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揺るぎない妥協
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北白川本家の枷が少しなりとも外れたことによって、自由に、なったのだろう。
泉は有り体に言えば、子を為す相手を日夜物色しているようだった。誰と寝ても子が出来るという訳ではなさそうで、蓮華が思うところの「世の覇者となる子」の親として相応しい者に遭うまで、この乱痴気騒ぎは続くらしい。
……ご苦労なことだ。この状況を作り出した泉を恨んだり、憎んだり、憤ったり、そんなことをしても何の意味もない。意味もないと分っているのに僕は未だ、泉のことを完全には受け入れられないでいる。
泉が狙うのは上流階級の男ばかりだった。地位や職業は関係ない。容姿や年齢すら関係なかった。選り好みはしないのか、と此方が聞きたくなる程の節操なさだった。否、此方の容姿や年齢や立場を考えれば、どれだけだろうと選り好み出来る筈なのに、兎に角何かに取り憑かれたように狂い咲いていた。
甘い香りを撒き散らしながら男を誘い歩く、淫らな花。
男たちを紹介しているのは密兄さまらしかった。確かに北白川の娘をそこいらの下郎に抱かせていたのでは面子も何も丸潰れだろうし、そんな危ない橋を渡らせる愚昧さは密兄さまとは無縁のもの。何か策なり考えなりがあるのだろう。今の僕には如何でもいいことだ。
それなのに、相変わらず泉は密兄さまとも頻繁に関係を持っている。泉は密兄さまに其れ程固執していなくても、密兄さまは日に日に泉にのめり込んでいるように見えた。
片時も離したくない、と指先が訴えている。男たちの元へと足取りも軽く、若く綺羅綺羅しい羽根を広げて飛んでいく泉の後姿に、伸ばしかけた指を堪えて一瞬眉を顰める。
その姿を、僕は、美しいと思った。切なげで、苦しげで、愛しさに溢れていた。胸がずくん、と刺された。
仮令泉の発情に狂わされていただけだとしても。
ーーーそんなに厭なら手放さなければいいのに。
何故、他の男の元に送り出すような真似をするのだろう。密兄さまなら文句なく泉に、というか「美澄」に相応しい人間だと誰もが認めることだろう。だが、厳然たる事実として、泉は未だ孕まない。
それは不合格の烙印を押されるという、密兄さまの人生にとっては青天の霹靂のような出来事だろう。これまでの人生瑕疵のひとつもつけられたことのなさそうな彼にとっては、何故自分では足りないのだろう、とさぞ不愉快な思いをしていることだろうけれど。
それでも泉に、他の男の元には行くな、とは云わないのは彼なりの矜持か。或いは、たとえ行ったとしても泉は必ず戻ってくる、と確信があるせいなのか。密兄さまは、泉を送り出した後は何かに堪えるように独り、酒を飲んでいることが多い。あれだけ社交界で浮名を流していた麝香の男とは思えない変貌ぶりに、正直僕も驚きを隠せない。
……意外と可愛げのある人だったんだな。
密兄さまの様子を蓮華から聞く度に、僕は新鮮な気持ちで密兄さまを見直すことになった。まさか密兄さまが泉に嵌るようなことがあるとは。世の中、何が起こるか分らないものだ。
泉は有り体に言えば、子を為す相手を日夜物色しているようだった。誰と寝ても子が出来るという訳ではなさそうで、蓮華が思うところの「世の覇者となる子」の親として相応しい者に遭うまで、この乱痴気騒ぎは続くらしい。
……ご苦労なことだ。この状況を作り出した泉を恨んだり、憎んだり、憤ったり、そんなことをしても何の意味もない。意味もないと分っているのに僕は未だ、泉のことを完全には受け入れられないでいる。
泉が狙うのは上流階級の男ばかりだった。地位や職業は関係ない。容姿や年齢すら関係なかった。選り好みはしないのか、と此方が聞きたくなる程の節操なさだった。否、此方の容姿や年齢や立場を考えれば、どれだけだろうと選り好み出来る筈なのに、兎に角何かに取り憑かれたように狂い咲いていた。
甘い香りを撒き散らしながら男を誘い歩く、淫らな花。
男たちを紹介しているのは密兄さまらしかった。確かに北白川の娘をそこいらの下郎に抱かせていたのでは面子も何も丸潰れだろうし、そんな危ない橋を渡らせる愚昧さは密兄さまとは無縁のもの。何か策なり考えなりがあるのだろう。今の僕には如何でもいいことだ。
それなのに、相変わらず泉は密兄さまとも頻繁に関係を持っている。泉は密兄さまに其れ程固執していなくても、密兄さまは日に日に泉にのめり込んでいるように見えた。
片時も離したくない、と指先が訴えている。男たちの元へと足取りも軽く、若く綺羅綺羅しい羽根を広げて飛んでいく泉の後姿に、伸ばしかけた指を堪えて一瞬眉を顰める。
その姿を、僕は、美しいと思った。切なげで、苦しげで、愛しさに溢れていた。胸がずくん、と刺された。
仮令泉の発情に狂わされていただけだとしても。
ーーーそんなに厭なら手放さなければいいのに。
何故、他の男の元に送り出すような真似をするのだろう。密兄さまなら文句なく泉に、というか「美澄」に相応しい人間だと誰もが認めることだろう。だが、厳然たる事実として、泉は未だ孕まない。
それは不合格の烙印を押されるという、密兄さまの人生にとっては青天の霹靂のような出来事だろう。これまでの人生瑕疵のひとつもつけられたことのなさそうな彼にとっては、何故自分では足りないのだろう、とさぞ不愉快な思いをしていることだろうけれど。
それでも泉に、他の男の元には行くな、とは云わないのは彼なりの矜持か。或いは、たとえ行ったとしても泉は必ず戻ってくる、と確信があるせいなのか。密兄さまは、泉を送り出した後は何かに堪えるように独り、酒を飲んでいることが多い。あれだけ社交界で浮名を流していた麝香の男とは思えない変貌ぶりに、正直僕も驚きを隠せない。
……意外と可愛げのある人だったんだな。
密兄さまの様子を蓮華から聞く度に、僕は新鮮な気持ちで密兄さまを見直すことになった。まさか密兄さまが泉に嵌るようなことがあるとは。世の中、何が起こるか分らないものだ。
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