恋愛エントロピー

turn A - 急 -

07

「へへっ、うれし…」

スリスリと頭を擦りつけながら、きゅうっと腕の中に閉じ込められる瞬間の高揚を何て呼べばいいのだろう。

肌を重ねたあの夜なんか比べ物にならないほど幸せに満たされて、自然と顔がほころんでしまう。それを見てまた嬉しそうに笑う、その顔がめちゃくちゃに好きだ。

「あっ、そうだ。ねえ、手ぇ出して」

少し甘えた舌たらずな話し方で距離を詰めてくるあざとささえ新鮮で可愛くて、言われるがままに手を出すと、ちゅっと薬指に口唇が触れて甘い痺れが電流になって心臓まで駆け抜けた。

「ここ、予約だからね？」

なんて、軽くウィンクしてきやがった。無理、もう無理、何なんだ。心臓が爆ぜた。

「あ、これ、オレとの初キスにはカウントしないでくださいね？」

そう言って、冷たい指先がそっと俺の口唇をなぞった。

…そうだった。コイツ、ナチュラルに人たらしだった。半年離れてたせいで、すっかり忘れてた。こういうヤツだったわ。もうムリ、堪えられん。

恥ずかしさに一気に朱に染まった顔を、花束に埋めて後退る。二人の間にほんの少し空いた隙間も、ふふ、っと笑いながら得意気に詰めてくる。

ちょっと、ホントに何なん。軽くパニックになりながら、くるりと背を向けて宛てもなく歩き出す俺のローブをくいっと引っ張って引き留めるその隙に、スルリとローブの波に隠れるように触れて、ぎゅっと握りこまれた左手がアツい。

「大好き、ですよ」

派手な髪を揺らしながら、俺の隣りを歩くコイツの歩幅に慣れるにはまだまだ時間がかかりそうだと、収まらない動悸を抱えたまま、ぎゅっと手を握り返した。

- fin -