてな。
カイチョさんのお蔭でっせ! ありがとさん!」

「はは。まあ、僕の言うことには風紀委員も逆らえないからね」

「ゴッドファーザーよ!
女とイチャついてる暇があったら、とっとと作業を終わらせぬか!」

若頭がお札を貼りながら睨みをきかせていた。

「別にイチャついてなんかないよ」

「主の幼なじみの風紀委員のあの女に、言いつけてやってもよいゾ!」

「はあ!? なんでここでアリスが出て来るの!?」

僕はピーンと感を働かせる。

「ははん……。
若頭ってば、僕のことが羨ましいのか。
自分は会話できる女子が一人もいないもんねぇ」

若頭は更に怒った形相でギャーギャーと絡んできた。
僕と若頭は顔を異常に近づけた状態で口論となっていた。

――カシャ!

「スクープは撮れんかったけど、
代わりに、エエ生写真ゲットでっせ~♪」

報道部部長がこちらに向かってカメラのシャッターを切った。

「えっ? 生写真て、僕たちの?」

「おふたりの写真は飛ぶように売れるんでっせ♪」

「なんて迷惑な……。今すぐ削除するゾヨ!」

売れる? 僕たちの写真が? いつの間に……。

「生写真?なら一人ずつ写ってたほうがいいんじゃないの?」

若頭は純日本人なのに、亜麻色の長い髪をしていて顔もかなりの美形だ。
だから僕は必要ないと思うんだけど。

「これはこれで、とてもエエんでっせ♪」

まったくよく解らない。

「ほにゃらば、エエものも撮れたし、あたしはこの辺でおいとま~♪」

はっ、速い……。

笑いながら、一瞬にして走り去る報道部部長。

……仕方がない。
僕と若頭は、夜の魔術師を捕まえるべく罠を張ることにした。

もちろん今度は、学園内に生徒も教職員も誰一人残っていない状態とする。僕と若頭のふたりだけだ。

僕は細い糸を張る。
普通の人間には、見えなくて触れることもできない。
退魔用の特別製だ。

若頭は相変わらずあの少年を悪霊だと言うが、僕にはもっとタチの悪いものに思えた。
ただの人間でないことは確かだろうけど。

それに――。
【お兄ちゃん】……。
あの言葉が胸に引っかかる。

単純に、僕が年上のお兄さんだからそう呼んだのか。
それとも――。

僕をお兄ちゃんと呼ぶのは修道院にいる弟と妹たちだけだ。
もちろん、あんな少年が修道院にいるはずもない。

窓の外を眺めて思った。
たしか、今日は満月だったな。



……そして、しばらくして夜のとばりが落ちた。

静寂を破って、リンと学園内に音が響いた。

見えない糸に鈴を付けて学園中に張り巡らせておいた。
それに掛かった、夜の魔術師が侵入してきた合図だ。
さらに一度入ったら出られないように強力な結界を張ってある。

姿は見えないが、僕と若頭はチリンチリンと音のするほうを追っていく。

音は上へ上へと向かっている。
どうやら、むこうも罠に気が付いて逃げ回っているようだ。

このまま進んでも、もう……そこに逃げ場なんて無いのに。

僕たちは、立ち入り禁止の紐を切って、屋上へと続く扉を開いた。

そこに、立ち尽くす少年の姿があった。
仮面の下からでも分かるほど、ギョロリとこちらに目を向ける。

不気味なほど巨大な満月に照らされて、暗闇の中で碧光りするように、ぼんやりと浮かび上がっていた。

……ついに、夜の魔術師を追い詰めたのだ……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

トキノクサリ

ぼを
青春
セカイ系の小説です。 「天気の子」や「君の名は。」が好きな方は、とても楽しめると思います。 高校生の少女と少年の試練と恋愛の物語です。 表現は少しきつめです。 プロローグ(約5,000字)に物語の世界観が表現されていますので、まずはプロローグだけ読めば、お気に入り登録して読み続けるべき小説なのか、読む価値のない小説なのか、判断いただけると思います。 ちなみに…物語を最後まで読んだあとに、2つの付記を読むと、物語に対する見方がいっきに変わると思いますよ…。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

学科魔法士の迷宮冒険記(最終版)

九語 夢彦
ファンタジー
近未来の地球に突然出現した結晶構造物、魔晶。 異世界の生物である魔獣を周囲の空間ごと地球へ召喚し、 地球の空間を侵食した異世界領域、迷宮をも生み出すこの魔晶によって、 混沌とする地球。 人類は、その混沌とする世界で、 空想の産物と思われていた魔法を手にし、 たくましく日々を生きていた。 魔法を身に付け、迷宮を探索し、魔獣を退治する人類、学科魔法士。 この物語は、学科魔法士の主人公が、日々経験する冒険活劇である。 ※この作品は「小説家になろう(http://syosetu.com/)」でも掲載しています。

この欠け落ちた匣庭の中で 終章―Dream of miniature garden―

至堂文斗
ミステリー
ーーこれが、匣の中だったんだ。 二〇一八年の夏。廃墟となった満生台を訪れたのは二人の若者。 彼らもまた、かつてGHOSTの研究によって運命を弄ばれた者たちだった。 信号領域の研究が展開され、そして壊れたニュータウン。終焉を迎えた現実と、終焉を拒絶する仮想。 歪なる領域に足を踏み入れる二人は、果たして何か一つでも、その世界に救いを与えることが出来るだろうか。 幻想、幻影、エンケージ。 魂魄、領域、人類の進化。 802部隊、九命会、レッドアイ・オペレーション……。 さあ、あの光の先へと進んでいこう。たとえもう二度と時計の針が巻き戻らないとしても。 私たちの駆け抜けたあの日々は確かに満ち足りていたと、懐かしめるようになるはずだから。

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている

飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話 アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。 無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。 ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。 朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。 連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。 ※6/20追記。 少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。 今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。 1話目はちょっと暗めですが………。 宜しかったらお付き合い下さいませ。 多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。 ストックが切れるまで、毎日更新予定です。

処理中です...