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43. 救出1
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部屋に入ってきたその人物を見て、アイリスは我慢していた涙を思わず流してしまった。
それは、安心からの涙だった。
「殿下!!」
入って来たのは、レナードにルカスとカーリクス。そして何故か第二王子のアーネストも一緒だった。
彼らの姿を見てアイリスは心底安堵した。
レナードが助けに来てくれた事が嬉しかったのだ。現状は相変わらず床に組み敷かれたままで、侯爵の手には短剣も握られているので、危機的な状況には変わりないが、それでも、味方が側に来てくれたと言うことが何より心強かったのだ。
しかしホッとしたのも束の間、アイリスはバートラント卿に腕を掴まれて立たされると、喉元にナイフを突きつけられたのだった。
「何をする気だ、バートラント卿。彼女を離せ!!」
「意外でしたね。まさか両殿下が揃ってお越しになるとは思いませんでした。」
そう、それはアイリスにとっても思ってもみない事だった。
レナードとルカスとカーリクスは分かるのだが、何故この場にアーネストまで居るのかが、全く分からないのだ。
アイリスは怪訝そうにアーネストを見ると、彼はとても顔を顰めて不愉快そうにバートラント卿と対峙していた。
「そちらのお嬢さんが誘拐されたって手紙が最初に来た時に、レナードが僕のところに怒鳴り込んで来てね。本当、いい迷惑だったんだよね。」
面倒くさそうに、アーネストが答えた。
彼が言うには、レナードにアイリス誘拐の脅迫状が届いた時に、レナードはルカスの静止も聞かずに真っ先にアーネストの執務室に飛び込んで「お前が仕組んだのか?!」と、詰め寄ったのだそうだ。
「全く、いくら僕が普段からレナードの嫌がるような事ばかりやっているからといって、疑うのはやめて欲しいよね。非人道的な事はする訳無いじゃないか。」
アーネストはやれやれといった身振りを大袈裟にすると、それから真顔になって、バートラント侯爵を更に追及したのだった。
「よくよくレナードから話を聞くと、脅迫状の内容は、あたかも第二王子派からの要求の様に見せかけていたけど、その内容はバートラント侯爵、貴方にも利があるものだった。けれども、交渉にレナードが応じるか否かはそんなに重要じゃなかったんだ。重要なのは彼女を殺して第二王子派の誰かに罪をなすりつけて、そして僕とレナードの対立を決定的な物にする。そうしたかったんだろう?」
アーネストからの指摘に、バートラント侯爵は何も言わなかった。図星なのだ。
短剣を持つその手が小刻みに震えていた。
「有りもしない火種をでっち上げるなんて本当に冗談じゃないよ。大変腹立たしかったからね、普段なら絶対に教えてあげなかったんだけど、今回だけは優秀な部下から得ていた報告内容を、レナードに特別に教えてあげたのさ。僕って慈悲深いしね。」
アーネストはそう言うと、部屋の中を見渡して、端の方に立つその人物を見つけると満足そうな顔をして労いの言葉をかけたのだった。
「カリーナ、ご苦労だったね。」
「もったいないお言葉です。」
そこにはいつの間にか部屋に入ってきていたカリーナが立っていて、彼女はアーネストに恭しく頭を下げたのだった。
そう、彼女はバートランド侯爵の騎士などではなく、アーネストが王太子側陣営に放っていた優秀な手駒の一人だったのだ。
それは、安心からの涙だった。
「殿下!!」
入って来たのは、レナードにルカスとカーリクス。そして何故か第二王子のアーネストも一緒だった。
彼らの姿を見てアイリスは心底安堵した。
レナードが助けに来てくれた事が嬉しかったのだ。現状は相変わらず床に組み敷かれたままで、侯爵の手には短剣も握られているので、危機的な状況には変わりないが、それでも、味方が側に来てくれたと言うことが何より心強かったのだ。
しかしホッとしたのも束の間、アイリスはバートラント卿に腕を掴まれて立たされると、喉元にナイフを突きつけられたのだった。
「何をする気だ、バートラント卿。彼女を離せ!!」
「意外でしたね。まさか両殿下が揃ってお越しになるとは思いませんでした。」
そう、それはアイリスにとっても思ってもみない事だった。
レナードとルカスとカーリクスは分かるのだが、何故この場にアーネストまで居るのかが、全く分からないのだ。
アイリスは怪訝そうにアーネストを見ると、彼はとても顔を顰めて不愉快そうにバートラント卿と対峙していた。
「そちらのお嬢さんが誘拐されたって手紙が最初に来た時に、レナードが僕のところに怒鳴り込んで来てね。本当、いい迷惑だったんだよね。」
面倒くさそうに、アーネストが答えた。
彼が言うには、レナードにアイリス誘拐の脅迫状が届いた時に、レナードはルカスの静止も聞かずに真っ先にアーネストの執務室に飛び込んで「お前が仕組んだのか?!」と、詰め寄ったのだそうだ。
「全く、いくら僕が普段からレナードの嫌がるような事ばかりやっているからといって、疑うのはやめて欲しいよね。非人道的な事はする訳無いじゃないか。」
アーネストはやれやれといった身振りを大袈裟にすると、それから真顔になって、バートラント侯爵を更に追及したのだった。
「よくよくレナードから話を聞くと、脅迫状の内容は、あたかも第二王子派からの要求の様に見せかけていたけど、その内容はバートラント侯爵、貴方にも利があるものだった。けれども、交渉にレナードが応じるか否かはそんなに重要じゃなかったんだ。重要なのは彼女を殺して第二王子派の誰かに罪をなすりつけて、そして僕とレナードの対立を決定的な物にする。そうしたかったんだろう?」
アーネストからの指摘に、バートラント侯爵は何も言わなかった。図星なのだ。
短剣を持つその手が小刻みに震えていた。
「有りもしない火種をでっち上げるなんて本当に冗談じゃないよ。大変腹立たしかったからね、普段なら絶対に教えてあげなかったんだけど、今回だけは優秀な部下から得ていた報告内容を、レナードに特別に教えてあげたのさ。僕って慈悲深いしね。」
アーネストはそう言うと、部屋の中を見渡して、端の方に立つその人物を見つけると満足そうな顔をして労いの言葉をかけたのだった。
「カリーナ、ご苦労だったね。」
「もったいないお言葉です。」
そこにはいつの間にか部屋に入ってきていたカリーナが立っていて、彼女はアーネストに恭しく頭を下げたのだった。
そう、彼女はバートランド侯爵の騎士などではなく、アーネストが王太子側陣営に放っていた優秀な手駒の一人だったのだ。
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