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夢現の喪失
03
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共有した感覚を切り離すことも無視することも出来ず、只管繋がれ抉られ擦り上げられ追い立てられていく欲望の渦に翻弄されながら悶えることしか、一身に官能を浴び続けることしか出来ない。
この僕が、αの中でも別格の才を有すると謳われた、この僕が。嬲られ操られ堕ちていくことしか出来ないとは。
これがΩの性だと云うのなら、何という業だろう。
もし責め苦にも似た退廃の法悦を、僕が共有することでほんの少しでもあの子が救われるのであれば。あの子の寄す処になれるのならば。
全ての感覚を遮断する。無になって、心を閉じて、罪の奈落まで深く堕ちていこう。
ーーーそう、目を背けたことが間違い、だったのだろうか。
虚ろな表情で只管腰を振る密と、それより遥かに壊れた瞳で揺らされている美澄と、床に転がり悶える僕と。
滑稽な構図。狂っている。熟れた果実のように、ねっとりと甘い蜜の匂い。わずかに動かす指先さえ官能に震える。しなやかな白魚のように跳ねる美澄の顔が、闇の中に浮かび上がって輝く。
虚空を彷徨っていた其の視線が、急速に焦点を合わせて、此方を向いた。瞳が、絡まり合った。
ーーーアレは、何だ?
美澄ではない。だが、他の誰だと?
瞳だけで射抜かれた。余りの鋭さに眼球が痺れた。圧倒された?この僕が。
美澄の皮を被っただけの似ても似つかぬ異質な存在が、美澄の中に巣喰っている。おぞましい。あの顔は、あの瞳は、
……今、僕は何を思った?
僕だけを見ろ、と。
僕だけを求めろ、と傲慢な欲望が視界を濁した。
『よもや斯様な場で貴様に見えるとはの……実に運命とは数奇なものよ……忘れはせぬぞ。
幾百の時が流れようとも、会稽の恥を雪がねば、吾が同胞に会わせる顔すら無い。重見天日とは将に是也。此度は己が無力に切歯扼腕するは貴様の方ぞ。
……ふん。死ぬより辛い目に遭えばよい』
頭蓋の中に響くソレは、口汚く僕を罵り、謗った。身に覚えのない悪行で非難される謂れは無い。
ーーーお前は誰だ。何故美澄の中にいる。
『是は吾が宿願の礎となる器。今は虚ろな洞じゃがの。吾が一族の神子を為す母胎、疎かにはせぬ。貴様が追い込んだのだ。またしても。是とて、貴様に遇わねば一片なりとも幸福な夢が見られようものを。
吾等に仇なすだけでは飽き足らず、是の運命まで悪戯に廻すとは余程に業が深いと見えるの。あなや、眼中之釘を吾が手にて抜けるとは望外の喜びよな。
見ておるがいい。己が宿業の末路を。無力さに震え、朽ちるがいい。怨気衝天、此度こそ吾が地獄に堕としてやろう』
凄艶な笑みを浮かべて、ソレは掻き消えた。
ーーー何がどうなっている?
考える余裕もなく、突然視界がブラックアウトした。
この僕が、αの中でも別格の才を有すると謳われた、この僕が。嬲られ操られ堕ちていくことしか出来ないとは。
これがΩの性だと云うのなら、何という業だろう。
もし責め苦にも似た退廃の法悦を、僕が共有することでほんの少しでもあの子が救われるのであれば。あの子の寄す処になれるのならば。
全ての感覚を遮断する。無になって、心を閉じて、罪の奈落まで深く堕ちていこう。
ーーーそう、目を背けたことが間違い、だったのだろうか。
虚ろな表情で只管腰を振る密と、それより遥かに壊れた瞳で揺らされている美澄と、床に転がり悶える僕と。
滑稽な構図。狂っている。熟れた果実のように、ねっとりと甘い蜜の匂い。わずかに動かす指先さえ官能に震える。しなやかな白魚のように跳ねる美澄の顔が、闇の中に浮かび上がって輝く。
虚空を彷徨っていた其の視線が、急速に焦点を合わせて、此方を向いた。瞳が、絡まり合った。
ーーーアレは、何だ?
美澄ではない。だが、他の誰だと?
瞳だけで射抜かれた。余りの鋭さに眼球が痺れた。圧倒された?この僕が。
美澄の皮を被っただけの似ても似つかぬ異質な存在が、美澄の中に巣喰っている。おぞましい。あの顔は、あの瞳は、
……今、僕は何を思った?
僕だけを見ろ、と。
僕だけを求めろ、と傲慢な欲望が視界を濁した。
『よもや斯様な場で貴様に見えるとはの……実に運命とは数奇なものよ……忘れはせぬぞ。
幾百の時が流れようとも、会稽の恥を雪がねば、吾が同胞に会わせる顔すら無い。重見天日とは将に是也。此度は己が無力に切歯扼腕するは貴様の方ぞ。
……ふん。死ぬより辛い目に遭えばよい』
頭蓋の中に響くソレは、口汚く僕を罵り、謗った。身に覚えのない悪行で非難される謂れは無い。
ーーーお前は誰だ。何故美澄の中にいる。
『是は吾が宿願の礎となる器。今は虚ろな洞じゃがの。吾が一族の神子を為す母胎、疎かにはせぬ。貴様が追い込んだのだ。またしても。是とて、貴様に遇わねば一片なりとも幸福な夢が見られようものを。
吾等に仇なすだけでは飽き足らず、是の運命まで悪戯に廻すとは余程に業が深いと見えるの。あなや、眼中之釘を吾が手にて抜けるとは望外の喜びよな。
見ておるがいい。己が宿業の末路を。無力さに震え、朽ちるがいい。怨気衝天、此度こそ吾が地獄に堕としてやろう』
凄艶な笑みを浮かべて、ソレは掻き消えた。
ーーー何がどうなっている?
考える余裕もなく、突然視界がブラックアウトした。
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