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【星ワタリ篇】~第1章~(題2部)
夢現二時
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空は絶望的に暗く灰色にくすんでいた。
それはまるで色の無い、モノクロームの世界のようだった……。
紅い本の放った淡い光りもゆっくりと消えていった。
メアリは恐る恐るページに目を落とす。
「……真っ暗ですね。
ですが、夜とは少し違いますね」
いつの間にか隣りにナイトとミュウが連れ立って、辺りを眺めていた。
胸元に提げているファントムからの贈り物、懐中時計を手にする。
「これ、一応動いてはいますけど、正確な時刻かは怪しげデスね」
針は丁度、十二時を回った所を指している。
ミュウもそれを覗き込む。
「もし、この時刻が正しいのであれば、今までの状況から計算すると……」
もう今日は12月25日の、
「もしかして、今はお昼の十二時??」
「……そういうことになりますね」
「ナイト、これを見てみろ」
メアリは紅い本を差し出す。
「これってさっきも見たトラベラーズ・ダイアリーじゃないデスか。
こんな白紙の本を何度も見てどうするのデスか」
「ここだ、この一番最初のページ……」
唇をとがらせて、むくれるナイトに強制的に本を持たせる。
そのページを見た瞬間、ナイトは表情を一変させた。
「――文字が、浮かび上がっている?」
白紙だったはずのページに、紅黒く殴り書きされたかのような文章が綴られていた……。
「……始マリハ終ワリ、終ワリハ始マリ」
ナイトはぼんやりとした瞳で無心に文字を読み始める。
「死神ノ始マリノ合図ト共ニ夢ノ城ガ崩レ去リ、兎タチハ楽シイ夢カラ覚メタ……。
ソレハ【真実ノ世界】」
最後の言葉に少しの恐怖を感じる。
「全テノ終ワリヲ迎エルタメノ物語リガ今、始マルノダ……」
空間が真っ暗に歪んだように感じた。
三人は嫌な予感に言葉を無くした。
今置かれている自分たちの状況を言われた気がしていた。
「子供騙しな……おふざけもいいところデスねぇ~」
それでもナイトは気にもかけず、いつものように悪戯に笑う。
拍子抜けしてしまう。
が、それがナイトの良い所でもあるのかもしれない。
きょろきょろと辺りを見渡してから、
「とりあえず、街の様子を詮索してみましょうかね?
このままでは埒が明きませんし」
杖を器用に操りながら軽やかに跳び駆けていくナイト。
「まったく……」
ため息のメアリ。
その後ろに続いて静かにミュウも歩き始めた。
「何か見つけたか?」
「いいえ、人一人見当たりません。 蛻の殻、デスね」
いつもの商店街を歩く三人。
けれど、昨日とは明らかに一変してしまっている。
毎日がカーニバルのような楽しげな街で、
さらに昨日はクリスマスイヴということでとても盛り上がっていたのに、
今はまるで冷たい廃墟と化した死霊都市……。
「みんな、どこにいっちゃったのかなぁ……?」
ミュウが呟く。
「これはゲームの世界じゃないのか?
どう考えてもおかしいだろ、一晩で誰も居なくなるなんて」
メアリが吐き捨てる。
「ではこれは死神の造り出した架空の世界で、現実ではない、と?」
ナイトが言う。
住人は一人も見当たらないものの、街並みはいつもと何ら変わりはない。
「そうとしか考えられないだろ。そうじゃなかったらなんなんだ、ここは」
「……もし、この世界こそが現実であったとしたら?」
「え……」
急に冷たい瞳を向けられて、言葉に詰まるメアリ。
「元居たあの世界が現実であると、言い切れるのデスか? 何を根拠に?」
モノクロの世界に、白いイビツな亀裂が入ったかのように、
――万華鏡の世界……。
硝子の欠片を転がせて引き寄せあい、鏡と鏡が裏返ったような気がした。
視界が真っ暗になった。
「……うっ……」
突然の目まいに、メアリは頭を押さえた。
フッと笑い、
「冗談デスよ」
クスクスと、舌を見せるナイト。
振り向いて、ふわりふわりと舞うような足取りで歩きだす。
蒼いマントが風に煽られて捲れ上がった。
リリリ……リリリン。
音……?何の音だ?
メアリはナイトの姿を目で追った。
ナイトの影が右へ左へ、四方八方へと揺れる。
それと同時にその音も後から付いて行く。
リン……チリン……。
鈴の音……?
ナイトの体から聞こえている……?
すると、何かが顔の辺りにひらりと当たり、目の前が白く霞んだ。
そっと指先で触れて手に取る。
「花びら……?」
淡く薄いピンク色の小さな花びら。
辺りは、枯れ木に枯れ草。 一輪の花すら咲いていない。
それはメアリが知らない世界の、知らない時代の花……。
桜の花びらだった。
……隣りでミュウが物悲しげな瞳でナイトを見つめていることに、その時メアリは気が付かなかった……。
それはまるで色の無い、モノクロームの世界のようだった……。
紅い本の放った淡い光りもゆっくりと消えていった。
メアリは恐る恐るページに目を落とす。
「……真っ暗ですね。
ですが、夜とは少し違いますね」
いつの間にか隣りにナイトとミュウが連れ立って、辺りを眺めていた。
胸元に提げているファントムからの贈り物、懐中時計を手にする。
「これ、一応動いてはいますけど、正確な時刻かは怪しげデスね」
針は丁度、十二時を回った所を指している。
ミュウもそれを覗き込む。
「もし、この時刻が正しいのであれば、今までの状況から計算すると……」
もう今日は12月25日の、
「もしかして、今はお昼の十二時??」
「……そういうことになりますね」
「ナイト、これを見てみろ」
メアリは紅い本を差し出す。
「これってさっきも見たトラベラーズ・ダイアリーじゃないデスか。
こんな白紙の本を何度も見てどうするのデスか」
「ここだ、この一番最初のページ……」
唇をとがらせて、むくれるナイトに強制的に本を持たせる。
そのページを見た瞬間、ナイトは表情を一変させた。
「――文字が、浮かび上がっている?」
白紙だったはずのページに、紅黒く殴り書きされたかのような文章が綴られていた……。
「……始マリハ終ワリ、終ワリハ始マリ」
ナイトはぼんやりとした瞳で無心に文字を読み始める。
「死神ノ始マリノ合図ト共ニ夢ノ城ガ崩レ去リ、兎タチハ楽シイ夢カラ覚メタ……。
ソレハ【真実ノ世界】」
最後の言葉に少しの恐怖を感じる。
「全テノ終ワリヲ迎エルタメノ物語リガ今、始マルノダ……」
空間が真っ暗に歪んだように感じた。
三人は嫌な予感に言葉を無くした。
今置かれている自分たちの状況を言われた気がしていた。
「子供騙しな……おふざけもいいところデスねぇ~」
それでもナイトは気にもかけず、いつものように悪戯に笑う。
拍子抜けしてしまう。
が、それがナイトの良い所でもあるのかもしれない。
きょろきょろと辺りを見渡してから、
「とりあえず、街の様子を詮索してみましょうかね?
このままでは埒が明きませんし」
杖を器用に操りながら軽やかに跳び駆けていくナイト。
「まったく……」
ため息のメアリ。
その後ろに続いて静かにミュウも歩き始めた。
「何か見つけたか?」
「いいえ、人一人見当たりません。 蛻の殻、デスね」
いつもの商店街を歩く三人。
けれど、昨日とは明らかに一変してしまっている。
毎日がカーニバルのような楽しげな街で、
さらに昨日はクリスマスイヴということでとても盛り上がっていたのに、
今はまるで冷たい廃墟と化した死霊都市……。
「みんな、どこにいっちゃったのかなぁ……?」
ミュウが呟く。
「これはゲームの世界じゃないのか?
どう考えてもおかしいだろ、一晩で誰も居なくなるなんて」
メアリが吐き捨てる。
「ではこれは死神の造り出した架空の世界で、現実ではない、と?」
ナイトが言う。
住人は一人も見当たらないものの、街並みはいつもと何ら変わりはない。
「そうとしか考えられないだろ。そうじゃなかったらなんなんだ、ここは」
「……もし、この世界こそが現実であったとしたら?」
「え……」
急に冷たい瞳を向けられて、言葉に詰まるメアリ。
「元居たあの世界が現実であると、言い切れるのデスか? 何を根拠に?」
モノクロの世界に、白いイビツな亀裂が入ったかのように、
――万華鏡の世界……。
硝子の欠片を転がせて引き寄せあい、鏡と鏡が裏返ったような気がした。
視界が真っ暗になった。
「……うっ……」
突然の目まいに、メアリは頭を押さえた。
フッと笑い、
「冗談デスよ」
クスクスと、舌を見せるナイト。
振り向いて、ふわりふわりと舞うような足取りで歩きだす。
蒼いマントが風に煽られて捲れ上がった。
リリリ……リリリン。
音……?何の音だ?
メアリはナイトの姿を目で追った。
ナイトの影が右へ左へ、四方八方へと揺れる。
それと同時にその音も後から付いて行く。
リン……チリン……。
鈴の音……?
ナイトの体から聞こえている……?
すると、何かが顔の辺りにひらりと当たり、目の前が白く霞んだ。
そっと指先で触れて手に取る。
「花びら……?」
淡く薄いピンク色の小さな花びら。
辺りは、枯れ木に枯れ草。 一輪の花すら咲いていない。
それはメアリが知らない世界の、知らない時代の花……。
桜の花びらだった。
……隣りでミュウが物悲しげな瞳でナイトを見つめていることに、その時メアリは気が付かなかった……。
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