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59. フィオネの決意

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「フィオネ……?」

 突然泣きそうな顔で叫んだフィオネに驚いて、ティティルナは恐る恐る彼女の名を呼んだ。するとフィオネは、堰を切ったように心の内を吐き出したのだった。

「私は、働きもしないで両親やお兄様に守られてのうのうとアカデミーに通っているのに、その間にティナは、一人で立派にお店を運営して、更に新しい事まで挑戦しようとしているわ……」
「お店は別に一人で運営はしてないよ。お兄ちゃんもいるよ?」
「いつ来ても居ないじゃないの!あの男は役に立ちません!」

 ティルミオに対しての評価だけやけに厳しいと思ったが、そこはスルーしてティティルナはフィオネを落ち着かせようと、諭す様に話を続けた。

「ねぇ、フィオネ。私は遠くになんて行かないよ?ずっとここでパンを売るんだから。」
「物理的な距離じゃありませんわ。精神的な距離ですわ!」
「そんな、フィオネが距離を感じる程、私って変わってしまった?」
「……いいえ、ティナは変わってはないわ。……でも、成長したと思う。私と違って……」
「そうかな?私なんてまだまだだよ。でもそう評価してくれて有難うね。」

 ティティルナはフィオネの手にそっと触れて、彼女の不安を優しく包み込む様に微笑みながらそう答えが、しかし、それでもフィオネの表情は明るくはならなかった。

「ついこの間までは、一緒にアカデミーで学んでいたのに、ティナとどんどん距離が出来てしまって、自分が不甲斐なくて嫌ですわ!今の私では、頑張ってるティナとは不釣り合いですもの。きっとこのまま疎遠になってしまうんですわ!」
「そんな事ないと思うけど……?」
「いいえ、だって前みたいに毎日会えないじゃない!!私だけがこうして会いに来て、ティナは、昨日図鑑を借りたいって相談に来た意外は、私に全く会いに来てくれなかったじゃ無い!」
「あー……それは、ごめん。」

 フィオネに指摘されて、ティティルナは素直に謝った。確かに、お店で働き始めてからは、忙しくてフィオネを全く構っていなかったのだ。
 とはいえ借金返済の為に働かなくてはいけないティティルナに、毎日一緒にアカデミーに通っていた頃の様な時間は無く、以前の様に会えなくなるのは仕方のない事なのだ。

 だからその変化を受け入れられていない涙目のフィオネに対して、分かってもらえるように、ティティルナは彼女の目を見ながら諭す様に優しく語りかけたのだった。

「フィオネ、例え会う時間が減っても、私たちには積み重ねた想い出が沢山あるじゃない。想い出と共にあるこの親しみの気持ちは消えないでしょう?絆はずっとあるよ。」
「けれど、会わないとその気持ちも想い出も薄れますわ。」

 フィオネから言われたその言葉に、ティティルナは少し悲しそうな顔をして、一瞬言葉に詰まってしまった。
 けれども直ぐに微笑みを浮かべ直すと、フィオネを安心させるように言葉を続けた。

「会わないとその人の事も、想いも消えてしまうだなんて、そんなのは悲しい。私は絶対に忘れないよ。例えもう二度と会えなくてもね。」
「あっ……」

 少し悲しそうに微笑むティティルナの様子に、フィオネは自分が無神経な言葉を口にしていた事に気付いて、ハッとした。
 ティティルナは、両親には会いたくても会えないのだ。
 自分ばかりが寂しいと思っていたフィオネは、そんなティティルナの胸の内を感じ取って反省し、そして頑張っているティナに恥じない自分になろうと考えを改めたのだった。

「……ごめんなさい。私が寂しがっていてはダメね。いいですわティナ、みてなさい!私だって成長してみせますわ!!」
「うん、うん。その意気だよフィオネ!」
「そしていつか、貴女が日参したくなるような、立派な商会長になってみせますわ!」
「商会長はフィオンさんじゃないの?」
「……立派な、お兄様の右腕になってみせますわ!今に見ていらっしゃい!!」
「うん、頑張ってね!」

 ティティルナの言葉を受けて、フィオネは元気と自信を取り戻して笑顔でそう答えた。そして、そんな彼女につられてティティルナも少し陰っていた顔も、いつも通りの笑顔になったのだった。

「そうと決めたら、こんな所でお喋りしている暇はありませんわ!直ぐに帰って勉強ですわ!ティナ、貴女もせいぜい精進するのですね!!」
「うん、フィオネまたね。」

 こうしてフィオネは、言いたい事を言うだけ言って一人で勝手に満足すると、スッキリした顔で帰っていったのだった。

「……全く、嵐のような娘だにゃ。ティニャ、良くあの娘とまともに会話が成立するにゃぁ。」

 騒がしかったフィオネが去って店内が静かになると、今まで隠れていたミッケが、やれやれと言った感じで呆れながら顔を出した。
 ミッケは、五月蝿のはどうも苦手なのである。だから少し不機嫌になって居たのだが、ティティルナはそんなミッケをわしゃわしゃと撫でて気を紛れさせると、笑顔を向けて真っ直ぐに答えた。

「フィオネは面白い子だよ。ちょっと難解な所があるけど、慣れだよ。だって私たち、産まれた時から一緒にいるんだから。」
「そういうもにゃのか?」
「うん。そういうものだよ。」

 そんな会話で不機嫌になってたミッケを落ち着かせると、それからティティルナは、フィオネに持って来て貰った本をマジマジと見つめて、決意を新たに気合を入れ直したのだった。

「よし、私もフィオネに恥じない様に頑張ろう!ミッケ、早速この本で計画を立てよう!」
「そうだにゃ!ポーション作ってがっぽり稼ぐにゃ!」

 こうして、ティティルナとミッケは、ティルミオがマナポーションを買うのを忘れて帰ってくるとは露にも思わずに、図鑑を見てマナポーション作成計画を、アレコレと話し込んだのだった。
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