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餌玉かくれんぼ

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 突如、海に轟いた咆哮。

「ま、まさか……ッ!」

 思う様に動かない身体を必死に動かし、後ろを見た。するとそこには、赤い光を纏い突撃してくるヴォズマーの姿があった。

「マズイぞ、どうするッ!?」

 前門のベイト・ボール。後門の怪物。進むも止まるも自身に危害が及ぶ選択だ。このままでは二人と一匹は共倒れ。流児は混乱し、再びパニックに陥ろうとした──その時、不思議なことが起こった。

「………!」
「──対衝突防御シールド」
「ッ!?  何を──」

 ガザミとシエラが両手を掲げると白い光の粒子が溢れだし、流児達を守るように包み込んだのだ。
 そして、その白い光は形をやじりへと変え、ベイト・ボールを貫いたのだ。



「さて……どうしようか……」
「──サイレントモード」
「……」

 ベイト・ボールを貫いた流児達は、光に包まれたまま、ヴォズマーがいなくなるのを待っていた。しかし、ヴォズマーは流児達を諦めていない様子。

 ヴォズマーがベイト・ボールの周囲を泳いでいる所為か、段々と密度が上がって狭くなってきた。

「このままじゃジリ貧だ……」

 隙間の見えない程に密着している小魚。そこからでも分かる程に強いヴォズマーの放つ赤い光を目で追いながら、流児は現状の解決方法を考えている。

「倒せなくても良い……どうにかして、なるべくの間気を逸らせないか……?」
「──検索中」
「……」

 二人と一匹で考えを巡らせるが、これといった方法も思い浮かばない。その時だった。一匹のカジキマグロがベイト・ボールを突き抜け、その勢いのままヴォズマーの目にぶつかったのだ。

「■■■■~~~~ッ!!」

 刺さったり潰れたりしてはいないものの、ヴォズマーは痛みから目を押さえ、下手人であるカジキマグロを引き裂いた。

「……カジキマグロは何でヴォズマーに向かって……いや、事故か……それなら……!」
「──意見の共有を要求します」
「……!」
「ああ、できるか分からないけど……」

 そう前置きをして、流児は一部始終を見て思い付いた内容をシエラとガザミに話した。それは、疑似餌を使ってベイト・ボールの中心にヴォズマーを閉じ込め、先程見たカジキマグロの様にヴォズマーへと事故を起こそうと言うものだった。

「とはいえ、どうやってそれを実行するかだけど……」
「──シミュレーション開始……完了。一部修正した案を実行します」
「……!」
「どうにかできそうなんだな。よし、それでいこう」

 流児が頷くと、ガザミがハサミを掲げてイワシを数匹呼び出した。イワシは光の中へと入って来て、その場で何かを待っている様子。
 そんな事できたのかと流児が見ていると、シエラが餌袋を指さして言った。

「──疑似餌を彼等に。陽動作戦を実行します」
「ああ、成る程」

 流児は餌袋からイワシが咥えられる程の疑似餌を取り出す。掌の疑似餌をイワシが一つずつ咥えると、外へと泳いでいった。

 効果は絶大だった。疑似餌を咥えたイワシ光の壁を越えて外に出ると、空気が一変したのだ。
 全ての動きが止まったのかと錯覚する程の静寂の後、ベイト・ボールを含めた全ての魚達が疑似餌を咥えたイワシへと殺到する。全てが疑似餌を咥えたイワシを狙っているお陰か、当初の目的が完遂された。

「■■■■ーー……!」

 ベイト・ボールがヴォズマーを中心に包み込み、疑似餌を狙った大型の魚達が突撃し始めたのだ。

「よし、このまま……いや、足りないのか?」

 このまま逃げようとする流児だったが、ヴォズマーの様子を見てさらなる作戦を考える。何せヴォズマーへと突撃しているのは僅かの大型魚のみだったからだ。
 このまま逃げたとしても、ヴォズマーは数回腕を振り払えばそれだけで終わる。安全に逃走するならば、さらなる数による妨害が必要になるだろう。

「疑似餌か……うん、いけるかもしれない」

 流児は疑似餌の性質を思い出していた。何も無ければピンポン玉サイズの餌ではあるが、その形状は思ったままに変えられる。そうして思い付いた作戦をシエラとガザミに共有すれば、一人と一匹は頷いた。
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