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揺るぎない妥協
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ーーー日々は流れ、徐々に泉の男漁りも下火になってきた。どうやら標的を搾り出したようで、密兄さまを含め、幾人かの男たちの間を往来している。若手代議士の先生、大病院の後継者、新進気鋭の天才数学者。
そして密兄さま。
北白川の兄さまたちが選択肢に入っていないのが妙ではあるが、相性でもあるのだろうか。
もう言葉さえ交わせないことは解っているけれど、
ーーー逢いたいな。
いつの間にかあの四人の兄弟を、逢えなくて寂しい、と思う程には慕っていたようだ。雪兄さまの柔らかな微笑み、春兄さまの大きな手、月兄さまの悪戯な笑い声、
そしてーーー
愛兄さま。
逢いたい。冷え切った眼差しでも、棘しかない言葉でも、構わない。逢いたい。逢いたいよ。
涙が、頬を伝っていく。これも錯覚だと解っている。
解っているけれど、心が、泣いているんだ。
神様、何処かに居るならどうか。
どうか、あの人に、
あの人に、一目でいい、
逢わせてください。
引き裂かれて千切れて床一面に散らばった心がもう元に戻れないと啼き叫ぶ。
止まらない涙を流れるがままにして、目を閉じる。物心ついてからずっと、あの人だけを見詰めてきた。全て憶えている。その全てを瞼の裏に取り出して、フィルムのように投影する。何もかもが愛しくて、美しくて、色褪せないまま、無数のあの人を映し出す。想い出せるだけ全てを。泣きじゃくりながら何度も何度も繰り返し、あの人を心の底から追い求める。
届かないと知りながら、伸ばした手の先で想い出す、あの人の感触を。
人を愛するというのは、こんなにも業が深く、こんなにも崇高で、身体中を流れる光の粒子に心洗われるような
尊くもあたたかなものだと、この檻の中で僕は初めて知った。知ることが出来た。
今になって願うことといえば、あの人が幸せであること。
僕と繋がっていた筈の運命は、きっと幻だったのだろう。あの人にとって、これからの人生が輝かしく、優しく、愛おしいものであるように。
そして、僕の双子、魂の片割れ。
泉も自分の人生を幸せに思える瞬間がありますように。
そう願いながら、僕は
深い眠りについた。
そして密兄さま。
北白川の兄さまたちが選択肢に入っていないのが妙ではあるが、相性でもあるのだろうか。
もう言葉さえ交わせないことは解っているけれど、
ーーー逢いたいな。
いつの間にかあの四人の兄弟を、逢えなくて寂しい、と思う程には慕っていたようだ。雪兄さまの柔らかな微笑み、春兄さまの大きな手、月兄さまの悪戯な笑い声、
そしてーーー
愛兄さま。
逢いたい。冷え切った眼差しでも、棘しかない言葉でも、構わない。逢いたい。逢いたいよ。
涙が、頬を伝っていく。これも錯覚だと解っている。
解っているけれど、心が、泣いているんだ。
神様、何処かに居るならどうか。
どうか、あの人に、
あの人に、一目でいい、
逢わせてください。
引き裂かれて千切れて床一面に散らばった心がもう元に戻れないと啼き叫ぶ。
止まらない涙を流れるがままにして、目を閉じる。物心ついてからずっと、あの人だけを見詰めてきた。全て憶えている。その全てを瞼の裏に取り出して、フィルムのように投影する。何もかもが愛しくて、美しくて、色褪せないまま、無数のあの人を映し出す。想い出せるだけ全てを。泣きじゃくりながら何度も何度も繰り返し、あの人を心の底から追い求める。
届かないと知りながら、伸ばした手の先で想い出す、あの人の感触を。
人を愛するというのは、こんなにも業が深く、こんなにも崇高で、身体中を流れる光の粒子に心洗われるような
尊くもあたたかなものだと、この檻の中で僕は初めて知った。知ることが出来た。
今になって願うことといえば、あの人が幸せであること。
僕と繋がっていた筈の運命は、きっと幻だったのだろう。あの人にとって、これからの人生が輝かしく、優しく、愛おしいものであるように。
そして、僕の双子、魂の片割れ。
泉も自分の人生を幸せに思える瞬間がありますように。
そう願いながら、僕は
深い眠りについた。
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