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子イルカ
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柔らかな波の音に包まれる中、流児は子供の頃の記憶を夢として見ていた。イルカの調査をする両親に、無理を言って連れて行ってもらった時の夢だ。
ゆったりとした波に揺れるボートの上で、流児は母の膝の上に座り、海を泳ぐイルカを眺めていた。
『知ってるか流児。イルカは凄く賢いんだ』
双眼鏡を覗く父が、隣で同じ様にし双眼鏡を覗く流児に語り始める。
『どれくらい?』
『んー、丁度流児くらいかな。その年の子供くらいの知能がある──要は賢いんだ』
『んー?』
『ははっ、まだ分かんないか』
『わかんない!』
流児が問えば、父は何気無く頭を撫でながら答える。
しかし、登場は五歳に成り立てだった流児には、父が何を言ってるのか全て理解することはできなかった。
『ま、要するにだな……海の中ではイルカにも気を付けろってことさ』
そういうと、父と母は流児の頬をつつき始めた。
『こんな風にイタズラされちゃうぞ~ツンツン!』
『それパクパク~~』
『んあ~~っ!』
やがてそれは、頬を食む様な動きに変わる。
まるで餌を啄む小魚の様に。
「う~ん……何すんだよ……うわっ!?」
目を覚まし身動ぎすると、小魚が散り、流児は四方から波をかけられた。
それが丁度良い気付けになったのか、流児の眠気はどこかへ消えていった。
「まったく……あ、あ~……おはよう?」
「──おはようございます」
ボヤけた目を擦って開く。すると、はぐれた筈のシエラの顔が眼前にあった。
逆さまに見えるシエラに向かって流児が目覚めの挨拶をすると、シエラは微笑んで返してくれた。
「……!」
「ああ、お前もおはよう」
流児の胸の上に乗っているガザミにも挨拶する。どうやらここまで付いてきたらしい。
そんな一人と一匹の様子を見て、シエラは微笑んでいる。
その微笑みに流児は見惚れて居ると、ようやく回り始めた頭が違和感に気付いた。
(……何でシエラの顔が逆さまに見えるんだ? 姿勢の感じで寝てるなら、顔がこんなに近くにあるのはおかしいし……まさかっ!?)
「うおお、ごめん!?」
「──対象が起床」
「……!?」
飛び起き離れ、先程まで自身の頭があった場所を見る。するとそこには、白い花の咲く海底に座り微笑むシエラの姿があった。
(まさかっ、膝枕!?)
ただでさえ出口への案内やらで迷惑をかけているのに、膝枕までしてもらったと気付く。 流児は感謝すべきか謝罪すべきかで混乱していると、立ち上がったシエラが何かを差し出してきた。
「あの、えっと……ありがとう。それと──それはッ……!」
少女が差し出したそれは、マリンブルーのボディに、白い手帳タイプのカバーが付いた、流児の端末だった。
「あ、ありがとう! 見付けてくれたんだね!」
シエラから端末を受け取ろうと手を伸ばす──その時だった。
「──回避します」
「……!」
「うわッ何だッ!?」
シエラと流児の間を、灰色の何かが素早く横切ったのだ。
「ピュイー!」
「……灰色のイルカ……バンドウイルカの──子供!?」
「ピュイッ!」
花を散らしながら横切った灰色の正体は、バンドウイルカの子供だった。
そんな子イルカは、流児を呼ぶ様に鳴いたり頭を振ったり、クリック音をぶつけて挑発している。
「遊んで欲しいのか? 待ってて、その前にスマホ……あれ、スマホは?」
「……!!」
シエラを待たせているので、先にスマホを受け取ろうとする流児。しかし、その掌にはガザミが乗っており、振り落とされた怒りが収まらないのか、ハサミを広げて威嚇のポーズをとっている。
「ごめんガザミ……それで、スマホは?」
「……!?」
「──端末はあちらに」
「あっち? あ、お前!」
軽い謝罪にショックを受けるガザミを放置して、流児はシエラにスマホの有りかを聞く。するとシエラは、子イルカの居る方を指差した。
シエラの指に従い視線をムケルト、子イルカが流児のスマホを咥えて弄んでいた。
「お前、返せッ!」
「ピュイー!」
あわてて追いかける流児だが、子イルカは楽しげな声を上げて逃げ出す。
「──案内を一時中断します」
「……」
シエラは追いかけっこする流児を微笑ましげに眺め、ガザミは呆れているかのようにハサミを下ろした。
ゆったりとした波に揺れるボートの上で、流児は母の膝の上に座り、海を泳ぐイルカを眺めていた。
『知ってるか流児。イルカは凄く賢いんだ』
双眼鏡を覗く父が、隣で同じ様にし双眼鏡を覗く流児に語り始める。
『どれくらい?』
『んー、丁度流児くらいかな。その年の子供くらいの知能がある──要は賢いんだ』
『んー?』
『ははっ、まだ分かんないか』
『わかんない!』
流児が問えば、父は何気無く頭を撫でながら答える。
しかし、登場は五歳に成り立てだった流児には、父が何を言ってるのか全て理解することはできなかった。
『ま、要するにだな……海の中ではイルカにも気を付けろってことさ』
そういうと、父と母は流児の頬をつつき始めた。
『こんな風にイタズラされちゃうぞ~ツンツン!』
『それパクパク~~』
『んあ~~っ!』
やがてそれは、頬を食む様な動きに変わる。
まるで餌を啄む小魚の様に。
「う~ん……何すんだよ……うわっ!?」
目を覚まし身動ぎすると、小魚が散り、流児は四方から波をかけられた。
それが丁度良い気付けになったのか、流児の眠気はどこかへ消えていった。
「まったく……あ、あ~……おはよう?」
「──おはようございます」
ボヤけた目を擦って開く。すると、はぐれた筈のシエラの顔が眼前にあった。
逆さまに見えるシエラに向かって流児が目覚めの挨拶をすると、シエラは微笑んで返してくれた。
「……!」
「ああ、お前もおはよう」
流児の胸の上に乗っているガザミにも挨拶する。どうやらここまで付いてきたらしい。
そんな一人と一匹の様子を見て、シエラは微笑んでいる。
その微笑みに流児は見惚れて居ると、ようやく回り始めた頭が違和感に気付いた。
(……何でシエラの顔が逆さまに見えるんだ? 姿勢の感じで寝てるなら、顔がこんなに近くにあるのはおかしいし……まさかっ!?)
「うおお、ごめん!?」
「──対象が起床」
「……!?」
飛び起き離れ、先程まで自身の頭があった場所を見る。するとそこには、白い花の咲く海底に座り微笑むシエラの姿があった。
(まさかっ、膝枕!?)
ただでさえ出口への案内やらで迷惑をかけているのに、膝枕までしてもらったと気付く。 流児は感謝すべきか謝罪すべきかで混乱していると、立ち上がったシエラが何かを差し出してきた。
「あの、えっと……ありがとう。それと──それはッ……!」
少女が差し出したそれは、マリンブルーのボディに、白い手帳タイプのカバーが付いた、流児の端末だった。
「あ、ありがとう! 見付けてくれたんだね!」
シエラから端末を受け取ろうと手を伸ばす──その時だった。
「──回避します」
「……!」
「うわッ何だッ!?」
シエラと流児の間を、灰色の何かが素早く横切ったのだ。
「ピュイー!」
「……灰色のイルカ……バンドウイルカの──子供!?」
「ピュイッ!」
花を散らしながら横切った灰色の正体は、バンドウイルカの子供だった。
そんな子イルカは、流児を呼ぶ様に鳴いたり頭を振ったり、クリック音をぶつけて挑発している。
「遊んで欲しいのか? 待ってて、その前にスマホ……あれ、スマホは?」
「……!!」
シエラを待たせているので、先にスマホを受け取ろうとする流児。しかし、その掌にはガザミが乗っており、振り落とされた怒りが収まらないのか、ハサミを広げて威嚇のポーズをとっている。
「ごめんガザミ……それで、スマホは?」
「……!?」
「──端末はあちらに」
「あっち? あ、お前!」
軽い謝罪にショックを受けるガザミを放置して、流児はシエラにスマホの有りかを聞く。するとシエラは、子イルカの居る方を指差した。
シエラの指に従い視線をムケルト、子イルカが流児のスマホを咥えて弄んでいた。
「お前、返せッ!」
「ピュイー!」
あわてて追いかける流児だが、子イルカは楽しげな声を上げて逃げ出す。
「──案内を一時中断します」
「……」
シエラは追いかけっこする流児を微笑ましげに眺め、ガザミは呆れているかのようにハサミを下ろした。
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