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turn B - 急 -
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恋に勝ちも負けもない、と頭では理解していても、あの夜は完全にオレの敗北だった。
ただ快楽に溺れたように見せかけて、何一つさせてもらえないままに、完膚なきまでの羞恥と後悔を植え付けられてしまった。
もう一度、と願うことすら怯えてしまう心がまっすぐにあの人の方へ向き合えるまで、会うことすら出来なかった。学校が忙しいからと言い訳をして1週間、ズル休みする子供のようにサークルに顔を出すこともなく避け続けた。あの人からの連絡はもちろん、一度もない。
さすがにいつまでもサボるわけにもいかず、翌週顔を出すと運よく先輩はいなかった。ガッカリしたのかホッとしたのか、自分でも分からないモヤモヤが胸を占領する。どんな顔をして会えばいいのか分からない、でもうやむやに無かったことにもしたくなくて、あの日告白した時には確かにキラキラしていたはずの”好き”がすっかり形を変えてしまったことに遅ればせながら気づいた。ようやくあの人が言った「好きが違う」の意味が、分かった気がした。
オレはあの人に憧れて、あの人を自分のところまで引き摺り下ろしたかったんだ。オレを見て好きになって欲しくて、ただ気持ちをぶつけるだけの拙い子供だった。
あの人がオレといて幸せかどうか、なんて微塵も考えたことがなかった。どうしたらあの人を幸せにできるのかについて、想像はおろか思いつくことすらしなかった自分に呆れ果てた。こんなバカなガキがあの人に相手にされるわけがないのに。
ただ欲望のままに抱いてしまった。セックスの時ですら、あの人のことを抱いているように見せかけて、ただ自分の欲求を吐き出していただけだと気づいて、自分自身に吐き気がした。どのツラ下げて好きだとか言ってんだよ、オレは。
ここまで来てようやく、オレは形の変わってしまった"好き"の名前を知った。それは、独りよがりの"恋"が"愛"に変わった瞬間だった。
それから悩んで悩んで、取り返しのつかない失敗を犯した自分を責めて悔やんで、辿り着いた"愛"ってやつは、重く苦しくオレの心の中に居座ってキリキリとオレを苛めた。
謝りたい、もう一度何もかもやり直したい、そう思っていたのにあの日以来あの人には会えなくなった。
博士号を取るための論文や研究やらで忙しく、もうサークルに顔を出すこともないのだと知らされた時は目の前が真っ暗になった。キャンパスも違う、研究室も違う、年だって全然違う。サークルに顔を出せば簡単に会えた日々はもう、戻ってこない。
でも大事な時期を邪魔するわけにもいかなかった。あの人は今、これからの人生を賭けて研究しているわけで、オレの恋はもちろんオレにとっての"人生の重大事"ではあったけれど、あの人には1ミクロンも関係のない話だ。あの人にとって何が大切で優先すべきことなのかを理解も出来ないようなやつが、好きだなんて言っていいはずがなかった。
オレに出来ることはあの人に会えた時にもう一度最初からやり直せるように、あの人に認めてもらえる自分になっておくこと、それだけだった。
だけど弱くて情けないガキの部分はワガママにまだあの人を求めていて、オレの姿をどこかで見かけて少しでも胸が波立ってくれないか、とすら思っていた。
どうか忘れないで。
なかったことにしないで。
もう一度会える時まで、オレの大好きなあなたのままでいて。
そう心から願いながら砂を噛み締める思いで毎日を生きていた。
ただ快楽に溺れたように見せかけて、何一つさせてもらえないままに、完膚なきまでの羞恥と後悔を植え付けられてしまった。
もう一度、と願うことすら怯えてしまう心がまっすぐにあの人の方へ向き合えるまで、会うことすら出来なかった。学校が忙しいからと言い訳をして1週間、ズル休みする子供のようにサークルに顔を出すこともなく避け続けた。あの人からの連絡はもちろん、一度もない。
さすがにいつまでもサボるわけにもいかず、翌週顔を出すと運よく先輩はいなかった。ガッカリしたのかホッとしたのか、自分でも分からないモヤモヤが胸を占領する。どんな顔をして会えばいいのか分からない、でもうやむやに無かったことにもしたくなくて、あの日告白した時には確かにキラキラしていたはずの”好き”がすっかり形を変えてしまったことに遅ればせながら気づいた。ようやくあの人が言った「好きが違う」の意味が、分かった気がした。
オレはあの人に憧れて、あの人を自分のところまで引き摺り下ろしたかったんだ。オレを見て好きになって欲しくて、ただ気持ちをぶつけるだけの拙い子供だった。
あの人がオレといて幸せかどうか、なんて微塵も考えたことがなかった。どうしたらあの人を幸せにできるのかについて、想像はおろか思いつくことすらしなかった自分に呆れ果てた。こんなバカなガキがあの人に相手にされるわけがないのに。
ただ欲望のままに抱いてしまった。セックスの時ですら、あの人のことを抱いているように見せかけて、ただ自分の欲求を吐き出していただけだと気づいて、自分自身に吐き気がした。どのツラ下げて好きだとか言ってんだよ、オレは。
ここまで来てようやく、オレは形の変わってしまった"好き"の名前を知った。それは、独りよがりの"恋"が"愛"に変わった瞬間だった。
それから悩んで悩んで、取り返しのつかない失敗を犯した自分を責めて悔やんで、辿り着いた"愛"ってやつは、重く苦しくオレの心の中に居座ってキリキリとオレを苛めた。
謝りたい、もう一度何もかもやり直したい、そう思っていたのにあの日以来あの人には会えなくなった。
博士号を取るための論文や研究やらで忙しく、もうサークルに顔を出すこともないのだと知らされた時は目の前が真っ暗になった。キャンパスも違う、研究室も違う、年だって全然違う。サークルに顔を出せば簡単に会えた日々はもう、戻ってこない。
でも大事な時期を邪魔するわけにもいかなかった。あの人は今、これからの人生を賭けて研究しているわけで、オレの恋はもちろんオレにとっての"人生の重大事"ではあったけれど、あの人には1ミクロンも関係のない話だ。あの人にとって何が大切で優先すべきことなのかを理解も出来ないようなやつが、好きだなんて言っていいはずがなかった。
オレに出来ることはあの人に会えた時にもう一度最初からやり直せるように、あの人に認めてもらえる自分になっておくこと、それだけだった。
だけど弱くて情けないガキの部分はワガママにまだあの人を求めていて、オレの姿をどこかで見かけて少しでも胸が波立ってくれないか、とすら思っていた。
どうか忘れないで。
なかったことにしないで。
もう一度会える時まで、オレの大好きなあなたのままでいて。
そう心から願いながら砂を噛み締める思いで毎日を生きていた。
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