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93. 魔導士登録へのお誘い(2回目)

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「お断りします!!」

 地面に大の字に寝っ転がりながら、ティルミオはディランの申し出に即答した。

 国への魔導士登録の話は、前にティティルナに持ちかけられた時にオデールから色々聞いていたので、ティルミオは即座にその申し出を断った。
 登録する事に、余りメリットが感じられないし、むしろ制約が増えそうで嫌だったのだ。

 けれどもディランは、無下に断られても諦めずにティルミオに食い下がったのだった。

「断るだなんて勿体無い!君の力は国の為に役立てるべきだ!!」

 しかしティルミオは、難色を示しながらディランに問い返した。

「……それって兵士になれって事だろ?」
「無論、そうだ。」
「じゃあ、やっぱり無理。妹と約束したんだ。危険なことはしないって。」

 それはティルミオにとって大事な約束であった。
 既に何度も危険な目に遭っているので、ちゃんと約束を守れているかと言ったら怪しいが、それでも、こればっかりは譲れなかったのだ。

 けれども、ディランはそれでも諦めずにティルミオを説得したのだった。

「冒険者だって、十分危険な仕事じゃ無いか?」
「う……それは、そうだけど……」

 ど正論な反撃に、ティルミオは思わず言葉に詰まってしまった。
 するとディランは、ティルミオが反論しないのを良い事に、更に畳み掛けて、ティルミオの説得を続けた。

「同じ危険な仕事でも、国所属になれば、毎月安定して給金が貰えるぞ。冒険者だと稼ぎが安定しないだろ?君は借金があると聞くし、悪い話じゃ無いだろう?」
「確かにそうだけど……」

 積み重ねられる正論に、ティルミオは返す言葉に困ってしまった。
 確かに、ディランが言っていることはその通りだとは思うのだ。
 けれどもティルミオは、そんな理屈では無く、それでも今の冒険者家業を辞めたく無かったのだった。

「でも、冒険者にはロマンがある!ほら、今回みたいにレアな魔物素材で一攫千金だってあるし!」

 これが、ティルミオが冒険者を続ける一番の理由であった。莫大な借金がある以上、一攫千金を諦められなかったのだ。
 観察眼と武具錬金という稀有なスキルを手に入れたからこそ、その可能性を諦めたく無かったのだ。

 だからティルミオは、冒険者を辞めたくないと反論したのだが、その反論の途中で、急に大切な事を思い出して、切迫した声でディランにある事を確認したのだった。

「あ……そうだ、俺の無実が証明されたから、あの宝玉って換金してもらえるよな?!」

 それはとても重要なことだった。これでもし、あの宝玉は没収されたままであったら、溜まったもんじゃないのだ。

 するとディランは、少しだけ困った様な顔をしたが、それでもティルミオの質問に、彼が望んでる答えを返したのだった。

「まぁ、管轄外なんで確実な事は言えないが、恐らくはそうだろうな。」
「良かった!!」

 それを聞いてティルミオは、心の底から安堵して、その場で仰向けに寝転がったまま目を閉じて胸を撫で下ろした。

(あぁ、良かった……これで税金の支払いはなんとかなりそうだ……)

 心配事が片付いて、ティルミオはすっかり安心した表情で地面に寝転がっていたのだが、しかしそんなティルミオの顔を、ディランは顰めっ面で覗き込んだのだった。

「……ところで、君はいつまでそうしてるんだ?」
「ん……?」
「とっとと立ってくれよ。早く帰るぞ。」

 ディランはティルミオがただ怠けて地面に寝転がってると思っていたのだ。
 だから彼は、早く街に帰りたくて、ティルミオに立ち上がる様に促したのだが、けれども、それは無理な話であった。

「えっ、いや……無理……魔力切れで動けない……」

 そう、ティルミオは魔力を使い切ってしまって、未だ全く動けないのだ。

「……」
「……」

 二人は顔を見合ったまま、お互いに押し黙った。

「……そういうのいいから……」
「いや、だから本当に動けないんだって!俺、魔力量少ないから、あの魔法一回で魔力切れを起こすんだよ!」

 すると、ようやくディランもこれがティルミオがふざけている訳ではなく、本当に動けないのだと察した。

「……前言撤回。君程度では、国の役に立ちませんね。」
「……そりゃどーも……」

 こうして、ティルミオへの魔導士登録のお誘いは、僅か数分で撤回されたのだった。
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