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46. けれどやっぱりパンが好き
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集めた古紙をティティルナの再生練金で白紙に戻して、頼まれていた大口の注文は無事に終えることが出来た。
再生練金は生産錬金より魔力量が少なくて済むとはいえ、八十枚もの紙を白紙に戻す作業は流石にそれだけで魔力を使い切ってしまうので、この日は他の錬金術が使え無くなってパンの販売は休まざるを得なかったが、それでも、パンを百個売るよりもこの紙の束を四束売った方が利益が大きいのだ。
正直言って、パンは売れるけれども利益はそこまで高くなく店舗運営には中々苦戦をしていた所だったので、あの紙の束の大口注文は、正に天の恵みだった。
それどころかあの男性客は、これから毎日、同じだけの紙を売ってくれと言ってきたのだ。固定客が付くのならば安定して簡単にお金が稼げるのでとても美味しい話なのだが、しかし、兄妹はその申し出を断って、今日もこうしてパンを沢山用意して、いつもと同じようにせっせとお店の準備をしたのだった。
「にゃあティニャ。にゃんであの話を断ったにゃ?」
開店前の店舗で、ミッケはカウンターの上からティティルナの顔を覗き込んで不思議そうにそう尋ねた。
どう考えてもお金を稼ぐのなら話を受けた方が良いのに、兄妹がそれを断った理由がどうしてもミッケには分からないのだ。
するとティティルナは、開店作業の手を止めてカウンターにちょこんと座るミッケにふわっと笑いかけると、その想いを語ったのだった。
「そうね。確かにあの男性の依頼は魅力的だったわ。紙の方が稼げるもの。でもね、カーステン商店のパンを楽しみにしてくれている人は沢山いるの。私はやっぱり、お父さんとお母さんのパンを、みんなに届けたいかな。」
「……そうだにゃ。」
ティティルナのその答えに、ミッケも納得して深く頷いた。
確かに、お金を稼ぐ事は大事だけれども、兄妹のその根本は両親のパン屋を継続させたいという強い想いがあるのだ。
その想いは大切にしなくてはいけないと、ミッケも兄妹の考えに寄り添ったのだった。
「あっ、でも、そうは言っても税金と借金は支払わないといけないから、週一位で受けるのはアリなのかも……?」
「そうにゃ!それがいいにゃ!!」
「そうね、その日はお店の定休日にして、紙の注文専門の日にするのはアリだよね!」
「有りにゃ!!」
そんな風にティティルナがミッケと楽しそうに今後の店舗運営戦略を話していると、開店前にも関わらず、店のドアが開いて難しい顔のフィオンが訪ねてきたのだった。
「ティナ、ちょっと良いかな?」
いつもと違う雰囲気の彼に、ティティルナは少しだけ緊張した。
今日は何も彼に怒られるようなことはしてないはずなのだが、今の彼の様子は、ティティルナたちにお説教をしたあの時と同じに見えるのだ。
フィオンが何を怒っているのか検討もつかないが、ティティルナは、恐る恐るフィオンに尋ねた。
「フィオンさん、何か有ったんですか?」
「そうだね、何かあったから来たんだよ。」
すると、フィオンは、大きなため息を一つ吐き出すと、とてもよく見覚えのある紙の束を取り出してティティルナに見せたのだった。
「コレを売ったのは君なのかい?」
「え、えぇ。昨日お客さんに頼まれて合わせて五束売ったわ。」
「……いくらで?」
「えっと、一束2,000ゼラムで……」
「2,000ゼラムだって?!」
その値段を聞いてフィオンは驚きの声を上げたので、ティティルナは何か自分たちがやらかしてしまったのだと察した。
「だ……ダメだった?!だって最初は5,000ゼラムで置いてたのよ?でも全然売れないから値段を下げてやっと売れたのよ。」
「5,000ゼラムでも安い方なのに、それより半額以下だなんて……」
ティティルナから値段を聞くと、フィオンは頭を抱えて暫く黙ってしまった。それは、余りに破格すぎるのだ。
「……そんなに安く売って、赤字じゃないのか?」
「あ、それは大丈夫なの。古紙を秘伝の方法でなんとかしてるので。」
「秘伝の方法でなんとか……?」
「はい、秘伝でなんとか。」
フィオンの口から、当然とも言える疑問が出て来たけれども、錬金術の事は言えないかったので、ティティルナはニッコリと微笑みながら雑に誤魔化した。
しかし、流石にこの説明だけでは彼も納得出来なかったようで、困惑した顔でティティルナをジッと見つめると、質問を続けたのだった。
「……それは一体?そんな凄い技をどこで覚えたんだ?」
「えーっと、家の中を整理してたら、偶然見つけた古い本に書いてあったの。」
「具体的にはどうやって古紙を白紙にするんだ?」
「それは……我が家の門外不出の秘伝の方法だから、いくらフィオンさんでも、教えられないからね!!」
フィオンからの執拗な追及にも、ティティルナは”秘伝の方法”という有りもしない技術で何とか乗り切ろうとそれしか言わなかった。だって他に説明しようが無いのだから。
するとフィオンは、頑なな態度のティティルナに諦めたのか、察したのか、とにかくこれ以上の詮索は無駄だと判断して、次の議題に話を移したのだった。
再生練金は生産錬金より魔力量が少なくて済むとはいえ、八十枚もの紙を白紙に戻す作業は流石にそれだけで魔力を使い切ってしまうので、この日は他の錬金術が使え無くなってパンの販売は休まざるを得なかったが、それでも、パンを百個売るよりもこの紙の束を四束売った方が利益が大きいのだ。
正直言って、パンは売れるけれども利益はそこまで高くなく店舗運営には中々苦戦をしていた所だったので、あの紙の束の大口注文は、正に天の恵みだった。
それどころかあの男性客は、これから毎日、同じだけの紙を売ってくれと言ってきたのだ。固定客が付くのならば安定して簡単にお金が稼げるのでとても美味しい話なのだが、しかし、兄妹はその申し出を断って、今日もこうしてパンを沢山用意して、いつもと同じようにせっせとお店の準備をしたのだった。
「にゃあティニャ。にゃんであの話を断ったにゃ?」
開店前の店舗で、ミッケはカウンターの上からティティルナの顔を覗き込んで不思議そうにそう尋ねた。
どう考えてもお金を稼ぐのなら話を受けた方が良いのに、兄妹がそれを断った理由がどうしてもミッケには分からないのだ。
するとティティルナは、開店作業の手を止めてカウンターにちょこんと座るミッケにふわっと笑いかけると、その想いを語ったのだった。
「そうね。確かにあの男性の依頼は魅力的だったわ。紙の方が稼げるもの。でもね、カーステン商店のパンを楽しみにしてくれている人は沢山いるの。私はやっぱり、お父さんとお母さんのパンを、みんなに届けたいかな。」
「……そうだにゃ。」
ティティルナのその答えに、ミッケも納得して深く頷いた。
確かに、お金を稼ぐ事は大事だけれども、兄妹のその根本は両親のパン屋を継続させたいという強い想いがあるのだ。
その想いは大切にしなくてはいけないと、ミッケも兄妹の考えに寄り添ったのだった。
「あっ、でも、そうは言っても税金と借金は支払わないといけないから、週一位で受けるのはアリなのかも……?」
「そうにゃ!それがいいにゃ!!」
「そうね、その日はお店の定休日にして、紙の注文専門の日にするのはアリだよね!」
「有りにゃ!!」
そんな風にティティルナがミッケと楽しそうに今後の店舗運営戦略を話していると、開店前にも関わらず、店のドアが開いて難しい顔のフィオンが訪ねてきたのだった。
「ティナ、ちょっと良いかな?」
いつもと違う雰囲気の彼に、ティティルナは少しだけ緊張した。
今日は何も彼に怒られるようなことはしてないはずなのだが、今の彼の様子は、ティティルナたちにお説教をしたあの時と同じに見えるのだ。
フィオンが何を怒っているのか検討もつかないが、ティティルナは、恐る恐るフィオンに尋ねた。
「フィオンさん、何か有ったんですか?」
「そうだね、何かあったから来たんだよ。」
すると、フィオンは、大きなため息を一つ吐き出すと、とてもよく見覚えのある紙の束を取り出してティティルナに見せたのだった。
「コレを売ったのは君なのかい?」
「え、えぇ。昨日お客さんに頼まれて合わせて五束売ったわ。」
「……いくらで?」
「えっと、一束2,000ゼラムで……」
「2,000ゼラムだって?!」
その値段を聞いてフィオンは驚きの声を上げたので、ティティルナは何か自分たちがやらかしてしまったのだと察した。
「だ……ダメだった?!だって最初は5,000ゼラムで置いてたのよ?でも全然売れないから値段を下げてやっと売れたのよ。」
「5,000ゼラムでも安い方なのに、それより半額以下だなんて……」
ティティルナから値段を聞くと、フィオンは頭を抱えて暫く黙ってしまった。それは、余りに破格すぎるのだ。
「……そんなに安く売って、赤字じゃないのか?」
「あ、それは大丈夫なの。古紙を秘伝の方法でなんとかしてるので。」
「秘伝の方法でなんとか……?」
「はい、秘伝でなんとか。」
フィオンの口から、当然とも言える疑問が出て来たけれども、錬金術の事は言えないかったので、ティティルナはニッコリと微笑みながら雑に誤魔化した。
しかし、流石にこの説明だけでは彼も納得出来なかったようで、困惑した顔でティティルナをジッと見つめると、質問を続けたのだった。
「……それは一体?そんな凄い技をどこで覚えたんだ?」
「えーっと、家の中を整理してたら、偶然見つけた古い本に書いてあったの。」
「具体的にはどうやって古紙を白紙にするんだ?」
「それは……我が家の門外不出の秘伝の方法だから、いくらフィオンさんでも、教えられないからね!!」
フィオンからの執拗な追及にも、ティティルナは”秘伝の方法”という有りもしない技術で何とか乗り切ろうとそれしか言わなかった。だって他に説明しようが無いのだから。
するとフィオンは、頑なな態度のティティルナに諦めたのか、察したのか、とにかくこれ以上の詮索は無駄だと判断して、次の議題に話を移したのだった。
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