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逆行する歯車
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運命の番なんて都市伝説を本気で信じている者などいない。あの日まで僕もその一人だった。
αだらけの僕の世界。Ωであることは決して、悟られてはいけない。だからこそ余計に、無意識のうちに避けていたのかもしれない。たとえ出逢ったとしても、奇蹟のようなその邂逅は無かったことにするしかないのだから。
だって『私』は、『北白川 美澄』なんだから。
どんな想い人が現れたとしても、添い遂げられるはずもない。ましてや、Ωだとバレてしまう可能性は極力排除しなければならない。誰かと恋愛をするなんて、夢のまた夢。
ただ夢見がちな乙女たちの噂話にのぼるような絵空事でも、素敵なロマンスの話に心踊らせる位は許して欲しい。自分が主人公になれるなんて、思い上がったりはしないから。そんな風に思っていた、あの日までは。
運命は
いつも
強烈で
残酷だ。
あの人が運命の番だと、発情期を迎えた瞬間に分かった。本能で理解した。あの人から類稀なる芳しい薫りが、僕を目掛けて、矢のように真っ直ぐと届いたからだ。どんなに離れていても間違えようがない。魂にまで刻み込まれた絆が、運命の相手を捜し出す。
見つけた瞬間、
僕という花が綻んだ。
スローモーションを見ているようだ。身体が表皮から一枚ずつ薄布を剥ぐように、ひらりひらりと花弁になり、堕ちていく。深い深い、最も奥にある何かが目を醒ましていくのが分かる。
ひらり、
またひらり。
削ぎ落とされて残った花芯が先端を開いた瞬間、物凄い物量が脳天まで貫いて弾けた。それはきっとΩのフェロモンだったのだろう。身体の内側から急速にせり上がってくる奔流に流されるまま、僕の意識は途切れた。
次に目を覚ました時から、地獄は始まった。
あの人の気配はもう感じられなかった。何処か遠く、二度と触れられない場所に消えてしまった。そんな気がして、悲しみに狂った。運命の番を見つけた。それは間違いない。でも、此処にあの人はいない。
それは明白すぎる拒絶。遺されるのは、いつも、僕だ。
ーーーやっぱりな。
諦めと納得が同時に訪れる。『北白川美澄』という肩書きではない、僕という人間そのものと結ばれていたはずの運命の赤い糸。だったのに。
僕という人間が存在している唯一の証になるはずだった、運命の糸は、やっぱり僕には繋がってはくれなかった。
『北白川 美澄』
きっと、この配役が、肩書きこそが、本体で本物なのだろう。
いつの間にか、僕という人間は呑み込まれ、消えていたに違いない。もう誰も、『時任 泉』を知る者はいない。僕自身ですら『時任 泉』がどんな奴なのかもう、分からなくなっている。そんな人間、初めからいなかったのかもしれないな。運命でさえ『北白川 美澄』を選ぶのなら『時任 泉』なんて要らないじゃないか。僕自身ですら分からない僕なんて、
いないのと同じーーー
その時から僕は、『時任 泉』を辞めた。僕は僕自身を捨てた。
そして、僕を選ばなかった運命を、あの人、『北白川 真愛』を心の底から憎むことに決めた。
αだらけの僕の世界。Ωであることは決して、悟られてはいけない。だからこそ余計に、無意識のうちに避けていたのかもしれない。たとえ出逢ったとしても、奇蹟のようなその邂逅は無かったことにするしかないのだから。
だって『私』は、『北白川 美澄』なんだから。
どんな想い人が現れたとしても、添い遂げられるはずもない。ましてや、Ωだとバレてしまう可能性は極力排除しなければならない。誰かと恋愛をするなんて、夢のまた夢。
ただ夢見がちな乙女たちの噂話にのぼるような絵空事でも、素敵なロマンスの話に心踊らせる位は許して欲しい。自分が主人公になれるなんて、思い上がったりはしないから。そんな風に思っていた、あの日までは。
運命は
いつも
強烈で
残酷だ。
あの人が運命の番だと、発情期を迎えた瞬間に分かった。本能で理解した。あの人から類稀なる芳しい薫りが、僕を目掛けて、矢のように真っ直ぐと届いたからだ。どんなに離れていても間違えようがない。魂にまで刻み込まれた絆が、運命の相手を捜し出す。
見つけた瞬間、
僕という花が綻んだ。
スローモーションを見ているようだ。身体が表皮から一枚ずつ薄布を剥ぐように、ひらりひらりと花弁になり、堕ちていく。深い深い、最も奥にある何かが目を醒ましていくのが分かる。
ひらり、
またひらり。
削ぎ落とされて残った花芯が先端を開いた瞬間、物凄い物量が脳天まで貫いて弾けた。それはきっとΩのフェロモンだったのだろう。身体の内側から急速にせり上がってくる奔流に流されるまま、僕の意識は途切れた。
次に目を覚ました時から、地獄は始まった。
あの人の気配はもう感じられなかった。何処か遠く、二度と触れられない場所に消えてしまった。そんな気がして、悲しみに狂った。運命の番を見つけた。それは間違いない。でも、此処にあの人はいない。
それは明白すぎる拒絶。遺されるのは、いつも、僕だ。
ーーーやっぱりな。
諦めと納得が同時に訪れる。『北白川美澄』という肩書きではない、僕という人間そのものと結ばれていたはずの運命の赤い糸。だったのに。
僕という人間が存在している唯一の証になるはずだった、運命の糸は、やっぱり僕には繋がってはくれなかった。
『北白川 美澄』
きっと、この配役が、肩書きこそが、本体で本物なのだろう。
いつの間にか、僕という人間は呑み込まれ、消えていたに違いない。もう誰も、『時任 泉』を知る者はいない。僕自身ですら『時任 泉』がどんな奴なのかもう、分からなくなっている。そんな人間、初めからいなかったのかもしれないな。運命でさえ『北白川 美澄』を選ぶのなら『時任 泉』なんて要らないじゃないか。僕自身ですら分からない僕なんて、
いないのと同じーーー
その時から僕は、『時任 泉』を辞めた。僕は僕自身を捨てた。
そして、僕を選ばなかった運命を、あの人、『北白川 真愛』を心の底から憎むことに決めた。
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