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44. 救出2

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「あぁ、それから、アイリス嬢に生きていて欲しくない理由は他にもあるよね。レナードのお気に入りを消さなければ、自分の娘を嫁にやれないものね。」

アーネストは、まるで虫ケラでも見るような軽蔑の視線をバートランド侯爵に投げつけながら辛辣な追及を続けた。

彼の言葉には容赦がなかった。
表情こそは穏やかに笑っているように見えるけども、自分が利用されそうになった事に心の底から怒っていたのだ。

そんなアーネストからの指摘に、バートラント侯爵は即座に何も言い返せなかった。
彼は暫く無言でワナワナと手を振わせると、真っ赤な顔で叫んだのだった。

「いいか、武器を捨てて道を開けるんだ。この娘の喉を掻っ切るぞ!!」
「やめろ!!」
侯爵が自棄を起こしているのは一目瞭然だった。もはや彼は何をしでかすか分からない。

レナード達はアイリスの身が危険だと判断して、侯爵を少しでも刺激しないように言われた通りに剣を床に置いたのだった。

……一人を除いては。

「ぜ……全員剣を床に置けっ!!!」
「なんで?僕にはその彼女関係ないもん。それより、僕のことを嵌めようとしていたバートラント卿をみすみす取り逃すわけないよね。」
アーネストだけは、侯爵の要求に従わなかったのだ。

「人が目の前で死んでもいいのか!!武器を置け!!」
「おかしな事を言うんですね。僕が剣を手放さなかったとしても、貴方が短剣を彼女に刺さなければ、彼女は死なないでしょう?僕の行動によって彼女の生死が決まるんじゃない。貴方次第なのだから。人のせいにしないで下さい。」
「アーネスト、おいっ!!」
レナードは、アーネストの腕を掴んで咎めた。今は、侯爵を刺激して欲しくなかったのだ。

「殿下、私のことは気にしないでください!私には月の加護の魔法がありますから!!」
アイリスは必死に叫んだ。

月の加護の魔法はとっくに発動済みで、怖くないと言ったら嘘になるが、自分のせいでレナードが窮地に立つような事になって欲しくなかったのだ。
彼の足は引っ張りたくない。その思いの方が強かった。

「殿下!!」
躊躇っているレナードに対して、アイリスはもう一度大きな声で呼びかけた。
そして、アイリスの叫びをキッカケに、場は一気に動いたのだった。

「五月蝿いぞ!黙れ!!」
彼女の叫び声に気を取られて侯爵が目の前に対峙するレナード達から一瞬目を逸らした隙を見逃さずに、レナードとカーリクスが同時にバートランド卿に飛びかかり体当たりで侯爵の体勢を崩すと、手に握っている短剣を叩き落とし、そのまま床に組み伏せたのだ。

それは、あっという間の出来事だった。

「アイリス嬢、怪我は……アイリス?!」
レナードは床に座り込んだアイリスに手を差し伸べようとして、彼女の姿を見て肝を冷やした。アイリスは、肩を切りつけられて出血していたのだ。

「どうして?!貴女は月の魔法をかけていたのではなかったのか?!」
「実は……殿下が来る前に既に発動しておりました……」
「知っていたら、こんな強引な真似しなかった!!」
「良いんですよ。正しいご判断です。悪党の言うことに耳を貸してはいけませんわ。」
痛みを堪えながらアイリスは笑ってみせた。
彼に自分を責めて欲しくないから。
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