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55. そうだ、マナポーション作ろう!

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「ねぇお兄ちゃん。サーヴォルトさんの言ってたマナポーションって、飲むと魔力を回復させられる薬だよね?」
「あぁ、そうだな。」
「あのさ、お兄ちゃん。……マナポーション、私作れないかな?」

 来客の多かった一日が終わり、居住空間でティティルナは、テーブルの上でだらし無く横になっているミッケのお腹をフカフカしながら、ふと思い付いたことを口にした。

「うーん、材料の蒼生草は俺が採ってこれるし、作り方も……本で調べれば分量とかも分かるかも……作れなくは無いの……か?」
「もし、マナポーションが自作出来れば今よりもっと錬金術が使えて、そうしたら今よりもっとパンをお店に出せて、収入を増やせると思うの。良いアイディアだと思わない?!」

 ティティルナは、目を輝かせながら、この持論をティルミオに力説した。けれどもティルミオは手放しで妹の提案に賛同する事が出来なかった。

「確かに、そうだけど……でも、魔力を空にして、マナポーションで回復して……そんな事を繰り返して身体への負担は大丈夫なのか?」
 
 彼自身、魔力切れを一度体験してるので、あの時の気怠さを思い出すと、二の足を踏んでしまうのだ。
 すると、そんな兄妹のやり取りに、テーブルの上に横になったまま、ミッケが口を挟んだのだった。

「節度を持ってやれば大丈夫にゃ。けど、今のままじゃティニャはマニャポーションを作れにゃいにゃ。」
「えっ?そうなの?!」
「そうにゃ。錬金術は、自分が知らない物は作れにゃいからにゃ。」

 お腹を上にしてだらし無く寝転んだままなので、威厳というものは皆無であったが、ミッケは二人に大事な事を教えた。

「本を読めば知識として知る事が出来るけどそれじゃダメなのか?」
「成分だけ知ってても、紛い物が出来上がるにゃ。」
「と、言うことは私がマナポーションを作るには、一度それを使ってみないと駄目なのね?」
「そうにゃ。」

 この話を聞いて、ティルミオは、難しい顔をしてしばらく考える素振りをみせた。そして考えを纏めると、ティティルナにその考えを明かしたのだった。

「分かった、何とかしてマナポーションを買おう。」
「えっ、でも……マナポーションって高いんでしょう?」
「先行投資だよ!コレが作れるようになれら、もっと沢山のパンを作れるようになるだろう?」
「そっか、そうだよね!」
「あぁ、任せろ。明日買ってきてやるよ!」

 こうして、兄妹は少ない手持ちの中からマナポーションを購入する事を決めたのだが、しかしその決意は、翌日いともアッサリと揺らぐのであった。

 
***


「えっ?!マナポーションって30,000ゼラムもするのか?!」
「そうだよ。材料の蒼生草は集めるのに手間がかかるし、ルナストーンもレアな鉱石だし、なんか工程が複雑で作るのも大変らしいし、何より、普通の人はこんなの買わないけど、欲しい人は是が非でも買うから、値段が高いんだよ。」

 冒険者ギルドでマナポーションを買おうとして、余りの値段の高さにティルミオは伸ばしかけたその手を止めてしまった。
 コレを買ってしまったら、納税する為に貯めているお金が殆ど無くなってしまうのだ。
 横でジェラミーが、何でマナポーションこんなに高いのか理由を説明してくれているが、そんなの頭に入ってこない程、ティルミオは動揺していた。

「そ……そうなのか……。ここまで高いのか……」
「ん?お前マナポーション買うの?何で??」
「こ……後学の為……」

 ティルミオたちが魔法を使える事を知らないジェラミーにとって、そんな物を何故買おうとしているのか不思議だったが、特に深くは問わずに、話を続けた。
 
「ふうん?良く分からないけど、それはここ一週間分の稼ぎを注ぎ込むくらい、お前にとっては価値がある物なんだな?」
「の筈なんだけど、いや、でも、流石にコレは……」

 妹の為、今後の為にマナポーションを買うと決めて来たのに、いざ買う時になると、ティルミオは思ってたより高い値段に怯んでしまっていた。

「……ポーション、小分けで売ってくれないかな。三分の一位の量で、値段も三分の一で。」
「無理だろ。」
「……ここまで高いとは思ってなかった。」
「仕方ないだろ、材料の蒼生草もルナストーンも稀少なんだから。」
「そっかぁ……そうだよなぁ……」

 こうやってジェラミー相手に零した所でマナポーションの値段が安くなる訳でも無い事は分かっている。
 それでも、怖気付いた気持ちを立て直す為にティルミオは、ジェラミーと話をして冷静さを取り戻そうとしていたのだが、しかしここで、ジェラミーの言った聞き慣れない言葉に引っかかってしまったのだった。

「えっ、ちょっと待ってジェラミー、ルナストーンってなんだ?!マナポーションって蒼生草だけで作れるんじゃ無いのか?!」
「違うぞ。」

 あっさりと答えたジェラミーの言葉に、ティルミオは顔を青くした。
 ティルミオたちは、マナポーションの材料は蒼生草だけだと思っていたのだが、必要な材料が揃えられないとなると、錬金術でマナポーションを作るという計画の前提が覆ってしまうのだ。

(どーするんだよ、コレ……)

 ティルミオは、自分たちの見通しが甘かった事を反省し、そして次に打つべき手を頭をフル回転させて考えたのだった。
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